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100点
神からの警告

アメリカでこの映画のことを好戦的とか、ヒロイズムを強調しすぎだとか、アメリカ万歳イズムだなどといって批判する人たちがいると聞いて、私は仰天した。いったいどこをどう解釈すれば、そんな真逆の受け取り方をするのだろう。

頑健な肉体と精神、たぐいまれな能力に恵まれたクリス(ブラッドリー・クーパー)は、強者に生まれた責任感と愛郷心から海軍に志願する。やがて特殊部隊ネイビー・シールズ最強の狙撃手となった彼は、イラク戦争の最前線で目覚ましい活躍を見せる。だが、同時にテロリストにとって高額の賞金首となるのだった。

オバマ大統領夫人まで巻き込んだ大議論となっている「アメリカン・スナイパー」をめぐる騒動だが、それも納得のすさまじい完成度である。私に言わせればこの映画は、神が巨匠の作品を借りてアメリカ人に伝えようとしているメッセージ、である。

100点
もっとも有名な妖精、ティンカーベルが4部作に

08年冬のディズニーはアニメーション二本立てだが、先行する『WALL・E/ウォーリー』こそが大本命なのは誰の目にも明らか。こちら『ティンカー・ベル』は、本国アメリカでも小規模にひっそりと公開されたきり。彼らは四部作の壮大なプロジェクトにすると意気込んでいるが、この調子では2以降はビデオのみ、なんてことにもなりかねない。

ネバーランドにある妖精の谷に、元気で明るい妖精が生まれた。やがてティンカー・ベルの名を授かった彼女(声:メイ・ホイットマン)は、手先の器用さから物作りの妖精となる。ところがティンクは、自分らが作ったものを、憧れの人間界に届ける他の妖精たちがうらやましくて仕方がない。やがてとうとう地味な仕事を捨て、彼女らの仲間になろうとするが……。

パート2以降が、たとえディズニー得意のDVD用手抜き続編になろうとも、この一作目は期待できる。なにしろ予算が大作なみに付いているから、妖精たちが飛び回る3D-CGも息を呑む美しさ。出来上がった"春"を人間界に届けるクライマックスからラストシーンに至る一連のシークエンスなどは、ほとんど完璧の一語しか思い浮かばない。

100点
まったく色あせない最高のデートムービー

オードリー・ヘップパーンと、先日なくなったグレゴリー・ペック主演のラブストーリー。ローマ観光産業最大の功労者にして、不滅のデート・ムービーである。最新技術により、当時のクォリティに修復され、公開当時に人々が見たのとほぼ同じものが、今回『デジタル・ニューマスター版』としてリバイバル上映される。

今回の修復作業は、「公開当時のままに」をテーマに進められたもので、これまでのように後から着色したりなどはしていない。ただただフィルムのノイズ等を極限まで取り除き、クリアになった『ローマの休日』は、まさに必見である。

私は、映画館で本作を見るのは初めてなのだが、この修復版は想像以上の素晴らしさだった。今までも、素晴らしい作品だとは思っていたが、この名作がなぜこれほど愛される名作なのか、『当時のまま』に修復された本作を『映画館』で見て、初めてその理由がわかった気がする。

99点
運命に挑戦した男の切ないラブストーリー

アシュトン・カッチャー主演のタイムスリップ系サスペンス。アシュトン・カッチャーは米国ではTVのバラエティ番組等に出演し、アイドル的人気を博す若手俳優だが、日本ではそれほど知名度が高くない。『バタフライ・エフェクト』は非常にシリアスで感動的な物語であるのだが、多くの日本人にとっては主人公役の彼に対する先入観がないであろうから、よりニュートラルに本作を楽しめると思う。そうした点まで含めて判断した高得点である。

主人公(A・カッチャー)は少年時代、記憶が時折ブラックアウトする症状に悩まされていた。成人後はすっかりよくなったかに見えたが、ある日当時の日記を読み返した彼は、失った記憶を突然取り戻した。しかもその恐るべき記憶を、彼はあとから変更する事ができるのだった。

さて、現在もこの主人公は、幼馴染の少女に恋をしている。ところがその女の子とは、よくわからないうちに疎遠になってしまっていた。なぜ理由がわからないかというと、「何か大変なことがあったらしい」肝心な部分の記憶が失われているからだ。

98点
怪物の覚醒

若い映画作家が実体験を元にした映画を作るのは正しい。17歳で脚本を書いた監督作がカンヌ正式出品を果たした天才グザヴィエ・ドランも「自分のわかることだけを撮る」といっている。若者は、無理な背伸びさえしなければそのエネルギーと勢いを空回りさせないで、すごいものを生み出す可能性を常に持っている。

名門音楽学校で、カリスマ教授フレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドに参加することに成功したニーマン(マイルズ・テラー)。だが彼は、そこでフレッチャーの恐るべきサディスティックな指導に直面することになる。はたしてそのしごきの先には、ニーマンが望む成功への道があるのだろうか。それ以前に、この異様なスパルタ教育に彼はついていけるのだろうか。

85年生まれのデイミアン・チャゼル監督はまだ30歳だが、とんでもない傑作を叩き出したものだ。ドラマーを目指していた自らの体験をもとに、鬼教師とそれにくらいつく若者の異様な人間関係を、見たこともない緊張感と不穏さでまとめあげた。

98点
≪本年度屈指の傑作スリラー≫

『[リミット]』が本年度屈指の傑作スリラーであることは、もう様々な媒体で話し、書いてきたが、その真の理由はあえてこれまで書かなかった。当サイトの読者のためにわざわざとっておいた……というのは建前で、文字数&時間制限があるよそ様の媒体では紙面が足りずそこまで語れなかったというのが真相である。何もそんな事までばらす必要はないのだが、つい言わずにはいられない映画界一の善人で正直者の私である。

男(ライアン・レイノルズ)が目覚めるとそこは棺桶の中。ふたの隙間からは土がこぼれてくる。どうやら生き埋めにされてしまったようだ。いったいなぜ? 誰がこんなことを? なんで俺が? 暗闇の中、混乱と恐怖で呼吸困難になりかけた男の手に小さなライターが触れる。手探りで探り当てたのはそれと懐中電灯、そして見知らぬ携帯電話。それだけを手に、男の悲壮なる脱出への挑戦が始まった。

94分間ノンストップ。電話先の声を除けばライアン・レイノルズ以外、基本的にはだれも出てこない。舞台は棺桶の中だけ。ストーリーは男が携帯電話をあちこちにかけるだけ。史上まれにみる、狭苦しい、真っ暗恐怖映画の始まりだ。閉所恐怖症の方は、間違っても本作のチケットを買いに行ってはいけない。10分で帰宅する羽目になる。

98点
やや難解だが、おそるべき大傑作

『ウォッチメン』と『ダークナイト』は、まるでライバルのような関係だ。原作のグラフィックノベルは同時代に発行され、実写映画もまたしかり。そしてその出来栄えも両者まったく譲らず、である。

いわゆるアメコミ(アメリカンコミックス)の中には、上記二つのように完全に大人向けの、ほとんど文学と呼ぶべきものがある。よく、単純明快な勧善懲悪アクションもの、ノーテンキなエンタテイメントをアメコミ映画に求める人が(とくにアメコミに詳しくない日本人には)いるが、これは完全に誤りである。

それでも『ダークナイト』ならば、優れたアクションシークエンスが多々あるため、それなりに満足できるだろう。だが、より難解で地味な『ウォッチメン』では厳しいはずだ。

98点
すべての男が見るべき大傑作

2006年の総評でもちらと触れたが、昨年私が見た数百本の映画の中で、もっとも面白かった映画がこれである。痴漢冤罪という、誰にでも実感できる切り口で日本の刑事裁判の抱える問題点を描いた社会派映画。しかしながら堅苦しさはゼロで、娯楽度満点。先が気になる度がきわめて高いストーリーと、へぇ連発のディテール。どこをとっても完璧に限りなく近い、まさしく年度を代表する傑作といえる。

主人公のさえないフリーター(加瀬亮)は、満員電車から降りたとたん女子中学生に手首をつかまれた。駅員室に連れて行かれた彼は、覚えのない痴漢を頑強に否定。すると警察がやってきて留置され、そのまま裁判を闘うことになるのだった。

この映画の上映時間は147分。一見長大に思えるが体感時間はその半分程度、まさに尿意を忘れる一本だ。『Shall We ダンス?』(96年、日)以来の新作となる周防正行監督は、これを作るのに2年間に及ぶ徹底取材を行ったという。ぎっしりと雑学および強い問題提起がつまった2時間半からは、その意欲と成果を十二分に感じられる。とくに、(元ねたとなった本はあるが)明確な原作ものでない映画で、ここまで細部を詳細に描いた作品は近年見たことがない。

97点
10年に1本級のお祭り

2005年から始まった、ハリウッドの大プロジェクト「マーベル・シネマティック・ユニバース」の集大成「アベンジャーズ」は、深読み派、能天気派どちらにとっても紛れもない大傑作であった。

国際平和維持組織シールドが保管する四次元キューブが、邪神ロキ(トム・ヒドルストン)に奪われた。シールド長官ニック(サミュエル・L・ジャクソン)は、この緊急事態にアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)を始めとするスーパーヒーローのオールスターチーム「アベンジャーズ」を結集させる

が、集まったヒーローたちはまるで協調性がなく、先が思いやられる状況であった。

97点
≪超絶技巧の傑作、年間ベストワン候補の筆頭≫

かつてイギリスにドリアン・イエーツというボディビルチャンピオンがいた。驚異的なバルクと低頻度高強度の斬新なトレーニング理論を実践したことで、時代を変えたチャンピオンとして今でも大きな尊敬を受ける人物だ。

彼がユニークなのは、ボディビルを始めようと思った時、始める前にまず過去〜現在までのチャンピオンたちの映像やトレーニングメニュー、栄養学などを一通り学んだという点だ。最高のアーティストたちを徹底的に研究して、それらを倒すための具体的計画、グランドデザインをしたあとで入門したのである。ひ弱な体の初心者が、いきなりそんな大志を抱くこと自体が非凡の極みである。

一方、ある歌手は同時代の他のアーティストの作品をなるべく聞かないようにしているという。無意識のうちに影響され、自分の軸がぶれるのを恐れるためだそうだ。感受性が豊かすぎる場合、これも一理あるやり方だ。

97点
≪おバカな内容だが、そう簡単には作れない高い完成度≫

『ナイト&デイ』は、今年のアクション映画の中では突出したできばえで、このジャンルでこの作品を上回るものは、残り3か月もう出てこないだろう。

ボストンへの帰路、ジューン(キャメロン・ディアス)は空港でぶつかったハンサムな男性(トム・クルーズ)に心奪われる。機内でも偶然近くに座った彼と、なんとなくいいムードになった彼女は化粧室で心を落ち着かせる。ところがトイレから戻った時、機内はとんでもないことになっていた。

上記あらすじはほんのさわりだが、このシークエンスの面白さは簡単には語りつくせぬほどで、ぜひとも映画館で堪能いただきたい。キャメロン・ディアスの名コメディエンヌぶり、トム・クルーズの切れ味鋭い動き、それらがアメリカ映画らしいハイテンポな編集で描かれ、まれにみる爆笑&迫力の見せ場となっている。やってる事はとんでもなくおバカだが、それを本気のアクションと最新かつ超一流の演出で見せる。この映画のコンセプトがここに凝縮されている。

97点
≪文句のつけようのない横綱相撲≫

『ヒックとドラゴン』は、いくらほめてもたりないほどの傑作であるが、それは様々な要素が高いレベルで融合された、すなわち完成度の高さによるもの。何かが突出して良いのではなく、すべてがハイクオリティ。まさに死角のない横綱。事件前の朝青龍みたいなものである。

バイキングのリーダーの息子ヒック(声:ジェイ・バルシェル)は、偉大な父とは正反対の貧弱で気弱な少年。大切な家畜を襲う害獣のドラゴン族を狩らねば男とはみなされないこの村では、いつも半人前扱いされている。それが最大のコンプレックスだったヒックは、あるとき大怪我で飛べない最強のドラゴンを発見する。だがやさしいヒックはどうしても止めを刺すことができず、世話をすることによって友情を育んでいくのだった。

ドラゴンとバイキングの終わりなき戦いが続くファンタジー世界観。両者の戦いに終止符を打つのは誰なのか。

97点
歴代バットマン映画最高成績にして最高傑作

『ダークナイト』は、米国ではいまや興行新記録の投売り大セール状態である。その勢いたるや、永遠に破れないと言われた「タイタニック」の不沈神話にも迫る勢いだ。世界の映画史上、間違いなく記録に残る作品となったこの特大話題作は、中身のほうも文句なしの大傑作である。

ゴッサムシティに前代未聞の冷酷な犯罪者ジョーカー(ヒース・レジャー)が現れた。バットマン(クリスチャン・ベイル)とその理解者、ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)をあざ笑うかのように悪行を繰り返す彼の前に、新任の地方検事ハーベイ・デント(アーロン・エッカート)が立ちふさがる。デントのゆるぎない正義の心と行動力を知ったバットマンは、自らの役目が終わったことを悟り、彼に街の治安をゆだねる決意をする。

スーパーマンやスパイダーマンと違い、バットマンは超能力を持たない。彼はブルース・ウェインというただの人間、資産家で、特注の防御服や装甲車の力で犯罪者をやっつける。誰にも頼まれていないのに、彼は一人自警団として、しょっちゅう大怪我をしながら街の安全を守っている。世界一な親切なおかねもちなのである。

97点
ほかのどんな巨匠にも作れない映画を目指した点が立派だ

この職業をやっていると、毎日各社から膨大な数の試写状が届く。ためしに今手元にあるのを数えてみたら40枚以上あった。非常に残念だが、物理的な時間不足によりそのすべてを見ることは出来ない。やむなくスケジュールに合う中から、何か気になる作品を選ぶことになる。

私が『明日、君がいない』の試写会に行こうと思い立った最大の理由は、この映画の監督ムラーリ・K・タルリは、なんとこの映画を19歳のときに作り始めたという一点にあった。しかも、カンヌ国際映画祭で好評だったという。アカデミー賞よりカンヌの評価に共感する事が多い私としては、どうしてもこの作品を見ておきたかった。

舞台は現代のとある高校。ちなみに本作の原題は「2:37」というもので、これはこの時刻に何かが起こるという意味。そしてそれは、どうやらクラスの誰かが校内で自殺するのだと、冒頭にわかる。そこで一気に時間は戻り、その時刻までの1日をカメラは淡々と追っていくのだ。

96点
今度は世の中を変えられるか?

マイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー「シッコ」は、期待を上回る物凄い映画であった。

左翼活動家兼ドキュメンタリー作家として社会問題を追い続ける彼の今回のテーマは「アメリカの健康保険制度」。先進国の中で最悪といわれる、悪名高いかの国の制度について、まずはなぜひどいのか、実例を示すところから映画は始まる。

成熟した国民皆保険制度の恩恵を受けている日本人としては、到底信じられないような悲劇が何例も示され、「うわさには聞いていたがここまでひどいのか……」とショックを受ける。

95点
社会派テーマとエンタメをハイレベルに両立

私が東野圭吾の同名原作小説を読み衝撃を受けたのは、もう20年近く前になるだろうか。

先日堤幸彦監督に話を聞いた時、彼は「あの小説が映画化不可能と言われた理由は、内容があまりに原発業界のタブーに触れていたから」というような事をいった。私が20年前に読了したときに感じたことと全く同じ見解であった。

1995年の夏。福井県の高速増殖炉上空に突如現れた自衛隊の大型無人ヘリがホバリングを開始する。残燃料は8時間分。爆弾を満載したヘリが落ちれば原発は破壊され、日本列島は壊滅する。ほどなく犯人は「全原発の即時廃棄」を村山改造内閣へと要求。ヘリに息子が取り残されていることを知った開発者の湯原(江口洋介)は、原発設計士で旧知の三島(本木雅弘)らとともに、対策を検討し始める。

95点
ポール・ウォーカー最高傑作

2013年11月、友人のポルシェに同乗していたポール・ウォーカーは、事故後の炎上により40歳の生涯を閉じた。「ハリケーンアワー」はそんな悲運な彼の遺作のひとつである。厳密には撮影中だった「ワイルドスピード」最新作が、代役を立てて完成させるとのことなのでそちらなのだろうが、全編でずっぱりの一人芝居に近い作品であることを考えたら、ファンならこいつを見逃す手はないだろう。

巨大台風カトリーナの直撃を受けたニューオーリンズの病院に、ノーラン・ヘイズ(ポール・ウォーカー)は妊娠中の妻を連れやってきた。早産の子供は助かったが、妻はそのまま帰らぬ人となった。だが生まれた子供も呼吸器の中にいなければ危ない状況。しかし台風の被害は拡大する一方で、病院内はノーラン父娘を残してみな避難してしまう。呼吸器とその中の娘を運べない以上、彼はここから移動はできない。はたして彼らの運命はどうなるのだろうか。

あまりにありえない設定を成立させるために、あえてカトリーナという実在の台風設定にせざるをえなかったということだろうが、これはうまい。あれほどの混乱の中ならば……との思いにより、これほどのムチャ設定を一瞬で納得させてしまう。この段階でモタモタしていると、ワンシチュエーションスリラーというものは一気に瞬発力を失う。

95点
≪ラスト1秒まで楽しめる日本とローマの友好映画≫

バブル時代は世界中で日本人ほどマナーの悪い国民はいないなどといわれたものだが、最近ではその座を中国人に明け渡し、日本人はむしろ公衆マナーが良いなどといわれている。とくに入浴の場でそれは顕著である。下町の銭湯などには代々受け継がれた暗黙のルールのようなものがあり、はしゃいで場を乱す者は一人もいない。

もっとも最近の若者には、下半身丸出しでお守りを売るラグビー部員などもいるようなので例外はあるが、往々にして日本人は裸のマナーが良い。

そんな、普段は隠れている日本の良さを実感できる映画が「テルマエ・ロマエ」だ。今年のゴールデンウィーク最大の話題作にして、私が最高傑作と考えるこのコメディーは、日本文化を大好きな人はもちろん、最近の政治や行政のていたらくで日本に愛想をつかし始めた人にも見てほしい、愛国的娯楽映画である。

95点
≪天才の誕生過程≫

菅直人首相が浜岡原子力発電所の即時停止を命じたという。電力不足が起きるぞと原子力村民たちが早くも国民を脅し始めているようだが、もとより浜岡原発は点検にかこつけて年間200日とか300日も休んでいるぐうたら原子炉の集まりである。いまさら残る2つを止めたところで電力など不足するはずもない。

この決断には自民党議員の一部が猛反発しているが、これでは首相の思うつぼ。脚本家的な視点から見れば、「自民党イコール原発利権」の印象が国民の間で強まれば、菅政権は労せずして「正義の味方」の役を勝ち取れる。

さらにいうなら、自民との対決色が盛り上がってくれば、菅下ろしの大連立政局をたくらむ党内勢力を黙らせる効果も期待できる。「ワルと手を組む奴は裏切り者」なのである。政治的には一石二鳥の合わせ技で、この一件だけ見ても菅首相はなかなかしぶとい。

95点
≪おもちゃを捨てられなくなるシリーズ3≫

ピクサー製作のアニメーションは、頭ひとつ以上抜き出た脚本力により、もはや10割打者といってもいいほどの傑作率を誇る。その作品群は原作ものではないオリジナルにこだわった企画ばかりだが、中でも「トイ・ストーリー」は記念すべき第一作。社のアイデンティティーといってもいい、スタッフ全員の夢を託した渾身の一本だったわけだ。

この大ヒットからピクサーの快進撃は始まったのだが、その3作目となる本作は、そんなわけで安直な「手堅い続編企画」のはずはない。この2010年に、ピクサーが「トイ・ストーリー3」を送り出した事には、必然ともいうべき理由が必ずある。それを念頭に置きつつこの映画を見終わったとき、私はその予測が正しかったことを感じて深く感動するとともに、このスタジオが当分、名実ともに世界一の座を譲ることがないことを確信した。

かつて、どの少年よりも自分たちおもちゃを愛してくれたアンディ(声:ジョン・モリス)も17歳。一番のお気に入りだったウッディ(声:トム・ハンクス)は、彼がもう自分を手にとってくれなくなった事や、もしかしたら二度と遊んでくれないかもしれない予感を胸に、それでもアンディの事を心から愛していた。かつては最新のトイだったバズ(声:ティム・アレン)たちとは今でも元気にやりとりするが、そんな日々にもついに終止符が打たれるときが来た。大学入学とともにアンディが引っ越すことが決まり、古いおもちゃを処分する事になったのだ。

95点
≪真っ黒な爽快感≫

後世になれば、この映画は松たか子の代表作にして最高傑作と呼ばれることになるかもしれない。現時点(2010年6月)における、私が見た中で本年度ベストといえるこの映画を、本サイトで公開前に紹介できなかった事をたいへん申し訳なく思う。(Web以外の原稿等の締切が、70作品分以上集中する緊急事態でした、すみません)

ある中学校の教師(松たか子)が、終業式のホームルームで不気味な告白を始める。数ヶ月前、自分の幼い娘(芦田愛菜)が校内のプールで溺死した事故は、じつはこのクラスの中の2名による殺人だったというのだ。そんな衝撃の事実を知らされながらも、まるで深刻にうけとめず、好き勝手に騒ぐばかりのこの崩壊学級の少年少女たち。だが教師は少しもひるむ事無く、次に告げた「ある事実」により、全員を凍りつかせてしまう。

開始早々、松たか子のただ事ではない演技に引き込まれる。背中を氷のハンマーでたたかれ、脊髄を麻痺させられるような冷たい衝撃を、観客は(劇中のクラスメートと同時に)味わうことになる。もとよりこの女優の底力を日本最高ランクと認識していた私でさえ、ここまで出来るのかと驚かされた。

95点
アメリカ人のしぶとさを感じさせるアニメーション作品

ベン・スティラーやクリス・ロック、そしてジェイダ・ピンケット=スミス母子(ウィル・スミスとの娘ウィロウ・スミス)など、豪華な声優陣をそろえた話題性で引っ張り、米市場で『マダガスカル2』は記録的なヒットとなった。ところがじっさい見てみると、これが単に宣伝や話題性だけで売れたのではないことがはっきりとわかる。『マダガスカル2』は、前作はもちろん、近年のアニメーション作品の中でも群を抜く傑作である。

ライオンのアレックス(声:ベン・スティラー/玉木宏)ら、NY動物園の元人気者4頭は、飛行機を修理してマダガスカル島から脱出を図った。ところがしょせん機長はペンギン。米大陸まで届くはずもなく、機体はアフリカ本土へ不時着してしまう。

巨大な火山の遠景から、ライオンの父子の手元へとカメラが下りてくる。遠くから近くへ。深い深い奥行きを感じさせるカメラワークで、のっけから「これは!」と思わせる。そこから、物凄いスピードで前作のおさらいをした後、さっさと本編に入る。前作未見者も、半ば強引に物語に引き込む、アメリカ映画らしい親切丁寧なオープニングだ。

95点
全世界が突然失明!?

ここ数ヶ月みた映画の中で、私が最も感動したのはこの『ブラインドネス』であった。カンヌ映画祭で、景気付けのオープニング上映のみならず、本命コンペ部門にも出品されたというだけのことはある。

街のど真ん中で、日本人男性(伊勢谷友介)が運転中の車を急停止させた。彼は、突如として失明してしまったのだ。診断した医師が首をひねる中、世界各地で同様の症状に見舞われる人が続出。この奇病は瞬く間に感染し、政府は患者の緊急強制隔離を敢行する。医師の夫(マーク・ラファロ)が失明した妻(ジュリアン・ムーア)は、夫を支えるため自らも感染したふりをして隔離施設に入所するが、そこはほとんど管理の手が及ばぬ、劣悪な環境だった。

世界中が失明し、人類文明が崩壊していく壮大なスケールのパニック映画。……だが、作品の本質はそこではなく、この寓話的設定が静かに内包するテーマ性の高さにある。

95点
スピルバーグ10年の構想を映画化

『イーグル・アイ』を見終わると、ぐったりと疲れる。アドレナリンだかエンドルフィンだか知らないが、脳内が過剰に活性化されたせいで、この映像体験から開放されたとたん、消費カロリーのあまりの多さに気づく。

コピー店のしがない店員ジェリー(シャイア・ラブーフ )は、突然理解を超えた出来事に巻き込まれる。覚えのない大量の武器や預金。大混乱のさなか、突然かかってきた携帯電話の主は、「30秒後にそこから逃げなさい」と忠告してきた。

ここから怒涛の巻き込まれ型サスペンスが開始される。

95点
80億円以上の予算をかけたコメディ

アメリカではコメディジャンルが人気があると、ここでは何度も書いている。人気があるということは、そのぶん金をかけられるということ。だからあの国では、『ゲット スマート』のようなお笑い映画一本に、なんと80億円以上もつぎ込むという無茶な現象がよく見受けられる。

極秘諜報機関"コントロール"の情報分析官マックス(スティーヴ・カレル)は、優れた分析能力があだとなり、長年の夢である現場の諜報員になれずにいた。ところが本部が犯罪組織"カオス"に襲撃され、全諜報員の顔と名がバレてしまう。そこで身元を知られていないマックスが急遽昇格となり、偶然整形手術直後だったベテラン女エージェント99(アン・ハサウェイ)と組み、カオスに対峙することになった。

大人気だった『007』のパロディとして60年代に作られたテレビシリーズ『それ行けスマート』の映画化。私もオリジナルは見たことがないが、ベテラン評論家のセンセイによると、当時の小ネタがちりばめられ、大変面白かったということだ。キャストはもちろん一新されたが、当時を知る年代の人も、懐かしい思いを味わえるのではないだろうか。

95点
凝った構成と完璧な脚本の政治サスペンス

冒頭、いきなりアメリカ大統領がスペインの大群衆の前で狙撃される。ほぼ同時に大爆発も起こり、集まった人々はパニックに。全力ダッシュで始まり、ペースを落とすことなくそのまま90分間駆け抜ける、大興奮サスペンスアクションの登場だ。

テロ撲滅の国際サミットのため訪れたスペインのサラマンカの広場で、米大統領が何者かに狙撃される。大混乱の中、ベテランシークレットサービス(デニス・クエイド)は居合わせた観光客(フォレスト・ウィッテカー)のビデオカメラやテレビ局の中継車をチェック、そこに驚愕の真実が写っていることに気づき、追跡を開始する。

これぞまさに映画、凝りに凝った構成に感心しきり。

95点
ドロドロした社会問題を、最高に美しい子供向けアニメに仕上げた恐るべき映画

全国公開される大作や、単館系の話題作をちょくちょく見ている、といった程度の映画好きの人に「オススメ教えて」といわれると、私は98年製作のフランスのアニメーション『キリクと魔女』あたりを教えることにしている。そして、たいていの相手から好評を得ている。

『キリクと魔女』は日本でも03年に公開され、このサイトでも絶賛した記憶があるが、『アズールとアスマール』はそれと同じミッシェル・オスロ監督の新作。おのずと期待は高まる。

舞台はとあるヨーロッパの国から始まる。そこで暮らす金持ち領主の子アズール(声:シリル・ムラリ)と、そのアラブ人の乳母ジェナヌ(声:ヒアム・アッバス)。そしてジェナヌの実の子アスマール(声:カリム・ムリバ)。ジェナヌのわけ隔てない愛情のもと、二人の子供は身分や人種を超えた兄弟愛を育んでいた。しかしアズールの父はジェナヌとアスマールを追い出し、二人は海の向こうの故郷の国へ帰ることになった。

95点
空腹時に見て吐きそうになったほど怖い映画だが、きっと満腹時でもヤバいだろう

『ホステル』は久々に味わったすごい映画だ。単純に筋書きが面白いだけでなく、その演出の巧さにも舌を巻く、すばらしい映画作品であった。

欧州をバックパッカーとして貧乏旅行している米国人の大学生コンビは、途中で陽気なアイスランド人と知り合い、3人でオンナ漁りのバカ旅行を楽しんでいた。あるとき彼らは、スロバキアの田舎町に、目くるめくような快楽を得られるホステル(若者向きの安宿)があるという噂を聞く。麻薬とオンナには目のない彼らが早速訪れてみると、そこは予想を越えたキモチイイ異文化があった。

なんとも不気味な、東欧独特の雰囲気の漂うそのホステルにつくと、あいにく相部屋だといわれる。意気消沈して3人が部屋に向かうと、なんとそこには着替え中の巨乳ギャルがおり、ルームメイトだと告げる。しかもこれから混浴温泉に向かうので、一緒にいかが、などと言う。

95点
プロの職人芸に圧倒される、完璧な出来のアクション映画

今週、『トム・ヤム・クン!』があって本当によかったと思う。同日公開だが、同じアクション映画でも『デュエリスト』とはまさに月とすっぽん。アチラでガッカリした人も、これを見れば癒されるはず。もしくは、現在のアクション映画界における最高と最低を、同時に楽しむという、マニアックなやり方もありかもしれない。

主人公は王族に献上する象を育てながら、山で幸せに暮らしている青年。これを『マッハ!!!!!!!!』で全世界を驚愕させた、次世代のアクションスター、トニー・ジャーが演じる。やがて、いよいよ献上する日がやってくるが、手塩にかけて育てた象は、悪者たちの手により騙し取られてしまう。

かくして怒りの追跡劇が始まるというわけだ。監督は『マッハ!!!!!!!!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ。前作の儲けをつぎ込んだというだけあって、物凄いアクション映画になっている。やはり今、タイのアクション映画は面白い。

95点
スリリングなサバイバルドラマ

『ホテル・ルワンダ』は、奇妙な経緯をたどった映画作品だ。もともと作品の評価は高かったが、オスカーレースに絡んだため買い付け価格が上昇、日本における人気スターなど皆無の地味な社会派作品だったため、採算が取れないと判断され、日本公開はこれまで実現しなかった。

ところが、インターネットを中心にした公開嘆願の署名運動が行われ、ようやく公開が決まったというわけである。署名規模は数千名と、絶対数自体は少ないものだが、観てもいない映画の公開を求める人がそれだけいるというのは、ある意味すごい事である。そして、この作品が、その人たちの期待を裏切ることは、まずないだろう。良い映画である。

1994年、アフリカのルワンダ。主人公のポール(ドン・チードル)は、この国でもトップクラスのホテルの支配人だ。彼は、妻や子供たちを愛する心やさしい家庭人であり、優秀なホテルマンでもある。奇麗事だけではすまない現実を、しっかりと見据えている彼は、政府軍、反乱軍双方の重要人物に付け届けも欠かさない。

90点
WTC誕生の瞬間を描く

ワールド・トレード・センタービルの間を綱渡りした男の実話「ザ・ウォーク」は、単なるいち大道芸人の偉業以上に重要なメッセージを描いている。

1974年、フランス人の大道芸人フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)はニューヨークの新しいビル、ワールド・トレード・センターの写真を見て目を奪われる。その二つの建物の間にロープを張り、綱渡りができたら……。だがひらめきのようなその計画を、フィリップは即座に実行に移すのだった。

3D効果をふんだんに生かした超高層ビルの綱渡り。しかしまあ、クライマックス以外は退屈なドラマだろうと思っていたがとんでもなかった。

90点
日本の大女優は見習え

アカデミー賞演技部門の受賞が期待される、ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラの二大演技派女優共演「キャロル」は、日本の大女優さんたちが見たら恥ずかしくなるほどの、迫真の演技を堪能できる傑作恋愛映画である。

1952年のクリスマス、貴婦人然として美しい女性が子供用のプレゼントを選んでいる。夫と離婚調停中で娘との面会もままならないその女性キャロル(ケイト・ブランシェット)は、デパート店員テレーズ(ルーニー・マーラ)に親切にしてもらったのが縁で、友人関係を築いていく。

実績も人気も演技力もあるこの二人ほどの女優が、同性愛をテーマにした映画で堂々と全裸の濡れ場を演じる。CMスポンサーを失いたくない周りが必死で止めるであろう日本の女優界では、まず真似できない芸当である。

90点
ロッキーの後継者あらわる

この映画がロッキーシリーズの正当なる続編であることを知らない人がもしいたら、周囲のファンを大勢誘って映画館に行くべきだ。そうすれば確実に「クリード チャンプを継ぐ男」は、この冬最大の掘り出し物としてお友達ともどもあなたに十分な満足感を与えてくれるに違いない。

レストラン「エイドリアンズ」を細々と経営するロッキー(シルヴェスター・スタローン)の前に、純粋な瞳を持った若者が現れる。アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)と名乗ったその黒人青年は彼に問う「アポロ・クリードはどんなチャンピオンだった?」。そして続けてこう言うのだった。「ロッキー、俺にボクシングを教えてくれ──」

本作を前に過去のロッキーシリーズ6本の感動シーンを改めて振り返ってみる。

90点
ブラック起業ムービー

いまどきの時代の特殊性を考慮せず「若い奴はどんどん起業しろ」などという大人はいささか無責任である。そういう人は、説教を垂れる前にまず「ナイトクローラー」を見るべきである。

ルイス(ジェイク・ギレンホール)は窃盗もいとわず暮らしている男。ある日、交通事故の現場に偶然遭遇した彼は、そこでカメラを回す奇妙な男を見つける。その男は事故、事件現場専門のパパラッチであり、興味を持ったルイスは早速自分も見様見真似で開業するのだが……。

エスカレートするテレビ局の視聴率競争、そのためならどんな過激なことをしてもいいのか……的なメディア批判がこの映画の表の顔である。多くの批評家もその点を評価している。

90点
不可能なはずのトリックを完璧に映像化

ミステリの映画化の際、よく「映像化は不可能」なんてコピーがつく。大抵はたわいもない煽りで、実際は大したことのないトリックだったりすることが多いのはいうまでもないが、乾くるみの「イニシエーション・ラブ」だけは別だ。

映画化が決まるずっと前に当サイトのコラム欄で絶賛したあの傑作のメイントリックは、どう考えても映像化は無理。書籍であることをふんだんに利用したアイデアなのだから当然だが、堤幸彦監督は本作で、とんでもない偉業を成し遂げた。文字通り、不可能を可能にしてしまったのである。

大学生の鈴木夕樹(松田翔太)は人数合わせに誘われたアウェー感たっぷりの合コンで、歯科助手のマユ(前田敦子)に一目ぼれする。小太りでオタク然とした風貌の夕樹だったが、その誠実な性格がよかったのか信じがたいことにマユの受けは決して悪くなかった。彼の人生はその日からばら色に輝くが、彼が真の恋愛の奥深さを知るのはさらに先になる……。

90点
老監督の凄みをみた

最近のウディアレンの映画というと、皮肉の効いた大人向けラブコメまたは器用なミステリ、といったイメージが強い。毎年1本ずつ発表し続けているが、たしかに上手いとはおもうが正直、ぬるめの作品続きで欲求不満なファンも多かったのではないか。

ニューヨークで富豪の夫と別れ、サンフランシスコの妹の家に居候にきたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。だが彼女は異様なプライドの高さから現実を見ることができず、質素な暮らしや就職活動に耐えられない。再び玉の輿に乗り、セレブ生活に戻れると信じて疑わないジャスミンがつく「嘘」は、次第にエスカレートして……。

さて、そんなアレン作品だがこの「ブルージャスミン」は違った。こんなに強烈な才気が78歳のアレンに残されていたとは、うれしい驚きである。本作は、近年のウディ・アレンコメディに欲求不満だった人、そもそもアレン映画とはそういうものだと思いこんでいる人に是非見てほしい、切れ味鋭い人間ドラマの傑作である。

90点
全部ガチならとんでもない映画

園子温監督の映画に「地獄でなぜ悪い」(13年)というのがある。本物のやくざの抗争と殺し合いを、映画の見せ場として撮影する映画オタクの話だ。もちろんフィクションのコメディー映画だが、斬新な作風が好評を得た。

ところが世の中は広い。アメリカには、なんとそれを地で行く映画監督がいた。

1965年、9月30日事件と呼ばれる大虐殺がインドネシアで起きた。ときのスカルノ政権に対するクーデター未遂のどさくさの中、大勢の共産主義者らが殺されたこの事件。その実行犯を取材したジョシュア・オッペンハイマー監督は、自分たちを革命の英雄と思い込んでいる彼らに対し、それなら自らのしたことを再現し、映画に記録してはどうかと提案する。

90点
すべてを圧倒する昭和天皇

参院選で自民党が圧勝し、改憲論議さえ巻き起こっている昨今。GHQの影響濃い現憲法を改正することは、米国による支配からのっ、卒業ぉ……。というわけだが、そんな懐かしのヒットソングのように上手くいくはずがないとは思うものの、それにしても終戦直後のGHQはいったい占領地の日本で何をしていたのか。とくに天皇に対してどのような影響力を発揮したのか、そこに特化して描いた「終戦のエンペラー」は、なかなかユニークな戦争映画といえる。

1945年8月、占領地である日本にやってきたダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)は部下で知日派のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)に特命を与えた。それは10日間以内に、日本国内の戦争責任者が誰なのか、具体的には天皇にその責任があるのかないのかを調査し結論を出せというものだった。フェラーズはかつての恋人アヤ(初音映莉子)の行方も調べられる好機と引き受けたものの、日本の複雑な権力構造と、宗教的ともいえる天皇への国民感情への理解の困難から、調査は難航を極めるのだった。

この映画のキモはクライマックスのマッカーサーと天皇の対面シーンにある。それまでは日本の高官やら何やらの、言い訳じみた御説のハギレを並べるばかりで、正直退屈すら感じる。天皇に責任があるという人たちの言葉は何一つ心に響かないし、逆に天皇擁護派のそれもしかり。意外性のある史実の発掘もなく、このまま映画は終わるのかと思わせた。

90点
独創性がある

世間一般には疑問符が付くようなタイプの人間でも意外とモテたりする。気が多い女の子とか、金遣いの荒い男とか、第三者からみればクズのような性格でも「普通」に飽いてる者にとっては適度な刺激になるためだ。適材適所、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「キャビン」は、どこからみても異形な映画。変化球のみで構成されたトンデモ作だが、だからこそ「普通」に飽きてる人には最高の刺激となる。その魅力は、あらゆるホラー映画を見てきた人でも、絶対に先読みできないハチャメチャな展開。しかしナンセンス系ではなく破綻なく世界観をまとめている「定石外し系」の傑作である。

森の中の小屋にやってきたデイナ(クリステン・コノリー)たち大学生の男女5人。人里離れたこの場所で、胸躍る休日を過ごす予定だったが、この小屋は何かがおかしい。隣の部屋を覗けるマジックミラーがあったり、古い地下室があったり。やがて彼らは、不安を抱えながらも初めての夜を迎える。

90点
芦田愛菜の存在意義だけが不明だが

この2作目の脚本も前作同様、プロット自体をハリウッドに売ることもできそうなほどに完成度が高い。登場人物を入れ替えればライアーゲームのタイトルを外しても通用する点も前作譲り。それどころか緻密に計算された脚本のうまみは、前作を上回る部分さえある。具体的には椅子取りゲームという、原作ファンにはおなじみのネタを採用していながらも、あえて2012年に公開するべき理由付けがなされている点。さらに普遍的でありながら、じつに日本的な結末を用意している点も心憎い。

ファイナルステージから2年、秋山(松田翔太)は大学で心理学を教えていた。そこに教え子の篠宮(多部未華子)から、札束とともに不気味なゲームの招待状が来た件で相談を受ける。終わったはずのライアーゲーム、いったい誰が再開したのか。秋山は再び弱き者を守るため、ゲームに参加する羽目になるのだった。

今回採用されるゲームは椅子取りゲーム。多少複雑な決め事はあるが、たかが椅子取りゲームで、よくぞここまで高度な騙しあいと戦略を考えたものだと、脚本家及び原作者の脳みそにはただただ感服する。

90点
資本主義の諸問題を皮肉る秀作

日本でSF映画というと子供向けのイメージがあるが、海外には大人の鑑賞に堪えるものがたくさんある。「TIME/タイム」はその最たるもので、その出来はすこぶる良い。おそらくあらすじを聞いただけでほとんどの人が見てみたい、となるのではないだろうか。私の周りでも、普段はこうしたジャンルに興味を示さない編集者が、ストーリーを説明した途端見てみたいと即答したり、じっさい普段はこの手のジャンルを取り扱わない媒体で紹介したりもしている。

寿命をコントロールできるようになった近未来。人類は遺伝子操作により25歳で成長がストップし、そこから等しく1年間の寿命が与えられるようになっている。その結果、通貨としての金銭は無くなり、代わりに人々は「余命」をやり取りして経済活動を行っていた。スラム地区に住むウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、目覚めると常に余命残り24時間を切っているほどの「貧困者=時間無し」だが、困っている人を見ると惜しげなく余命を分け与える優しい男。そんな彼が、あるとき自殺志願の大富豪から100年単位の余命を譲り受けた事から、運命の歯車が大きく変わり始める。

世界感や設定を聞いただけで楽しそうと思える作品は、間違いなくいい企画である。ただし、そうした企画に十分な予算がつき、一流の人員を割くことができる国はそう多くはない。アメリカの映画業界は、そうした真っ当なことをやっているからこそ、世界一でいられるのである。「TIME/タイム」のような映画を見るたびにそう思う。

90点
≪もはやアメリカ人の未来は真っ暗だと証明した≫

『4デイズ』も震災延期組のひとつで、私がこれを見たのは3月初旬の震災直前だった。そんな時期的なイメージに加えて作品としてのインパクトが甚大で、個人的には延期組の中ではナンバーワン作品と思っている。

米国内3か所に自作の核爆弾を仕掛けたテロリスト(マイケル・シーン)が逮捕された。タイムリミットが迫る中、当局は拷問のプロフェッショナル=通称"H"(サミュエル・L・ジャクソン)を呼び寄せ、密室内で手段を問わぬ尋問をすることにした。同席したFBI捜査官(キャリー=アン・モス)は法を守る立場からこの人権無視のやり方に抗議するが、かといって代案はない。とどまることを知らぬ残虐な"H"のやり方を制御するのが精いっぱいであった。だが、そもそもなぜこれほど有能な犯人が、たやすく逮捕されたのだろうか……。

スケールは大きいが登場人物は主に3人。舞台はアメリカ政府御用達の拷問部屋。スペクタクルもあるにはあるが、基本的には低予算のサスペンスドラマだ。しかしチープさは全く感じさせない。容赦ない残酷性とその描写により、予定調和なハッピーエンド以外もありうる空気を漂わせており、先が読めない怖さを存分に味わえる。

90点
時代にマッチしている上、脚本の骨格がきわめて頑健

たぶんこの映画についてほとんどの方は、こんな風に考えているだろう。

「え、日本映画? 安っぽそう」「え、フジテレビの映画? 軽そう」「え、テレビドラマの映画化? 映画だけ見てもわかんなそう」「とにかく、つまんなそう」

その気持ちはわからぬでもないが、なんと本作に限ってはすべてよい意味で裏切られた。こういうことはめったにあるものではない。

90点
全日本人がみるべき作品

『海角七号/君想う、国境の南』という映画を考えるときもっとも重要なポイントは、「この映画が台湾で爆発的にヒットした」(同国映画としては史上一位)という事実である。

ミュージシャンの夢破れ、故郷に戻ってきた青年(ファン・イーチェン)は、郵便配達のバイト中、あて先人不明郵便を発見する。それは日本統治時代の住所表記あてに送られた60年前の郵便だった。そんなある日、地元で行われる日本人歌手のコンサートの前座を頼まれた彼は、その仕事の中で知り合った日本人女性(田中千絵)にその手紙を見せる機会を得る。そして、その手紙に大切な内容が書かれていることを知る。

半ニート若者を主人公にしたユーモラスな下町人情ドラマ風に始まる本作は、まともなギタリストさえいない田舎町の急造バンドのどたばた騒動でまずは楽しませる。

90点
ぜひ小さい息子さんとご一緒に

手塚治虫の代表作で、日本アニメの元祖的存在「鉄腕アトム」は、意外だがこれが初の劇場版となる。製作したのは香港発のアニメ制作会社「イマジスタジオ」。そこにハリウッドスターが声を当て、米国では300スクリーン越えの大規模公開、その他50カ国以上で上映が予定されている。日本原産のコンテンツとしては、大本命といってよい話題作である。

未来都市メトロシティの科学省長官で天才的科学者のテンマ博士(声:ニコラス・ケイジ、役所広司)は、幼い息子のDNA情報を埋め込んだ最新鋭ロボット、トビー(声:フレディ・ハイモア、上戸彩)を作り上げるが……。

オリジナルの66年版アニメーションはもちろん、80年のリメイク版を楽しんだ世代でさえ、今はとっくに"父親"になっていることだろう。そうした事情を受けてかこの映画版は「父と子の関係、息子への愛」に焦点を当てた、感動ドラマとなっている。

90点
今年ナンバーワンのショッキング映画

ナチスものというのは、私を含め多くの日本人が、ほとんど興味をもてないテーマだろうと思う。ユダヤ人優位のアメリカ映画界では永遠の定番テーマだが、それに私たちが付き合う必要はまったくない。だから本作に対しても、相当冷めた目で見始めたことを最初にお伝えしておく。

第二次大戦下のベルリン、8歳の少年ブルーノ(エイサ・バターフィールド)の父親はナチス将校。その転属に伴う引越し先は、片田舎の森の中だった。そこにはフェンスに囲まれた「農場」があり、大勢の大人が働いている。ある日、ブルーノはこっそり近づいた塀の向こうに、同じくらいの歳の子供を発見する。顔色が悪く、がりがりにやせた少年はシュムエル(ジャック・スキャンロン)と名乗った。塀の中の他の大人たちと同じ「縞模様のパジャマ」を着ている彼との奇妙な交流が、その日を境に始まった。

これを見終わったとき、私は大きな認識違いをしていたことに気づかされた。これは古びた「ナチス映画」などではなかった。きわめて普遍的なテーマを持つ、現代的な映画であった。ショックを受けたという意味では、今年始まって以来ダントツのナンバーワンといっても過言ではない。

90点
2009年夏のイチオシ

今年2009年の夏シーズン、忙しい中、たった1本だけ映画を見られるとするなら、私は迷わず『アマルフィ 女神の報酬』を選ぶ。夏休みらしいスケールの大きな大作であること、邦画の枠内でなく、世界標準からみても優れたサスペンス映画であることが理由だ。

と同時に、このような意欲作がコケることになったら、もはやマジメに日本でエンタテイメントをやろうという人はいなくなってしまうのでは、と危惧する。人気テレビドラマをチョチョイと2時間に引き伸ばし、洗脳のごとき繰り返し宣伝で純情な視聴者を映画館に集め、1800円を搾り取るビジネスモデルが通用するようでは、あまりにクリエイターたちが可哀相だ。

クリスマス直前のローマに派遣された外交官・黒田(織田裕二)は、偶然にもある旅行者(天海祐希)の娘が誘拐される事件に遭遇する。とっさの機転で犯人からの電話を黒田が処理したことにより、彼も巻き込まれ、事件解決のため奔走することに。だが外交官には捜査権がなく、徐々に黒田は孤立していく。

90点
マイケル・ベイらしさ全開のすてきなトンデモ映画

『トランスフォーマー/リベンジ』は、いかにもマイケル・ベイ監督らしい、華やかで楽しくて、かつゴーマンな超大作であった。

激しい戦いを生き残ったリーダーのオプティマス率いる金属生命体・オートボット(日本版でいうサイバトロン)軍団は、いまや人類と協力して、悪の軍団ディセプティコン(同:デストロン)の残党を狩っていた。ところがあるとき、その一体が新たな大戦争を匂わす不気味な台詞を残して死ぬ。そして今回もカギを握るのは、オールスパークのかけらを持つサム(シャイア・ラブーフ)とそのガールフレンド、ミカエラ(ミーガン・フォックス)だった。

都内のTHX劇場で先行上映に行ってきたが、いやはや、これは面白いものを見せていただいた。断続的に続くお祭りのような見せ場が150分間もたっぷり続く、「量が少なくて文句を言われるのが怖い」アメリカの料理店特有のてんこもり料理のような、ワイルドな娯楽作品であった。

90点
アニメによるドキュメンタリー・エンタテイメント

アニメーションでドキュメンタリーをつくり劇場公開するなんて、ずいぶんと思い切った企画だ。そうした珍しいアイデアで出資者を説得するには、相当なクォリティの高さが必要になるはず。少なくとも、巷にはびこる原作人気頼りの安直映画とは、まったく違ったものになるだろう。そう読んだ私は真っ先に試写に出向いたが、案の定、まぎれもない力作、傑作であった。

監督は西久保瑞穂。押井守作品の高品質を支える名演出家としても知られる彼だが、今回はその押井守を「うんちく担当」として脚本に迎え、相変わらずのチームワークを見せている。そしてアニメーション制作はProduction I.G。タランティーノ監督から米映画『キル・ビル』のアニメパートを直接依頼された、日本有数の技術を誇るスタジオだ。じつに強力な布陣である。

72分間の上映時間は、「宮本武蔵はなぜ巌流島の勝利を後世語ろうとしなかったのか?」を最大の謎としてクライマックスに配置。それを解きあかす過程では、幾多の小さな謎解きがなされ、テンポがよい。見せ方も解説の手法も、とてもわかりやすい。

90点
イーストウッドの暖かい励ましが心にしみる

いろいろなテーマやみどころが混ざり、深読みしがいもある『グラン・トリノ』だが、この超映画批評では、これを(例によって?)一風変わった視点からオススメしたい。

自動車メーカー、フォードの元工場員で朝鮮戦争の帰還兵ウォルト(クリント・イーストウッド)。頑固者で通る彼は、年寄り扱いする息子連中や、移民が増えて治安が悪化するわが町の姿に日々、悪態をつき暮らしていた。そんなある日、隣家のアジア系移民の息子タオ(ビー・ヴァン)が、同じモン族の不良メンバーにそそのかされ、ウォルトの愛車72年型グラン・トリノを盗もうとしているのを発見する。

この事件を契機に隣家とかかわりを持つようになった主人公は、やがて人間味ある彼らの暮らしぶりを知ることになる。相変わらず民族差別的な悪態をつきながらも、父性不在の一家に代わり、タオの導師的役割をも演じるようになっていく。

90点
アカデミー作品賞は、まさにいまの時代にピッタリな一本だった

今年のアカデミー賞は、未曾有の大不況&新大統領(しかも黒人)誕生という大ニュースがあったおかげで、例年に増して予想しやすい年であった。とくに作品賞ほか計8部門受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』については、私も100%の自信で選ばれるだろうと考えていた。

もっとも私の場合は、作品の出来不出来でこれが本命と読んだわけではなく、この映画イベントの投票システムから、ほとんど自動的にこれしかないとの結論に至ったにすぎない。アカデミー賞の本選は、6000名以上の会員によるごった煮投票。見る目のあるプロが、映画の良し悪しを選ぶわけではないから、出来ばえから予測しても意味はない。同じ理由で「あの映画のほうがよく出来ているのに、選ばれないのはおかしい」などと言うのは、的外れもいいところである。

大勢のごった煮会員が、「米映画業界振興のため(平たく言えばギョーカイが儲かるために)」もっとも適した作品に投票するのがアカデミー賞の根幹。ならば、そのときの米世論とかけ離れた作品を選ぶ可能性は低い。

90点
綾瀬はるか先生の就任挨拶が、個人的なオススメシーン

『おっぱいバレー』は、じつのところ中高年男性向きのオススメ品である。だが、いい年をしたオジサンが、娘のような年頃の受付嬢に「『おっぱいバレー』、大人一枚!」と、キョドった笑顔で言った日には、末代までの大恥だ。だから私は、いっそ題名を『哀愁の旅路』とかに変えたらいいと、4年ほど前から言ってきた。

というのはもちろん嘘だが、いろいろな媒体で似たようなことを言っていたところ、先日映画会社が「恥ずかしい人は、略語の『OPV』(おっぱいばれー)でも買えるようにします」と、大々的にマスコミを使って発表してくれた。おかげで、よけいにチケットを買いにくくなった。

1979年の北九州。とある中学校の弱小バレー部に、新任教師(綾瀬はるか)が顧問としてやってきた。ところがバレー部の面々は、そもそもスポーツなどやる気のないダメ生徒ばかり。誰かが拾ってきたビニ本にむらがるような、エロの事しか頭にない悪ガキだった。そんな彼らにやる気を出させようとする教師だったが、口だけは達者な中学生どもに逆に約束させられてしまう。「一勝したらおっぱいを見せること!」

90点
アナタは24時間後に死にますという「イキガミ」が届いたら?

漫画の映画化が最近目立つが、よもやこれほど高く評価できる作品に出会えるとは思わなかった。

現代日本に良く似た場所。この国では、「国家繁栄維持法」により安定した社会が実現している。それは全国の18から24歳の中から、1000分の1の確率で無作為に選び死んでもらう制度。通称・逝紙(イキガミ)を当人に配り、24時間後の死亡宣告を行う公務員(松田翔太)は、今日も様々な人間ドラマに立ち会うことになる。

わずかな犠牲で誰もが命の大切さを実感するこの制度により、犯罪も減り、活気あふれる社会が生まれるという設定。小学校入学時に国民へ一斉接種されるナノカプセルにより、誰かに理不尽な死が訪れる。イキガミを受け取った若者は、はたして残された24時間をどう過ごすのか。

90点
納棺師の仕事を描いた本格作品

ヴェネチアが大カントクにリップサービスしているのを真に受けて、日本のマスコミはそちらばかり報道していたが、真に注目すべきはモントリオール世界映画祭だった。ここでグランプリを受賞した『おくりびと』こそ、まさしく世界に誇るべき日本映画の傑作である。

念願だったチェロ奏者になった途端オーケストラが解散、莫大な借金を残し失業した大悟(本木雅弘)は、夢をあきらめ故郷の山形に戻った。それでも優しいけなげな妻の美香(広末涼子)のため、少しでも高給の仕事を探していた彼は、一つの求人広告に目をとめる。"旅のお手伝い"ということで、旅行代理店か何かと思い面接に行ってみると、旅は旅でもあの世への旅。遺体を浄め最後の別れを演出する、納棺師の仕事だった。

遺族の前でご遺体の仏衣を手際よく着せ替え、同時に手早く浄めていく。張り詰めた空気と真摯な表情が、観客までも緊張させる。普段見ることのない、このような技術と仕事が存在していたことに対する驚き。強力なオープニングである。

90点
16歳で妊娠した女の子はどんな行動をとるか?

『JUNO/ジュノ』はアメリカの映画業界にとって、間違いなく年度を代表する作品のひとつである。

わずか数館から始まった上映は、口コミや効果的なプロモーションで最終的には2千数百もの劇場へと拡大。製作費10億円足らずの低予算映画ながらその十数倍の興行収入をたたき出す作品なんてのは、さすがの米国においてもめったにあるものではない。

これはプロ野球で言えば、プロテストの補欠で一応取っておいた最低年収の選手が、いきなりホームラン王になるような抜群のコストパフォーマンス。アカデミー賞の司会者が本作をネタにジョークを飛ばした(「今年は殺人鬼の映画ばっかりだけど、10代の妊娠の話が入っててほっとしたよ」の"10代の妊娠の話"とは本作のこと)ことでもその注目度がよくわかる。

90点
スティーブン・キングの原作を変更、凌駕した大傑作

フランク・ダラボン監督とスティーヴン・キング原作のコンビには、「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」という傑作がある。鬼門とさえ言われるほど難しいキング作品の映画化を、ほとんど唯一成功させているのがこの監督なのだ。だから、ファンに人気の中篇『霧』をフランク・ダラボンが手がけたのはある意味必然。そしてその期待に彼は、三たび完璧にこたえた。映画『ミスト』は、必見の衝撃作である。

メイン州の田舎町。荒れ狂った台風が去った翌朝、物資の買出しに地元のスーパーマーケットに集まった住民らを、今度は視界ゼロの霧が襲う。ちょうど買い物に来ていた主人公デヴィッド(トーマス・ジェーン)と幼い息子のビリー(ネイサン・ギャンブル)は、やがて霧の中に恐ろしい"何か"がいることに気づく。

ホームセンターのような巨大な雑貨店が深い霧につつまれる様子は大迫力で、まさに映画芸術の真骨頂。

90点
2007年韓国映画のベストワン

いま韓国映画界では、"日流"なんて言葉があるくらい日本の原作ものが大人気だが、彼らが鈴木由美子の少女漫画『カンナさん大成功です!』を映画化すると聞いたときは、思わずお茶を吹いた。

高見盛級のデブで、かつ不細工なカンナさん(キム・アジュン)は、大好きな歌の世界に飛び込んだものの、回ってきた仕事は人気歌手アミ(ソ・ユン)のゴーストシンガー。歌の下手なアミの代わりにレコーディングしたり、コンサートでは口パクに合わせて舞台裏で歌うのだ。そんなカンナはイケメンプロデューサー、サンジュン(チュ・ジンモ)に片思い中だったが、ある日彼が、自分の容姿に対して心無い言葉を吐いているのを思いがけず聞いてしまい、ついに自殺を決意する。

さて、カンナさんはこの後色々あって自殺を取りやめ、代わりに全身整形で169cm、48kgの超ナイスバディ美女(キム・アジュン、二役)へと変身する。そう、『カンナさん大成功です!』は、「ブスでデブな女の子が、ある日、真逆のスレンダー美人になったらどうなるか」を描く物語である。映画でも原作でも、ヒロインのカンナは正体を隠したまま(整形をカミングアウトせず)、片思いの相手へと接近する。

90点
近年最高のミュージカルムービー

入場者全員にサントラCDを配るわ、試写会招待状は派手にばらまくわと、宣伝GAGAの異様なまでの太っ腹ぶりが目立った本作。東京を見下ろす、映画会社中ナンバーワンの瀟洒な試写室に招待された一般のお客さんも多かろう。公開までに見たいヤツは全員みちまうんじゃないかと思うほどの勢いは、しかしそれだけ作品の出来(今回はサントラのそれも)に自信があるということだ。一般に、期待はずれの作品の試写は少なく(知名度がある場合はいっそ行わず)、知名度はないがいい作品の場合は口コミ効果を期待して多くの人に見せたくなるものだ。

1962年、ボルチモア。超ポジティブでおデブな女子高生トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)は、大好きなテレビ番組コーニー・コリンズ・ショーのオーディションに果敢に挑戦、みごと新人ダンサーの座を勝ち取る。おまけにその風貌と明るい性格からお茶の間でも大人気に。これが面白くない旧人気ナンバーワンアイドルの金髪美少女アンバー(ブリタニー・スノウ)とその母でプロデューサーのヴェルマ(ミシェル・ファイファー)は、様々な邪魔をするが……。

ジョン・ウォーターズ監督(本作の冒頭にもマヌケなチョイ役で登場)のカルトムービーとして一部で知られていた同名作品が、トニー賞を独占したブロードウェイ・ミュージカル版を経て、再度映画に。その流れの中で元々のカルトっぽさは完全に払拭され、とにかく明るく楽しい、ストレートで前向きなミュージカルに生まれ変わった。オリジナルのいかがわしい雰囲気が好きな方には、まるで別物のような本作は受け入れにくいかもしれないが、個人的には既存のコンテンツを発掘育成、発展させた大成功例だと思っている。

90点
CGの進化によるアクションシーンの迫力の違いが歴然

30代くらいの人に聞くと、ダイハード第一作目こそアクション映画の最高傑作と推す人が多い。ブルース・ウィリスの出世作となったあの88年の傑作には、確かに文句の付け所がない。今見たら私も100点を献上するだろう。

だが、この4作目も相当なものだ。コンセプトが違うので単純に比較はできないが、期待すべき点を誤らなければこれだけ面白い映画はそうない。

久々に会う愛娘ルーシー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に冷たくあしらわれたジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)は、本部から近所に住む若いハッカーのマット(ジャスティン・ロング)を連行せよとの指令を受ける。つまらぬ任務に乗り気ゼロで向かったマクレーンだったが、マットの部屋に入ったとたん何者かによる激しい銃撃を受ける。

90点
特攻隊の真髄を完璧に表現

石原都知事の『俺は、君のためにこそ死ににいく』に加え、日系アメリカ人監督リサ・モリモトの『TOKKO-特攻-』など、最近は特攻隊をテーマにした映画の製作が相次いでいる。だが皮肉なことに、カミカゼ特攻隊とはまったく無関係の『300<スリーハンドレッド>』ほど、その歴史的意義を表現した映画はない。

紀元前480年、覇権国家ペルシア帝国はギリシャのいち都市国家スパルタを服従させるべく、使いを出した。しかし、スパルタのレオニダス王(ジェラルド・バトラー)はこれを拒否。迫りくるペルシアの大軍勢100万を、手勢わずか300で迎え撃つ覚悟を決める。

「シン・シティ」のフランク・ミラーによる劇画が原作というだけあり、一般的な歴史ものとはまったく異なる。徹底したエンタテイメント志向の作品で、歴史考証はあくまで二の次三の次。面白さのために躊躇なく史実のほうを変えている。

90点
他人を支配する面白さをサスペンス仕立てに

密室殺人やアリバイトリックに縁のない、ごく普通の人々の生活の中にも、スリリングな局面というものは存在する。そんな「何も事件がおこらない」日常で、サスペンス映画を一本作ってしまった、それが『あるスキャンダルの覚え書き』だ。

舞台はロンドン郊外にある労働者階級の中学校。頑固な性格で、毒舌と世間を斜に見る態度で孤立気味だったベテラン女教師バーバラ(ジュディ・デンチ)は、新任の若き美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)に目をつける。豊かな家庭の幸せな妻でもあり、高い教養と素直な性格をもつシーバとなら、友情を築けると直感したのだ。

さて、ホントは友達がほしかった孤独なバーバラは、あるときシーバの不倫現場を見つけてしまう。しかも相手は15歳の教え子、場所は学園内ときた。こりゃまた羨ましいなどと思うのは私だけで、バーバラは違った。怒りと失望、そして相手の弱みを握った優越感の間で葛藤した彼女は、後者を優先させることにする。

90点
楽しめる層はかなり限定されるが、当てはまれば敵なしの面白さ

この映画は「期待せずに見たら大当たり」という典型例のような作品であった。

とうとう破綻のときを迎えた日本経済を救うため、ある 財務官僚(阿部寛)はタイムマシンでその発明者(薬師丸ひろ子)を1990年に送り込むことを決めた。バブル崩壊の引き金となった大蔵省通達、いわゆる総量規制を止めるためだ──というあらすじ自体は、なかなか面白そうと思ったものの、日立製作所とのタイアップによる「ドラム型洗濯機タイプのタイムマシン」などというバカげた設定をみて、どうせろくでもないバカ映画だろうと、高をくくっていたのだ。

むろん、上記ストーリーから一瞬連想するような社会派SF、すなわち経済問題等を過去からシミュレーションする知的な作品なんぞを期待してはダメだが、タイムスリップをネタにしたコメディとして見れば、すこぶる出来のよい一本であった。

90点
見終わって大いに考えさせられる一本

米国を代表するスターであり映画監督のクリント・イーストウッドは、保守的な思想を持つ人物として広く知られている。しかし意外にも彼が作る映画は、思想的に極端に偏ることがなく、公平かつ冷静な視点で物事を見たものが多い。

今回二部作として映画化される史実、"硫黄島の戦い"は、私たち日本人も当事者の一方であるが、彼のような監督が撮るという事には、一種の安堵感すら感じられる。とくに、プロパガンダくさい戦争映画を嫌う観客(例:『パール・ハーバー』のトンデモ度の高さに閉口した皆々様)にとっては、なおさらだ。

さらに、現在公開中の序章にあたる『父親たちの星条旗』を観た方にとっては、その出来栄えが平均以上であるから、期待もより大きいに違いない。

90点
8分間ワンカット、映画史に残る衝撃の映像体験

環境ホルモンや電磁波の影響と思われる若い男性の精子の減少、女性の社会進出による晩婚化、そして格差社会による低所得者層の増加に伴い、少子化が叫ばれて久しい。しかしながらこの『トゥモロー・ワールド』の世界は、少子化を飛び越えて"無子化"になってしまった近未来だ。

舞台となるのは西暦2027年。この時代の人類最年少はなんと18歳。つまり18年間、新生児は誕生していない。原因は不明で、希望を失った世界には内戦やテロが頻発し、国家はことごとく壊滅状態に。ほぼ唯一、強力な軍隊で国境を守る英国だけが、ぎりぎりの秩序を保っている状況だ。

さて、主人公の官僚(クライヴ・オーウェン)は、かつて共に学生運動を戦った元妻(ジュリアン・ムーア)率いる反政府組織に拉致される。聞くと、彼女らが保護する移民集団のひとり、ある黒人女性が妊娠しているという。

90点
他の追随を許さない、圧倒的な完成度の高さ

『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』に続く、ディズニー/ピクサーによる3D-CG長編アニメーション。冬に公開された前二作と違い、今年は満を持して、最激戦区たる夏シーズンにぶつけてきた。今回の内容は、擬人化された車たちが繰り広げるファンタジードラマだ。

主人公は、天才新人レースカーのマックィーン(声:オーウェン・ウィルソン)。圧倒的な才能を持ち、自己中心的な性格の彼は、ひょんなことから地図にも載っていない田舎町ラジエーター・スプリングスに迷い込んでしまう。

『カーズ』は、実在のルート66の物語からヒントを得て作られている。それは、わずかな時間を短縮するため建設されたバイパス道路のせいで、うち捨てられた小さな町の衰亡の物語だ。その町をモデルに作られたラジエータースプリングスには、あらゆる場所にノスタルジックな思い出がつまっていて、日本人である私たちの琴線にも大いに触れる。

90点
大人が楽しめる、本格的な犯罪娯楽映画

銀行強盗を描く映画は数あれど、この映画の犯行の手口にははっとさせられる。なんとこの犯人は、人質全員に自分たちと同じ服を着せてしまうのだ。

白昼堂々と、ニューヨークのマンハッタン信託銀行を襲った犯人(クライヴ・オーウェン)とその仲間たちは、人質全員の服を脱がし、自らと同じ没個性な黒スーツを着せる。前例のない犯行に翻弄される警察だが、現場を指揮する刑事(デンゼル・ワシントン)は出口を固め、犯人たちを完璧に閉じ込めることに成功する。しかし、犯人と人質の区別がつかないため、下手に突入できない状況が続いていた。そんな中、銀行の会長は、やり手の弁護士(ジョディ・フォスター)を呼び出し、犯人たちとある交渉をさせるべく、現場に送り込むのだが……。

『インサイド・マン』は、アメリカ映画らしい重厚な大傑作をみたと満足できる、すばらしい一本である。クールなタイトル、見事なトリック、鑑賞後に思い起こすと、いくつも気づくことが出来る伏線の数々、優れたユーモア、そして役者の演技。けなすところが一切ない、見事なクライムムービーだ。

90点
ショッキング映画、妊婦その他心臓の弱い人は絶対鑑賞禁止!

凄い映画が現れた。万人向けではないが、たいへん知的で、インパクトの強い傑作の誕生である。

カンヌ国際映画祭でも絶賛された、このフランス映画『隠された記憶』は、ジャンルでいえばスリラーという事になろう。テレビキャスターとしてそこそこ成功し、妻や息子と幸せに暮らしている男の元へ、1本のビデオテープが送られてくるところから話は始まる。

そのテープの内容は、延々と自宅の玄関が映されているだけという、意味不明なものだった。しかし、やがて第2弾、第3弾が届くにつれ、家族の恐怖は増してゆく。そういうストーリーだ。

90点
前作より単純明快、ぜひ『ドッグヴィル』を見たあとに

『マンダレイ』は、あの斬新な佳作『ドッグヴィル』の続編だ。ちなみに『ドッグヴィル』最大の特徴は、床に白線を引いただけで壁も屋根も無い、だだっ広い体育館のような場所をひとつの村に見立て、そのセット内のみで3時間の映画を作りあげた点。役者たちがパントマイムで玄関のドアを開けると、キィとドアがきしむ効果音が挿入される。じつに斬新な演出の映画であった。

この『マンダレイ』も、まったく同じ手法で、ヒロインも同じ(ただし演じる女優は変更された)。彼女が別の場所(マンダレイという名の農園)で、別のドラマを繰り広げるPART2だ。

ときは1933年のアメリカ。ドッグヴィルを出たグレース(ブライス・ダラス・ハワード)は、ギャングのボスである父らと共に、南部のマンダレイという農園にたどりつく。そこはなんと、いまだに白人による黒人奴隷制が続く、驚くべき土地だった。正義感にかられたグレースは、父の部下のギャングたちの実力行使によりすぐに黒人奴隷を解放、父の反対を無視して民主的なルールをマンダレイに広めようとするが……。

90点
楽しくて心温まる、幸せになれる映画

犬の考えていることが人間の言葉でわかったら、どんなに面白いだろうという妄想は、犬好きなら一度はしたことがあるはずだ。そして、それをそのまま映画にしたのがこの『イヌゴエ』。登場する無愛想なフレンチブルドッグの「心の声」が、主人公に聞こえてくるというのがメインアイデアだ。

この主人公は、臭気判定士(この資格は実在する)として働く青年(山本浩司)。彼は、人間としてはずば抜けた嗅覚を持ち、鋭敏過ぎて普段はマスクをしていないと生活できないほどだった。そんなある日、彼は父親から、拾ったフレンチブルドッグを旅行の間預ってくれと頼まれる。臭いに敏感な彼にとって、犬などとんでもないと断ったが、父は勝手にアパートに犬を置いて出かけてしまった。

ここから彼と犬の共同生活が始まるのだが、この主人公、なんとこの犬の心が「声」として聞こえることに気づく。それも関西弁の無愛想なオッサンの声として。

90点
観るべき価値のある、本物の映画

今になってみると、この「スタンドアップ」が果たして社会派映画として本当に優れていたのかどうか、その点についてだけはどうも自信がない。なにか、うまく騙されたような、そんな気もするのである。しかし映画作品としては、よい脚本家、よい監督、よい俳優がパワーを出し切った、紛れもない傑作である事だけは確かだ。

舞台は80年代終わりのアメリカ。ミネソタの鉱山に、炭鉱夫として就職したヒロインの苦難を描いた物語。

長年、男の職場として存在してきた鉱山に、男女平等と法律の名のもと、女性が入り始めてきた時代。秩序を乱された職場の男たちの態度は、当然冷たい。早速、猛烈ないじめが始まる。いや、いじめやセクハラもどきを通り過ぎて、ほとんど犯罪である。それほど強烈な虐待、差別に、彼女をはじめとするわずか数名の女性労働者はさらされる。

90点
筋肉はT-レックスの牙よりも強し

『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の監督、ピーター・ジャクソンは、9歳のときにテレビで見た、『キング・コング』(1933)に衝撃を受け、映画監督を志したという。その情熱は、12歳のときにミニチュアを用意して、自らリメイクをはじめたほど。やがて彼は30年の時を経て、本作品を監督、ついに長年の夢を実現させたことになる。

この、ピーター・ジャクソン監督によるリメイク版『キング・コング』をみて、最も私が素晴らしいと感じる点は、まさにその、作品に対する愛情の深さにある。随所にキングコング、そしてオリジナル作品への思いの深さ、敬意が感じられるし、全身全霊をかけたと思わせるほどのパワーも感じられる。さすがは「33年のオリジナルが一番好きな映画」と公言しているだけのことはある。

舞台は1930年代、不況真っ只中のアメリカ。野心家の映画監督(ジャック・ブラック)は、未知なる島の伝説を聞き、そこで映画を撮るべく、主演女優(ナオミ・ワッツ)や脚本家(エイドリアン・ブロディ)を連れて、航海に出る。かくしてその島「スカル・アイランド(髑髏島)」に到着するが、そこには恐るべき巨大生物コングが、島の主として君臨していた。

90点
オトナが泣ける、優れたファンタジー

現在大ヒット中の「チャーリーとチョコレート工場」の監督・主演コンビによる、ストップモーションアニメの長編。

舞台は19世紀のヨーロッパ。主人公の内気な青年(声:ジョニー・デップ)は、ある成りあがり一家の息子。彼は親同士の都合で、没落貴族の娘(声:エミリー・ワトソン)と結婚することになっていたが、それでも彼女の清楚な美しさを何より愛していた。ところが式の前夜、慣れない「誓いの言葉」を森の中で一人練習していた主人公が、彼女の薬指に見立てた枯れ枝に結婚指輪をはめた瞬間、地中から半分腐りかけた花嫁の亡霊(声:ヘレナ・ボナム=カーター)が現れ、「喜んでお受けいたします」と嬉しそうにつぶやくのだった。

「ティム・バートンのコープスブライド」は、「チャーリーとチョコレート工場」の予想以上の大ヒットにより、その観客動員を受け継ぐという、最高の形でスタートを切る形になった。これは、この映画を高く評価している私としても嬉しいことだ。こういう素晴らしい映画は、なるべく多くの人に見てもらいたい。

90点
オリジナルの魅力をよく理解した素晴らしいリメーク

少年野球映画の不朽の傑作『がんばれ!ベアーズ』(76年)のリメイク。

かつてはメジャーリーガーだったが、いまやアル中の害虫駆除業者に落ちぶれた主人公(ビリー・ボブ・ソーントン)に、リトルリーグのチームのコーチの依頼がくる。単に金のために引き受けた彼だったが、そのチーム"ベアーズ"の恐るべきダメさに愕然とする。悪ガキやいじめられっ子、英語すら話せない外国人、車椅子の少年など、メンバーはやる気のない連中ばかり。案の定、なんの練習もせず挑んだ初戦において、ベアーズは想像を絶する大敗を喫してしまう。

いやはや、素晴らしいリメイクである。オリジナルの魅力をよく理解し、少しだけ新しさを加えた忠実なつくり。やはり、あれだけ完成度の高い脚本は、そうそう変えられるものではない。また、変えるべきではない。しかし、数十年を経て、何も変えていないこのリメイクをまったく古さを感じずに見ることが出来るとは、モトがいかに完成度の高い物語だったかということでもある。

90点
低予算なのに年間ベスト級の大傑作

新進気鋭の監督作品が集まるサンダンス映画祭でも大好評だったサスペンスホラー。今週は、今年で一番多数の傑作が揃った激戦区の週であるが、中でも私がイチオシにしたいのがこの「ソウ/SAW」だ。

目がさめるとそこはだだっ広いバスルームのような部屋。自分の足は太いチェーンで部屋の隅につながれている。部屋の対角線上には見知らぬ男が同じようにつながれている。そして恐ろしいことに、二人の中間点、部屋の中央部には、頭を打ち抜かれうつぶせに倒れた死体が横たわっていた。なぜこんな場所にいるのか、さっぱりわからないまま、二人に「6時間以内に相手を殺さないと、2人とも死ぬ」とのメッセージが告げられる。

低予算なのに安っぽさはなく、ものすごい面白さ。今年のホラー、サスペンスの中ではダントツの傑作の登場だ。こんなに恐ろしい映画は数年に1本あればいいほうだろう。怖くて怖くて、見ちゃいられない。

90点
大爆笑、最高のバイクアクション映画

アメリカのバカ若者たちが大型バイクで暴走する様子をけれん味たっぷりに描いたアクションムービー。

主人公(マーティン・ヘンダーソン)は、恋人とやり直すためこの町に戻ってきた。ところが町のバイカーギャング(暴走族みたいなもんだ)の中ボスとトラブり、そいつに大ボス(アイス・キューブ)の弟殺しの濡れ衣を着せられてしまう。

私が『トルク』の試写を見たのは、なんと今年の1月だ。著名なスターが出ているわけでもなく、監督も新人。要するにまったく売れる要素がないということか、公開も延び延びになってはや10月である。しかし、この映画ほど私が公開を望んでいた作品もない。早く大画面といい音響でもう一度見たいと願っていた一本なのである。

90点
アクション映画史に残るであろう強烈な個性の一本

タイの元スタントマン俳優トニー・ジャー主演のリアルアクション映画。今後の映画界を変える勢いを感じさせる、ものすごい一本である。

タイの田舎のある村の守り神“オンバク”像の首が何者かに持ち去られた。村の長老は像の奪回のため、村一番のムエタイの使い手である若者(トニー・ジャー)を送り出す。

「一つ、CGをつかいません!」「二つ、ワイヤーを使いません!」「三つ、スタントマンを使いません!」「四つ、早回しを使いません!」 という、時代に逆行した強烈なキャッチコピーによる予告編を初めてみたときは、「どうせチープでしょぼいおバカ系のC級アクション映画だろう」とたかをくくっていた。(公式サイトで見られる特報と予告編は爆笑もので必見だ)

90点
比較的一般人でも見やすい歴史超大作

トロイ戦争を描いた歴史超大作。ブラッド・ピット久々の主演作品で、彼の徹底した役作りも大きな見所だ。

『トロイ』は、ハリウッドで伝統的に作られてきた戦記もの超大作の流れにある作品だが、比較的娯楽要素が強く、万人受けすると思われる仕上がりだ。予告編でも流されている、何万人もの兵や帆船をCGで表現した戦争シーンなどは、『ロード・オブ・ザ・リング』等で類似の場面を体験済みの人にとっては真新しいものではないが、やはり見ごたえがある。

だが『トロイ』の真の見所はそうした大掛かりな映像スペクタクルよりも、伝説の英雄たちの魅力的な競演だろう。中でも映画版の中心となるのが、ブラッド・ピット演じる、無敵のギリシャ戦士アキレスと、トロイ王国の王子にして最強の戦士ヘクトルだ。こちらは190cm近い長身のエリック・バナが演じている。

90点
家族で見れる娯楽映画としてパーフェクト

ディズニーランドの人気アトラクションを元に映画化した作品。元のアトラクションがいわゆるホラーハウス、お化け屋敷に属する類の乗り物なので、私も最初、この映画も単なるお気楽ホラーなのかなと思っていた。しかし、実際のところはなかなかの力作、本格的な娯楽映画であった。

わずか88分間の上映時間のほとんどは、まさにアトラクションのように楽しいスペクタクルの連続。画面に迫りくるゴーストに対し、子供は素直に泣き叫び、大人は年甲斐もなくビックリしてしまう自分に苦笑しながら楽しめる。このゴーストたち、幽霊の癖にそれぞれ妙に人間味があって憎めない。

運悪くこの幽霊屋敷、ホーンテッド・マンションに閉じ込められてしまうエディ・マーフィ一家は、それぞれ離れ離れになったりくっついたりしながら、数々の試練でその家族愛を試される。彼お得意のコミカルな演技が作風にぴったりで、コメディとしてもよくできている。

90点
インパクト強烈、美しい恋愛映画

マスコミ用試写室が連日騒然としたという、韓国製恋愛映画。たしかに、この映画の衝撃は半端ではない。

韓国だからできたのか、この監督だからできたのか、それはわからない。だが、一つだけはっきりといえるのは、この映画は決してハリウッドや日本では作れなかっただろうということだ。

もしあなたがスクリーンから強烈なインパクトを受けるという体験をしたいのなら、今週は『オアシス』を見るべきだ。この映画はほとんど映画界の突然変異のようなもので、今後も似たような作品が現れるとは、私には思えない。

90点
圧倒的な映像に興奮し、感動的な物語に涙する

アメリカの大恐慌時代に実在し、庶民の希望として愛された競走馬シービスケットと、その騎手ら3人の男たちの半生を描いた感動ドラマ。

世の中には超大作といわれ、派手な映像をウリにする映画が数多くある。だが、純粋に映像のパワーのみで感動させてくれる作品など、いったいいつくあるだろう。『シービスケット』は決して超大作とはいえない映画だが、その映像の迫力、観客の心に訴えかけるパワーは紛れもない一級品だ。

『シービスケット』のレースシーンの迫力は、工夫されたカメラワークとそれにシンクロする見事な音響、思いきり感情を揺さぶる音楽によって我々を圧倒する。ただの競馬の場面が、ここまでのスペクタクルになるとは、見る前は予想だにしなかった。

90点
2004年お正月シーズン最大のオススメ

全米アニメ映画史上最大のヒットとなり、今年の夏シーズン最大の話題作となったアニメーション映画。人間にさらわれたクラウンフィッシュのニモを、ふがいないお父さんが危険な外海を旅して探しに行くという物語である。

一見、子供でもわかる単純なストーリーなのに、なぜ大人が見てもこんなに面白いのか。その理由は、キャラクター作りの巧みさがまずあげられる。ニモは、人間で言えば軽度の障害者で、おまけに過保護に育てられ、社会性がやや不足気味である。そして真の主人公である父・マーリンは、自分が無力だったため、過去に大切な人を失ったというトラウマがあり、まともな子育てができない男である。

ほかにも主要なキャラクターがいくつか出てくるが、どれも単純な絵柄の中に複雑な過去をにおわせる、深みのある設定となっている。そのため、大人が見ても共感しやすい。感動的なセリフの数々も、こうしたキャラクターがしゃべってこそ客の心に届く。

90点
年間ベストクラスの傑作サスペンス

映画一本が、電話ボックスの中だけで展開されるという、斬新なアイデアのシチュエーション・スリラー。映画の中と実際の時間の経過がシンクロするつくりになっている。

それにしてもすごい映画である。電話ボックスひとつで、立派に映画を成立させてしまった。『フォーンブース』は、制約だらけのちっぽけな舞台へ、これでもかというくらい、たくさんのアイデアをつめこんだ、一級のサスペンスだ。その切れ味鋭い着想と出来映えには、ある種の嫉妬を覚えるほど。

脚本家によると、メインアイデア自体は20年も前に浮かんだものだという。そして最近、突然プロットを思いつき、わずか1週間で脚本を書き上げたのだそうだ。なるほど、そう言うものだろうと思う。長年寝かせてきたアイデアと、ストーリーの材料となる数々の断片が、あるときを機会に一気に組みあがるというのは、実感できる話ではある。

90点
アフリカの魅力が詰まったエンターテイメントの傑作

本国のフランスではアニメーション映画史上、最高のヒットを記録したという、アフリカを舞台にしたアニメ。アフリカをよく知る監督が、アフリカを舞台に、アフリカの赤ちゃんを主人公に描く、教訓的な話である。

ズバリいうと、『キリクと魔女』は超1級のエンターテイメントである。こんなに面白くて、心に残るアニメーション作品は、久しぶりに見た。

アニメと言っても、ディズニーの優雅なフルアニメーションorCGアニメーションや、いわゆるジャパニメーションともまったく違う。わかりやすく言えば、動く絵芝居といった素朴な味わいである。絵柄も独特で、インパクトが強い。だが、それになれる頃には、このアフリカの雰囲気溢れる傑作に、多くの方がどっぷりとはまっている事だろう。

90点
落ちこんでいる人必見の、弱者に対する応援歌

巨大えびをボクサーに育て、一攫千金を狙う中年男の話。TVドラマの中で取りあげられるなど、話題のイギリス映画である。動物愛護の観点から、日本以外ではほとんど上映されないそうだ。

「えびボクサー」などと聞けば、「いったいそれはなんだ?」と、内容をまったく想像できないのが普通の感覚であろう。私も、鑑賞前はなるべく予備知識を入れずに見るタイプなので、これがいったいどんな映画なのか、さっぱりわからない状況で見た。

結果からいえば、『えびボクサー』は、『フル・モンティ』のような、弱者への応援歌であった。イギリス労働者階級の、さえない頑固オヤジが主人公で、妙に素直な気のいい若者と、H大好きな、浮気もののちょっと頭の弱いそのGFを引き連れ、巨大えびを使って、なんとか一旗あげようと奮闘する物語である。人間味溢れる、憎めない連中の姿には、自然に感情移入ができる。

90点
夏休み最高のイベントになるほど面白い娯楽映画

アイマックスシアターなどの、大型スクリーンの劇場で、3D(立体)上映される

47分間のドキュメンタリー映画。巨大スクリーン上映のため、日本語吹き替え版のみの上映となる。

この手の3D映画というのは、日本よりアメリカで一般的で、あちらのシネコン(映画複合施設)には、だいたい1つはこうした大型スクリーンの上映館が併設されている事が多い。

90点
3部作のpart2としては、映画史上まれに見る出来のよさ

いわずと知れたSF3部作のPART2。今年の11月には、早くも完結編のPART3『マトリックス・レボリューションズ』が公開される。この2本と、テレビゲームの「エンター・ザ・マトリックス」のCGドラマ部分は、全て同時に撮影された。きっと俳優達は、今がいったいどの撮影なのか、ほとんど分かっちゃいなかったに違いない。

で、『リローデッド』であるが、前作のような、「革命的な映像・特殊撮影」は、素人目にはあまり感じられない。これは、あくまでCGの専門家で無い私の目でみて、という意味である。専門的に見れば、相当な進歩があると思われるが、普通に見て感じるのは、「前作ほどの衝撃的な映像は無いな。どっちかというと、既存の技術を洗練したって感じだな」ってな感じである。

だがしかし、このことは全くマイナスではない。たとえ前作と比べても『リローデッド』は、全く劣らないほどの出来映えとなっている。

90点
衝撃的で面白い、GW最大のオススメ

『アメリ』で、日本でも大人気になった女優オドレイ・トトゥの主演作。これは実に面白い!

お洒落で、映像もきれいで、実にフランス映画らしい、素敵な恋愛映画だと私は最初見ていて思った。

ところがどっこい、映画の中盤で信じ難い場面が出てくる。レティシア・コロンバニ監督は、わずか28歳で、実際私も本人をみたが、パリを普通に歩いていそうな普通のフランス娘って感じの人で、まさかこんな凄い事をやる人物には見えなかった。

85点
全アベンジャーズシリーズでも出色のアクション

私はかねてからアベンジャーズシリーズの問題点として、ヒーローの供給過剰と悪役の存在感不足をあげてきた。それを何とかしないとジリ貧だと予言していたわけだが、マーベルかディズニーの偉い人が感心にも当サイトを読んでいたか、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」ではその不安を払しょくする見事なストーリーを出してきた。

アベンジャーズは世界を救ってきたが、その代償として各地は深刻なダメージを受けていた。やがて、ただの民間組織ながら我が物顔で世界中を跋扈するアベンジャーズに対する世界の目は厳しいものとなっていった。あるテロ事件の捜査で犠牲者を出したことを契機に、ついに彼らを国際的な組織の管理下に置くべきとの声が高まってきたが、アベンジャーズのリーダー、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)は強く反対する。

キャプテンことスティーブ・ロジャースは、かつて裏切られた経験からもともと組織というものを信用していない。と同時に、アベンジャーズ随一の純粋な愛国心の持ち主であり、善悪に対する自分の判断というものに絶対の自信を持っている。合議制が常に正しい結論を出すわけでなく、まともなリーダーならば独裁制のほうが世の中がよくなる論すらあることを考えれば、彼の考えには十分な説得力がある。

85点
日本じゃ作れないだろう

04年の「スーパーサイズ・ミー」をヒントに作られた「あまくない砂糖の話」は、ライザップブームはじめ糖質制限ダイエット全盛の現代日本にこそふさわしい、タイムリーなドキュメンタリーである。

オーストラリア人のデイモン・ガモー監督は、妻の妊娠を機に安全な食生活について考え始める。この奥さんはなかなか優秀で、ガモー家の食生活に特段の問題点はないようにみえる。だが生まれてくる子供のための食事はどうだろう。世間に溢れる子供用の加工食品、健康によいとされるシリアルやジュース。そういうものに問題はないのか、もっというなら、それらに大量に含まれるシュガー(砂糖、果糖)は安全なのか。

そして彼は決意する。シュガーを自ら60日間とり続けて人体実験してみよう、と。

85点
足るを知る者は富む

予測のつかないストーリー展開でスペイン語圏の映画祭等で高く評価された「マジカル・ガール」は、一筋縄ではいかない奥深さを感じさせる良作である。

白血病で余命わずか娘(ルシア・ポリャン)のため、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のレア衣装を入手しようとする父(ルイス・ベルメホ)。だがその衣装はプレミアが付き、高額となっていた。仕方がなく、失業中の父がとった手段とは……。

青白い顔をした女の子が一心不乱にアニメソングを踊る。どこかドン引きしてしまうシーンから始まる「マジカル・ガール」は、その不穏な映像の質感通り、たんなる美談や感動もの方面には進まない。むしろホラーでもスリラーでもない、大人のためのすこぶるガチな恐怖映画と言えるだろう。

85点
アフガニスタンの国鳥

地球の裏側を飛ぶ遠隔操縦の無人機を操縦し、敵を爆撃したパイロットがあることに気づいた。今吹き飛ばした中に、子供がいたように見えたのだ。同僚にチャットでそれを問うと、彼もたぶんそうだという。するとそのチャットに軍の偉い人が割り込んできてこういった。「違う違う、あれは犬だった。心配するな」と……。

ラスベガス郊外に住むイーガン少佐(イーサン・ホーク)は中東で活躍した元F-16のパイロットだが、今では近くの空軍基地に努めている。だが彼は毎日アフガニスタンの上空に「出撃」してタリバンを駆逐している。彼が操るのは無人機=UAV。妻子が待つ家庭と戦場をマイカーで行き来する異様な毎日は、やがて彼の心をむしばんでゆく。

冒頭の実話は映画とは関係ない話だが、この映画のテーマを象徴しているので紹介した。同時に、いわゆるブラック企業で働く普通の人々の心にも刺さる問題ではないだろうか。すなわち、自分のポリシーや思想、やりたいこととは真逆のことを命じられ、こなし続けていると、どんなに屈強な精神を持つものでもつぶれることがあるという問題だ。

85点
中年世代向けスパイ映画

イーサン・ハントとジェームズ・ボンド両横綱が揃い踏みの2015年に、両者の間に割り込む形で入ってきた「キングスマン」は、しかし巨頭をたたき落とす勢いの傑作スパイ映画だった。

サヴィル・ロウのテーラー「キングスマン」をアジトとする超国家的スパイ組織のハリー(コリン・ファース)。彼は組織の欠員を埋めるため、素質ある不良少年エグジー(タロン・エガートン)をスカウトする。

個性的なヒーロー映画『キック・アス』で知られるマシュー・ヴォーン監督らしく、のっけからこのジャンルへの思いこみを利用した強烈なミスリードで観客を仰天させる。そのショックから立ち直らないうちに一気に物語に引き込む鮮やかなストーリーの立ち上げである。

85点
テーマ曲からアドレナリン全開

映画界はリブート花盛りだが、ターミネーターシリーズ5作目にして新三部作の一作目となる「ターミネーター:新起動/ジェニシス」はすごい。なにしろ3作目と4作目をほとんど無かったことにして、事実上の3作目となる形の超変化球型リブートを果たしてしまったのだから。

2029年、ついにスカイネットとの戦いに勝利したジョン・コナー(ジェイソン・クラーク)。だが機械軍は敗北の直前、T-800型ターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)を1984年に送り込み、ジョンの母親サラ(エミリア・クラーク)を抹殺しようと試みていた。ジョンは急きょ追撃に部下のカイル・リース(ジェイ・コートニー)を送り込むことを決めるが……。

おやおや、ストーリーを見るとまさにパート1の前日譚である。この後、懐かしい全裸の登場シーンを経てアーノルド・シュワルツェネッガー演じるT-800はバイカー3人組に近づいていく、既視感たっぷりの映像が始まるが……。

85点
エンタメ性抜群な哲学的映画

大ヒット中「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でヒャッハーな暴走族に追いかけられるトラックを運転するトム・ハーディだが、続いて公開される主演作「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」では、妊娠させてしまった不倫相手に呼び出され、ひたすら夜の高速道路を運転する役を演じている。つくづくドライブ運のない男である。

超高層ビルの現場監督として、重要な作業を明朝に控えるアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)は、なぜか自宅と逆方向にハンドルを切り、ハイウェイに乗る。彼が向かうのは1年前に不倫した女の病院。彼女は彼の子を妊娠し、今まさに出産しようとしているのだった。

不倫相手が妊娠した、というのは身近ながらきわめて深刻なドラマである。ところが本作はすでにその女性が産気づき、今すぐ来て! というところから物語が始まる。映画は病院までのおよそ90分間のドライブを、リアルタイムで描く「動く密室劇」である。

85点
傑作2本の要素を融合

「トラッシュ!-この街が輝く日まで-」のスティーヴン・ダルドリー監督は、舞台を特定しない原作をブラジル、リオの物語に改変するに当たりフェルナンド・メイレレスを製作チームに引き込んだ。

その結果、本作は「リトル・ダンサー」(00年、英国)の優れた少年ドラマと「シティ・オブ・ゴッド」(02年、ブラジル)の超リアル犯罪ものの強烈なコラボレーションとして成功した。

リオデジャネイロ郊外の廃棄場でゴミ拾いをして生計を立てる3人の少年は、ある日ひとつの財布を見つける。好奇心旺盛なラファエル(ヒクソン・テヴェス)は、この財布を大人たちが血眼で探していることから何かを察知し、あえて彼らに渡さずその秘密を探ろうとする。

85点
戦場のリアリティの中で光るセンチメンタリズム

「フューリー」は軍経験者のデヴィッド・エアー監督が、博物館から本物の戦車を借りて撮影した戦場映画である。戦闘映画といってもいい。本物の戦車でタンクムービーをとるなんて、まさに中二の夢そのものだが、実現のみならず稀代の傑作に仕上げてしまうのだからハリウッド恐るべし。

1945年の欧州戦線。連合軍の戦車乗り・通称ウォーダディー(ブラッド・ピット)は、フューリーと名付けた愛車のシャーマンM4中戦車を駆り、仲間たちと鉄壁のチームワークで生き残っていた。ところがあるとき、戦死した仲間の補充に新兵(ローガン・ラーマン)をあてがわれ、危険な前線任務を命じられる。

敵の巨大戦車ティーガー戦ほか、とてつもない恐怖と興奮を与える戦闘シーンの連続である。跳弾の表現や貫通力重視の対戦車弾の特性など、ディテールにこだわった(かつ分かりやすく観客に伝える)演出は画期的で、今後本作はタンクムービーの新たなる最高峰として映画史に君臨することになるだろう。

85点
全映画作家が嫉妬してしまうのではと思うほど良い

グザヴィエ・ドラン監督は17歳の時に脚本を書いた「マイ・マザー」を19歳で監督して絶賛された天才肌の映画作家である。そしてその才気は、暴力による支配をメインテーマとするドラマ「トム・アット・ザ・ファーム」で再び証明された。

恋人ギョームの葬儀のため、彼の実家を訪れたトム(グザヴィエ・ドラン)は、そこで自分とギョームの関係が少しも母親に知らされていなかったことにショックを受ける。それどころか、唯一それを知っているらしいギョームの兄フランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)からは、絶対に二人の関係を口にするなと脅されるのだった。

紙ナプキンに何事かを書き殴る冒頭のアップショットからして異様な、あらゆる点に力強さを感じる映画である。ここで観客が想像する今後のいろいろな展開を、あっさり裏切り翻弄する筋運びも抜群にうまい。

85点
天才が天才を描く

この映画の監督クリント・イーストウッドの息子カイル・イーストウッドは9月、東京ブルーノート公演のため来日した。時計を見て、まだ開演までは随分あるなと赤ワインを堪能していた私だが、そこに突然カイル本人がのそのそとやってきて、何やら機材の調整を始めたので驚いた。そんなことはスタッフにでもやらせておけばいいのに、しゃがみこんで当たり前のように自分でごそごそやっている。食事をしている観客の多くは気づいてもいない。

映画「ジャージー・ボーイズ」の音楽にも関わったこの父親似のアーティストの気取らない姿と、一世を風靡したバンド。フォー・シーズンズの共感あふれる舞台裏を描いた映画のシーンが、そのとき思わず頭の中で重なった。

ニュージャージーのヴェルビルという町は貧しく、外に出ていくには事実上、音楽で成功するほかない。チンピラのトミー(ヴィンセント・ピアッツァ)もそれを夢見る一人だったが、彼の前にすばらしい声を持つフランキー(ジョン・ロイド・ヤング)が現れる。さらにボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)なる若きシンガーソングライターのメロディを得て、ついに彼らの運命は動き始める。

85点
チャラ男トム・クルーズのゲームブック人生

日本原作の超大作がこの夏は続くわけだが、圧倒的イチオシの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は、原作要素を大幅に改編した大胆さが功を奏した。

近未来、異生物による侵略を受けた人類は、空爆が効果を上げない敵に対し重武装の歩兵で対峙していた。戦況は芳しくなく、民間人へのプロパガンダを受け持っていたウィリアム・ケイジ少佐(トム・クルーズ)まで最前線におくられることになったが、戦闘訓練を受けていないケイジは戦闘開始数分で戦死する。だがその瞬間、彼は出撃前日の朝へとタイムリープしているのだった。

桜坂洋のライトノベルがハリウッドの予算178億円の超大作になるときいて、これはとんでもないジャパニーズ(?)ドリームだと思ったものだが、実際に読み比べてみると、ストーリーも舞台もビジュアルもほとんど映画オリジナルで、タイムリープのアイデアを拝借して好き放題つくりかえたという印象である。だがもちろん、それでもこの傑作映画の根幹が原作にあることは事実で、それはたいへん誇らしいことだ。

85点
ビジネスオリエンテーリング

娯楽要素が強く賞うけはしないかもしれないが、ことによると今年一番観客から愛される映画は「LIFE!」かもしれない。

雑誌「LIFE」の写真管理部員ウォルター(ベン・スティラー)は、引っ込み思案の小心者だったが、いつも妄想の中ではヒーロー的存在にあこがれていた。ネット時代の運命か、長年勤めたこの雑誌も休刊が迫るが、肝心の最終号に使用する表紙のネガが紛失していることに気付く。急ぎカメラマンのショーン(ショーン・ペン)に連絡を取ろうとするが、世界を飛び回る彼は捕まらない。やむなくウォルターは、行ったこともない秘境へと単身飛び出すことに。

人は旅で変わると言われるが、「LIFE!」は必ずしもそういうことを語っていない。少年時代の忘れられた趣味であるスケボー技術に救われる展開にしても、彼が元々持っていた経験、スキルであり、旅はそれの価値に気づかせただけのわき役である。

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