【甘口辛口】
■5月27日
競馬に「ダービーは運のある馬が勝つ」という格言があるが、相撲では「横綱は宿命のある人がなる」そうだ。「宿命」を広辞苑で引くと「前世から定まっている運命。宿運」とある。大相撲夏場所13日目、無敗同士の一番で大関稀勢の里を下した横綱白鵬は、こう言い放った。「誰かが言っていたね。『強い人は大関になる。宿命のある人が横綱になる』と」。
17世紀に始まった大相撲で、横綱はたった71人。それだけに神懸かった部分も必要かもしれないが、横綱自身が使うべき言葉ではない。ましてや横綱を目指している力士に「前世から定まっている運命」と断じていいものか。
白鵬は、稀勢の里が横綱になれない理由として「何か足りないんでしょう」とも説いた。余りの上から目線に驚く。品格が足りなくても横綱にはなれるようだ。
29日に「第83回日本ダービー」が行われる。ダービーを5度制した“競馬界の横綱”武豊騎手なら、格言があったとしても「宿命のある人がダービージョッキーになる」とは言わないだろう。どれだけ傲慢な発言であるかを分かっているはずだから。
有力馬の一頭、ディーマジェスティの手綱を取る蛯名正義騎手は、武豊騎手の同期。デビュー30年目の超一流だが、いまだ「ダービージョッキー」の称号を手にしていない。彼は言う。「今までも勝ちたいと一生懸命やってきた。それでも取れずに来ているのだから、勝つために必要なものは、また何か違うところなんだろうな」。
必要なものは、当人が考えて探し出すもの。蛯名騎手が悲願を果たすか注目したい。また、稀勢の里には、名古屋場所で力量を見せつけて自分で未来を切り開いてほしい。 (鈴木学)