きまぐれ歌謡パレイド・美空ひばり
私のお気に入りアーチストとその作品(1998.09.20)
(シングル「関東春雨傘」のオリジナル・ジャケット)
美空ひばりと「関東春雨傘」
美空ひばりの名曲・名唱はたくさんあるけれど、私の一番好きな作品はこの1曲。
昭和38(1963)年12月、クラウン・レコード第1回新譜19枚の中のトップとして、
レコード番号「CWー1」で発売されたものである。
クラウンの発足については、いろいろな文献にあるように経営理念の対立から、
当時のコロムビア常務取締役伊藤正憲氏が退社したことに始るが、伊藤氏の
考えに共鳴した多くの人々が、当時の第7勢力であるクラウンへ移籍した。
(それまでは「コロムビア」「ビクター」「キング」「テイチク」「東芝」「グラモフォン」の
6社体制だった)
歌手では「北島三郎」「五月みどり」「小林旭」「守屋浩」「高石かつ枝」「若山彰」
「佐々木功」など、作家では「星野哲郎」「米山正夫」「岩河三郎」「小杉仁三」
「叶弦大」「前田利克」など、そしてディレクターでは「馬渕玄三」「長田幸治」など
錚々たるメンバーが移籍している。米山正夫は「リンゴ追分」をはじめとして
美空ひばりの作品を数多く作曲してひばり親子からは絶対の信頼を得ており、
一方の馬渕玄三は昭和36年頃から約3年間、美空ひばりのレコーディングを
担当していた。そのうえ騒動の発端となった伊藤氏は、美空ひばりのデビューに際し、
当時のコロムビア文芸部長として、周囲の反対を押し切ってひばりに賭けた人物。
当初、美空ひばりも移籍を考えたといわれるが、いろいろな事情があって実現せず、
代わりにお祝い曲としてクラウンに吹込むことになった。そのあたりの様子について、
音楽評論家中山久民氏が「戦後歌謡史への証言」という文章の中で、馬渕玄三に
インタビューしている部分を以下に引用する。
当時の美空ひばりはコロムビアの専属歌手である。いくら馬渕がコロムビア時代に
ひばり担当のディレクターであったにせよ、何故、ーーー
ーーーひばりが、自分を育ててくれた人たちがみんなクラウンに行ったんだから
ワタシはあの人たちに恩返しをしたい。お祝いをしたいといってくれたんだ。
だからこっちは、お祝いの曲をちょうだいといったわけ。それで、彼女が
コロムビアと交渉したんだよ。つまり、クラウン創立に対する彼女のお祝い
なんだよ。歌手にできることはうたうことだってね。ーーー
ひばりがコロムビアと交渉すれば、コロムビア側に許された答は「イエス」
以外にない。それはもう脅迫であった。金看板の美空ひばりに、
ーーーこれだけコロムビアに貢献してきたワタシのたったひとつのワガママ
じゃないのよ。これを聞いてくれなきゃーーー
といわれてしまえば、コロムビア側に返す言葉はない。初めから交渉になって
いないのだ。ひばりにだけ許される行為でもあった。それが、クラウンレコード
第1回作品、CW−1「関東春雨傘/美空ひばり」のレコードだった。クラウンの
第二スタジオでのレコーディングを担当したのは、もちろん馬渕である。要した
時間は1曲につき15分以内だった。
ーーー美空ひばりの素晴らしき好意だよ。そう、芸能界の美談だな!ーーー
と馬渕がいったところで、コロムビア側にとっては、文芸部員が突然抜けて
クラウン・レコードを設立したうえに、専属歌手・美空ひばりがお祝いの曲まで
うたったとあれば、泥棒に追い銭と映っただろう。真に前代未聞のご祝儀だった。
(「戦後歌謡史への証言」中山久民、1980年、音楽の友社「音楽の窓」所載)
(シングル「関東春雨傘」の変わりジャケット)
私のお気に入り(ほぼ年代順)
曲名 |
作詞/作曲 |
歌い出し |
越後獅子の唄 | 西条八十/万城目正 |
笛にうかれて、逆立ちすれば・・・ |
津軽のふるさと | 米山正夫(作詞・作曲) |
りんごのふるさとは北国の果て・・・ |
春のサンバ | 藤浦洸/万城目正 |
ほら、ほら、釣鐘草が・・・ |
ひばりのマドロスさん | 石本美由起/上原げんと |
船のランプを淋しく濡らし・・・ |
あまんじゃくの歌 | 深尾須磨子/高木東六 |
誰かと私、私と誰か・・・ |
怒涛の男 | 野村俊夫/古賀政男 |
男一途に、やるぞときめて・・・ |
ひばりのチャチャチャ | 米山正夫(作詞・作曲) |
さあさ歌えよ、みんなで歌えよ・・・ |
君はマドロス海つばめ | 石本美由起/上原げんと |
赤いランプがマストに点りゃ・・・ |
長崎の蝶々さん | 米山正夫(作詞・作曲) |
肥前長崎、港町・・・ |
ロカビリー剣法 | 米山正夫(作詞・作曲) |
そっちが抜くなら、こっちも抜くぞ・・・ |
気まぐれ東京っ子 | 西沢爽/原六朗 |
山の手、下町、ネオンで結ぶ・・・ |
アンデスの山高帽子 | 米山正夫(作詞・作曲) |
いかがです、とてもおいしい・・・ |
太陽は今日も輝く | 野村俊夫/船村徹 |
こぼれ陽が、二人の肩に・・・ |
危険な恋人 | 西沢爽/上原げんと |
愛しているから、すぐわかる・・・ |
べらんめ芸者 | 西条八十/米山正夫 |
客だ客だと、笑わせやがら・・・ |
天竜母恋い笠 | 西沢爽/遠藤実 |
おさらばヨー、泣かずにおくれよ・・・ |
すたこらマンボ | 米山正夫(作詞・作曲) |
急げばマンボ、あわてりゃマンボ・・・ |
ひばりのドドンパ | 米山正夫(作詞・作曲) |
わたしはドドンパ娘・・・ |
ひばりの渡り鳥だよ | 西沢爽/狛林正一 |
じれったいほど、あの娘のことが・・・ |
あゝ恋人よ | 松尾幸雄/米山正夫 |
この世の中であなたほど・・・ |
関東春雨傘 | 米山正夫(作詞・作曲) |
関東一円、雨降る時は・・・ |
芸道一代 | 西条八十/山本丈晴 |
いのち一筋、芸一筋で・・・ |
人生一路 | 石本美由起/かとう哲也 |
一度決めたら、二度とは変えぬ・・・ |
人生ブルース | 遠藤実(作詞・作曲) |
十にひとつの喜びに・・・ |
月の夜汽車 | 岡林信康(作詞・作曲) |
いつも二人で、遊んだ小川・・・ |
剣ひとすじ | 石本美由起/伊藤雪彦 |
剣は相手を倒せるけれど・・・ |
愛燦燦 | 小椋佳(作詞・作曲) |
雨、潸潸と、この身に落ちて・・・ |
(CDシングルの「関東春雨傘」、オリジナル・カラオケ付き!)