◆サイクス・ピコ100年で引き裂かれた住民の思いを利用するIS
前回に続き、武装組織イスラム国(IS)による2014年の国境検問所制圧と国境線解体の映像。撮影場所はイラク北西部の同じ検問所テル・サフィク。前回は英語ISメディア部門アル・ハヤットが制作したものだが、こちらは別のメディア部門イッティサームがアラビア語で公開したもの。最高幹部2人が直接登場し、サイクス・ピコ協定が画定した「国境解体」をアピールした意味は大きい。この時、ISはモスルを制圧し、バグダディ師が初めて公にカリフとして姿を現して「カリフ再興」を宣言するなど、最も高揚していた時期である。こうした高揚感は、映像の最後に出てくるシーア派兵士を集団殺戮したスペイサー虐殺事件とつながっている。映像には地元住民の「インタビュー」が挿入され、サイクス・ピコ協定で100年にわたる分断された人びとの思いまでISが巧みに利用しようとしているのがわかる。
【動画・日本語訳】国境の解体(2014) (一部意訳・転載禁止) (残酷映像部分にボカシを入れていますが一部過激映像も含まれます)
これは イラク北西部のテル・サファク近郊の国境検問所を制圧したもの。 グルジア出身のアブ・オマル・シシャニと、ISスポークスマン、アブ・ ムハンマド・アル・アドナニ自身が登場し、国境解体をアピールしている。英仏 帝国主義による勝手な国境線画定は、これまで イラクでもシリアでもアラブ 民族主義運動が批判したことはあれど、実際に国境が解体されることはなかった。ISは初めてこれを映像化して見せつけた意味で、アラブ圏、 イスラム圏に大きな インパクトを与えたと言える。冒頭の歌の「猿どもの子孫が引いた国境線」の「猿ども」とは暗に ユダヤ人を指していると思われる。捕虜となった国境警備兵が言わされる「 イスラム国よ、永劫に!」はISのスローガンで、湯川遥菜さんが拘束された際の映像でも、銃を突きつけられ、この言葉を言わされている。
|
ISの超大物幹部、グルジア出身の司令官アブ・オマル・シシャニ(左)とISスポークスマン、アブ・ムハンマド・アル・アドナニ(右)。これは各国のIS共鳴者に大きなインパクトを与えた。(IS映像・2014年)
|
アブ・オマル・シシャニ自身がブルドーザーを操縦しシリア・イラク国境の防壁の盛り土を崩して、国境解体をアピールしている。宣伝効果も含め、サイクス・ピコ国境線の破壊は、ISにとってはそれほど意義のあるものであった。アブ・オマル・シシャニは今年3月、空爆で死亡と米軍が公表したが、ISは現在までのところ死を認める声明は出していない。(IS映像・2014年)
|
ブルドーザーが国境の盛り土を切り崩し、車両の通行路を開けている様子が映し出される。(IS映像・2014年)
|
イラク軍から奪ったハンヴィーをシリアに移送。キャプションには「人工の国境を破壊し戦利品がイラクからシリアに向かう」とあり、サイクス・ピコ国境線を壊してISの支配地域を一体化させ、接収品を勝利的に手にしたことを強調している。(IS映像・2014年)
|
大量に強奪されたイラク軍のハンヴィー。荷台に一気に4台も載せている。(IS映像・2014年)
|
イラク軍や国境警備隊はあいついで殺害された。「サイクス・ピコ国境警備兵の末路」とテロップが付けられ、銃殺する凄惨なものだ。(IS映像・2014年)
|
これは昨年6月、イラク・シリア国境のワリード検問所をISが襲撃し、制圧したときのもの。ここでもサイクス・ピコ協定の国境線破壊の意義が掲げられている。(IS映像・2015年)
同じくワリード検問所奇襲戦を伝える写真。おそらくイラク軍の戦闘車両BMP-1。(IS映像・2015年)
|
これは今年3月、シリア側からアッ・タナフ検問所を制圧したときのもの。米軍はISは一時支配していたイラク国内の支配地域の40%をすでに失ったとしているものの、いまも一部地域では侵攻を続けている。(IS関連機関アマーク映像・2016年)
|
<<【動画】サイクス・ピコ国境線の解体掲げたIS【1】に戻る
最新記事更新案内はツイッターで>>