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ウクライナ暫定政権の決定に大きな影響を与える米CIA

編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

4月15日についにウクライナ政府軍と親ロシア派武装部隊がウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスクで武力衝突し、最も恐れていた事態が現実のものとなった。インターファックス通信の報道によると、その混乱の中で、ハリコフ州やドネツク州に続いて沿ドニエストル共和国議会も16日、ロシアのプーチン大統領や国連などに宛てた独立承認を要請する文書を採択したと伝えられており、ウクライナ危機の影響が隣国モルドバにも飛び火している状況だ。

さらに、ウクライナ南部オデッサ州でも親ロシア派が「オデッサ人民共和国」の樹立を宣言している。特にモルドバについては、3月6日の米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道の中で、リトアニア共和国のダリア・グリボウスカイテ大統領の次のような発言が報じられていた。

「私たちが今日欧州で目にしている現実の危険は、戦後の国境線の書き換えです。ロシアは私たちにそのシグナルを送ってきているのであり、私たちはそれを正しく理解する必要があります。ウクライナの次にはモルドバであり、その次にはさらに別の国に移ることになるでしょう」

今回沿ドニエストル共和国議会によるモルドバからの独立要請という事態は、グリボウスカイテ大統領の言葉が違う形ではあるが、現実のものとなったようだ。

4月13日の拙稿「(続報)米国政府機関がウクライナのクーデターに資金提供を行っていた」で米国の国務省がウクライナの政府転覆に向けた裏工作を主導していたことについてお伝えしたが、今回の武力衝突に至る過程で、米国の中央情報局(CIA)のウクライナとの関わりも明らかになってきている。

本稿では、ウクライナにおけるCIAの動きについて注目してみたい。まずは、第四インターナショナル国際委員会が運営している「The World Socialist Web Site」というウェブサイトに4月15日に掲載された記事の内容についてご紹介したいと思う。

世界中のクーデターや謀略、暗殺計画を工作してきた歴史を持つCIA

2月に首都キエフで起こった欧米の支援を受けたクーデターの後、ウクライナ東部のスラビャンスクで親ロシア派勢力による抗議活動が広がり、州政府庁舎を占拠する中で、米国のオバマ政権はロシアに対する非難、恫喝、挑発を強めている。

米ホワイトハウスはこれまで激しく否定してきたが、ここへきてCIAのジョン・ブレナン長官が先週末にキエフを訪れていたことを明らかにした。これは、米国がウクライナ危機に対して介入の度合いを強めていることの表れだ。ブレナン長官は偽名を使ってウクライナ入りしたが、その目的は米国とその同盟国が2月のクーデターを周到に扇動することで意図的に作り出した危機をさらに利用するための方策について話し合うことだった。

ロシアのラブロフ外相がブレナン長官の極秘訪問の意図についての説明を求める一方で、2月のクーデターによって失脚したヤヌコビッチ前大統領はブレナン長官が東部の親ロシア派勢力による抗議活動に対する鎮圧命令を出したことについて批判を展開した。

CIAは当初このような批判に対して「全く間違っている」として一笑に付していたが、14日(月)になってホワイトハウスのカーニー報道官は、次のような声明を発表した。

「通常はCIA長官の渡航日程についてはコメントしないが、今回の特別な事情とロシアによるCIAへの誤った考えを考慮し、ブレナン長官が欧州訪問の途中でキエフを訪れたことをここに明らかにする」

カーニー報道官は記者団に対して、さらに次のように述べている。

「情報機関のトップレベル同士の訪問は米露の情報協力を含めた相互の利益となる安全保障上の協力を促進するための一般的な方法だ。米国の政府高官が他国の政府高官と会談することにそれ以外の意味があると考えるのはバカげている」

いや、それどころか、ブレナン長官が内密にウクライナ入りしたことには深い意味はなく、ロシアとの安全保障協力を推進することが目的だったと考える方が明らかにバカげている。CIAの過去の文書記録を見れば、同諜報機関がこれまでに1965年から1966年のインドネシアや1973年のチリなど世界中のクーデターや謀略、暗殺計画を周到に工作・操作してきた歴史が明らかになるからだ。

オバマが2012年の大統領選挙で再選を果たした後にCIA長官に任命されたブレナンは、米国によるイラク占領やCIAによる拘束者への拷問、米国の市民を含めた遠隔操作無人機による殺人に深く関わってきたことで知られている。ブレナンは現在は、ブッシュ前政権における拘留や尋問強化プログラムの検証を行っている議会上院の議員に対するCIAのスパイ活動を巡るスキャンダルの渦中にいる。

ウクライナ暫定政権の能力を信用していない米国

さらにここで、イタルタス通信が4月15日に伝えた内容について、以下にまとめてみたい。

米国連邦捜査局(FBI)、司法省、国務省を含めた米国の複数の政府機関がウクライナに専門家を派遣し、安全保障、法執行、国内問題および国際的な連絡態勢に関する問題についてウクライナ暫定政権の活動を調整・支援している。ウクライナ保安局(SBU)の情報筋によると、その理由は、ウクライナ政府当局に自分たちだけでそれらの問題に対処できるだけの能力がないからだということだ。

同情報筋は、次のように述べている。

「ウクライナの法執行当局には南東部で情報収集を行うことができないことが明らかになったため、現在、ウクライナ駐在の米国大使館付き国防武官が外交官免除特権を使って情報収集に当たっている」

同情報筋は、さらに次のように述べている。

「ウクライナの正規軍は非効率的な動きしかすることができず、新しい政権は信頼できないため、反テロ作戦の準備をしているウクライナの指導者たちに対して、米国は南東部の居住地域の境界線を遮断する場合にのみ武力を行使するように助言している」

ホワイトハウスのカーニー報道官は14日(月)、CIAのジョン・ブレナン長官が先週末欧州訪問の途中でキエフを訪れていたことを明らかにした。ロシア議会下院国際委員会のアレクセイ・プシュコフ委員長は、次のように述べている。

「CIAのブレナン長官のキエフ訪問は、ウクライナの暫定政権が独立しておらず、あらゆることに関して米国と協議していることをまさに証明している。ウクライナの一部で現政権を承認しないとしているのもうなずける。こういう暫定政権と米国との接触は、米国がウクライナの政権交代の裏で暗躍し、自国の利益に適う政権を樹立したことを証明している」

CIAとつながっていたナリパイチェンコSBU長官

また、3月13日のインターファックス通信の報道した内容について、以下にまとめてみたい。

ウクライナ保安局(SBU)のオレクサンドル・ヤキメンコ前長官は、現在のヴァレンティン・ナリパイチェンコ長官が2006年から2010年にかけてSBU職員の個人ファイルを米国のCIAに流していたと述べている。ロシアの国営テレビ放送「Rossiya 24」で3月12日(水)に放送されたインタビューの中で、ヤキメンコ前長官は、次のように述べている。

「CIA職員がナリパイチェンコの下でSBU内で活動していた。その過程でSBU職員の個人ファイルがCIAに提供された」

ナリパイチェンコに関する調査が進行中だったが、その調査が最後まで遂行されることはなかった、とヤキメンコ前長官は語っている。ヤキメンコ前長官はまた、ウクライナ暫定政権の任命権をクーデター派が握っているという見方には反対し、次のように述べている。

「それは間違った見方だ。クーデター派は誰の任命権も持っていない。任命権を握っているのは米国だ」

さらに、ヤキメンコ前長官は、独立広場で政府転覆に加わった勢力に対する資金提供は(外務省と在外大使[公使]館との間の)外交通信郵便(外交行嚢=がいこうこうのう)を通して欧米諸国から送られた可能性を否定していない。ヤキメンコ前長官は、次のように述べている。

「SBU職員である我々は、独立広場でのデモが始まった最初の頃からウクライナ大使館に送られてくる外交行嚢が増えていたことを知っている。それは通常の外交行嚢をはるかに超えたレベルのものだった。それがきっかけで独立広場に新しいドル札が出現した」

ヤキメンコ前長官はこれについて、独立広場の近くに住んでいる交換将校がほのめかした話だと述べている。また、ヤキメンコ前長官は、米国はウクライナの情勢悪化に関心を持っていたとして、次のように述べている。

「米国は欧州、ウクライナ、ロシアの三者間による連合形成という考え方が気にくわなかっただけなのだ。米国は関税同盟を嫌っていた」

ここまでがインターファックス通信の報道のまとめだが、ツイッターのロシアに詳しい方たちが集まっているロシアクラスタのある方の4月15日のツイートによると、このヤキメンコ前長官は4月14日のロシア国営放送局の番組にも出演し、次のような内容を暴露していたという。

ヤキメンコ前長官

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画像:https://twitter.com/hitononaka/status/455835405686824961

現在、ウクライナ保安局(SBU)が1フロアを米諜報機関CIAに提供していること、このCIAがウクライナ暫定政府の決定に大きな影響を与えていることを暴露。

さらに、SBUのナリパイチェンコ現長官が2006年以来CIAと深いつながりを持っており、駐米領事時代にCIAに買収されたこと、彼を含む十数人をCIAのスパイとして調査していた際に更迭されたことも暴露。

ナリパイチェンコ現長官

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画像:https://twitter.com/hitononaka/status/455835942637420544

ヤキメンコ前長官は、CIAが作成済みのウクライナ東部制圧計画を米国から持参しており、あとは実行するだけの状態であることも指摘し、「米国はウクライナを混乱させる計画を持ってきた。今必要なことは住民投票と大統領選挙である」と述べた。

今回ご紹介した三つの記事を読むと、米国の国務省以外にも、CIAも裏でウクライナに対して工作を行っている様子がうかがわれる。武力衝突が現実のものとなり、ウクライナ各地で次々と独立宣言する動きが噴出している中で、5月25日には大統領選挙も控えている。

2004年のオレンジ革命も裏で欧米が動いており、今回のキエフでのクーデターも欧米による工作が成功しただけに、5月の大統領選挙の裏でも欧米が様々な策略をめぐらしてくる可能性があるということは十分に想像できるだろう。

【参照記事】

The Wall Street Journal: EU Calls On Russia to Negotiate With Ukraine

The World Socialist Web Site: CIA director in Ukraine as Washington steps up threats against Russia

ITAR-TASS News Agency: US sends specialists to Ukraine to coordinate activity of its state structures

Interfax: Head of Ukraine’s SBU provided Ukrainian special service officials’ personal files to CIA – Yakimenko

 

Photo : Flickr

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Kazuya Hirai

Kazuya Hirai

平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/