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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 意識や五感は正常なまま、手足などが動かなくなり、やがて呼吸も困難になる。体を動かす神経が徐々に侵される難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)に苦しむ人々にとり、文字盤を使っての意思表示は大切な「口」だ

▼文字盤に書かれた五十音や数字を、目の動きなどで示して「話す」。ALSで逝った母を介護した経験のある川口有美子さんの著書『逝かない身体』には、こういうくだりがある

▼<文字盤のサ行の「し」とナ行の「に」タ行の「た」は接近していて、瞳をそれほど動かさずに、指し示せる言葉である。「死にたい」はALS患者のあいだでは頻出単語である>

▼呼吸困難になっても人工呼吸器を着ければ生き続けることができるのに、七割の患者は装着せずに亡くなっていくという。家族が背負う介護の重荷などを考慮して、死を選ぶ人も多いというのだ

▼きのう参議院の厚生労働委員会で、ALSを患う岡部宏生(ひろき)さん(58)が参考人として意見陳述した。当初は衆院厚労委に出る予定だったが、断られた。その理由が「患者を参考人とすると、質疑に時間がかかるので」だと聞けば、怒るより先に泣きたくなる

▼岡部さんの意見陳述で印象的だったのは、その口と目の微妙な動きを読み取るため、一瞬たりとも見逃すまいとするヘルパーさんの真摯(しんし)な姿だった。その姿を見て、国会議員諸氏は何を感じたろうか。

 

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