日ごろ何気なく利用している路線バス。最近は車体に広告のラッピングを施したバスも増え、銀色にラインカラーの帯が一般的になった電車と比べて見た目はカラフルな印象だ。だが、車内の色はどれも似ている・・・・・・と感じたことはないだろうか。
電車の場合、JRの中央線快速ならオレンジ色系統の座席、山手線は青緑色の座席、小田急線の新型車はピンク色の壁・・・・・・など、内装も路線や鉄道会社によって色調が異なることが多い。一方、最近の路線バスの場合は色の濃淡や柄の個性はあるものの、床はグレー、手すりはオレンジ色、押しボタンは黄色、座席は青系の色という配色が一般的だ。
たとえば、都営バスの座席にはマスコットキャラクターの「みんくる」が描かれているが、シートの地は青。1月の東洋経済オンライン記事で「コンセント付きバス」として紹介した西東京バスのラッピングバス「にしちゅんバス」も、キャラクターをあしらったシートは明るい青だ。以前は都市部でも、座席が緑色や真っ赤のバスをよく見かけたはずだが、同じような内装色のバスが増えてきたのはなぜだろうか。■ 色もバリアフリーの一環だった
実は、これには近年進化してきたバスのバリアフリー化が関係していた。出入口に段差がなく、乗り降りのしやすいノンステップバスの普及だ。国土交通省はノンステップバスの導入を広めるため、メーカーやバス会社によって異なる仕様の標準化によるコスト低減などを狙い、2004年に「標準仕様ノンステップバス」の認定制度を設けた。
この制度では、例えば「車いすが移動する部分の通路幅は800mm以上とする」「縦握り棒に配置する押しボタンは床面より1400mm程度の高さとする」など、各部分の認定項目が定められており、これを満たすバスを「標準仕様ノンステップバス」として認定している。この中に「室内色彩」という項目もある。
「室内色彩」の項目では「座席、縦握り棒、通路及び注意箇所などは高齢者や視覚障害者にもわかりやすい配色とする」などの仕様が記載されており、この中に「縦握り棒、押しボタンなど、明示させたい部分には朱色または黄赤を用いる」とされている。手すりや押しボタンの色はこれに従っているわけだ。黄赤とは、要はオレンジ色のことだ。
ここでは、座席や床については特に色は示されていない。国土交通省自動車局技術政策課によると、座席や床の色については「十分な明度の差を付けるという規定はあるが、色自体は特に指定していない」という。
だが、「バリアフリー新法」に基づいて国交省が策定した「バリアフリー整備ガイドライン」には「参考例」としてバス車内の色彩の組み合わせの例が掲載されており、これによるとシート表皮は「ブルー系」、床や通路は濃いめのグレーである「ニュートラル・グレー」、天井や壁面は「淡色グレー」となっている。いずれも明度に差があり、コントラストがはっきりするよう配慮された配色だ。
■ 実はシステマティック? バスの内装
交通バリアフリーの普及推進活動などを行う公益財団法人・交通エコロジー・モビリティ財団によると、この配色の参考例はバスやトラックなどの車体メーカーなどが加盟する業界団体による「目安」だという。同財団の担当者は「床を汚れが目立ちにくい濃いグレーとすると、コントラストの差を付けるために壁や天井は明るめのグレーになる。その中で座席を目立たせ、かつ汚れがあまり目立たない色となると青系になってくる」と話す。
もっとも、コントラスト(明度)の差がついて見分けが付きやすければ問題はないため、青系統でも濃い色から明るい色までバリエーションはさまざまで、そのため青地のシートにマスコットを描いたり、模様を入れたりするなどの個性が付けられるのだという。手すりや押しボタンはオレンジ系、ステップ部分は黄色、そして床や座席はほかの部分とコントラストがはっきりした色と、バス車内の内装はシステマティックに決まっているのだ。
「標準仕様ノンステップバス」の仕様は制度の開始以降も改良が加えられており、昨年7月にも一部が改正され、ベビーカーを折り畳まずに乗車できるフリースペースが設けられるようになるなどの変更が加えられた。標準仕様ノンステップバスの認定を受けたバスにはステッカーが貼ってあり、最新の仕様はピンク色が目印だ。
国交省の資料によると、2015年3月末時点でノンステップバスは全国に2万1074台あり、全国を走る乗合バス(路線バス)車両の35.1%。2005年の6974台から10年で約3倍に増えた。全体の車両数から、構造や運行などの点でバリアフリー新法の適用外と認定された「適用除外認定車両」の約1万5000台を除けば47%となる。
目標では2020年度までに適用除外認定車両を除く約5万台のバスのうち7割をノンステップバスにすることとなっており、今後も「手すりがオレンジ色」のバスが増えていきそうだ。
小佐野 景寿
読み込み中…