東邦ガス環境写真展
2016年6月15日〜21日
ラシック
社説広島の願いを世界へ オバマ大統領訪問原爆を投下した米国の大統領が被爆地を訪れたのは、歴史的な行動である。広島への思いを、直接語った。世界は核廃絶に進まなくてはならない。 オバマ米大統領は広島の平和記念公園で演説した。原爆について「空から死が降ってきて、世界は変わった」と語り始め、「光線と火の壁が街を破壊した。人類は自らを破壊する手段を手にした」と述べた。 中天の火球の下に広がる地獄も、戦争の悲惨さ、愚かさも、人々の脳裏に浮かんだに違いない。 広島に来たのは「すべての罪のない犠牲者を追悼するためだ」と述べた。謝罪を意味する表現はなかったが、悲しみ、哀悼の気持ちが込められ、被爆者の心に届いたのではないか。 理想と現実の間で紛争解決には、軍事的な手段ではなく外交で臨むべきだと強調した。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表らと言葉を交わしたのは勇気ある和解であり、世界が進むべき姿を示してくれた。 オバマ氏の核政策は理想と現実の間で揺れる、複雑なものだ。自身も当初から、核兵器のない世界の実現は「自分の生きている間は難しい」と表明してきた。それでも、この日の訴えの意味は大きい。どんな政治的行動も人々の意識の改革、認識の深さから始まるからだ。 米国の現実は二〇〇一年、米中枢同時テロで変わった。冷戦時代の軍拡競争は時代遅れになり、老朽化した核弾頭は削減している。しかし、テロ組織への核流出の危険性は増している。 〇九年、オバマ氏のプラハ演説に影響を与えたのは、共和、民主両党の歴代政権で外交、安全保障を担当した「四賢人」の提言だった。ペリー元国防長官や、現実主義のキッシンジャー元国務長官も名を連ねている。 オバマ政権は、イランの核開発を大きく制限する合意を達成した。核テロを防ぐための核安全保障サミット、計四回の開催を主導し、各国政府に核物質と関連施設の管理強化を呼びかけた。 だが、軍縮では大きな成果は残せていない。オバマ政権で削減された核弾頭数は約七百発であり、冷戦終結後、二十六年間の歴代政権の中で最も少ない。ロシアと新戦略兵器削減条約(新START)を結んだものの、ウクライナ情勢などをめぐって対立し、交渉は足踏みしている。 米国は巨額の予算を組んで核兵器近代化計画を策定し、目標を絞り込んで高い破壊力を持つ小型核の開発を進めている。核なき世界への道筋は多岐にわたり、対話がますます重要になろう。 「人道に反する」が原点オバマ氏は残る約八カ月の任期中に、国連総会の場で核実験の凍結を訴えるなど、もう一度、強い意志を示してほしい。米次期政権に核廃絶への取り組みを引き継ぐ義務もある。 残念なことだが、現在は冷戦時代よりむしろ、核の危機が高まっているという悲観論が広がる。 国際社会ではここ数年、「使用されたら、壊滅的な結果をもたらす」という核の非人道性を根拠にして、国際法である核兵器禁止条約をつくろうという動きが広がる。既に百を超える国々が条約制定に賛同している。 確かに、核攻撃があったら、一帯は放射能で汚染され、軍隊や消防、医療スタッフら誰も救助活動はできない。広島と長崎に残る資料が教える通り、核問題の原点は核兵器が「人道に反する」究極的な兵器であることを十分に理解することだ。 核保有国はまず核実験や核物質生産を禁止するなど、段階的な軍縮が現実的だと主張し、双方の溝は深まるばかりだ。 各国指導者、とりわけ核兵器を持つ国々の首脳には、ぜひ被爆地を訪問してほしい。核兵器の恐ろしさを伝える記録や証言を、直接見聞きすることから始めるべきではないか。ロシアや中国にも呼びかけたい。 抑止力より脅威語れ日本は唯一の被爆国である一方で、北朝鮮情勢など安全保障政策では米国の「核の傘」に依存している。 だが、オバマ氏が広島を訪ねた後も、日本の政策に変化がないようだと、被爆国としての訴えも次第に色あせる。広島訪問は日本を後押ししている。抑止力より核の脅威、非人道性の議論に重点を移すべきではないか。 政府は同盟国である米国に対し、ロシアとの交渉進展など、一層の軍縮を促す必要がある。国連など国際会議では、核廃絶を主張する国々と積極的に提携していきたい。 各国の市民、指導層の意識改革を促すのは、日本が率先して取り組むべき使命である。 PR情報 |
|
Search | 検索