「厳正な対処」を強く求める安倍首相。「日本の捜査に全面的に協力する」と約束するオバマ米大統領――。

 沖縄県で起きた米軍属による死体遺棄容疑事件から6日。県民の不信が渦巻くなかでの日米首脳会談は、抗議と遺憾の言葉のやりとりとなった。

 だがそれで、米軍が絡む凶悪犯罪がなくなるだろうか。県民が背負わされてきた過重な基地負担が解消されるだろうか。残念ながら、そうは思えない。

 まず問題なのは、沖縄県の翁長雄志知事が求めた日米地位協定の改定を、安倍首相が提起しなかったことだ。会談後の共同記者会見でも首相は「地位協定のあるべき姿を不断に追求していく」と述べるにとどめた。

 確かに今回は公務外の容疑で県警が逮捕したため、地位協定上の問題は発生していない。

 だが、米軍関係者による事件が絶えない背景には、いざとなれば基地に逃げ込めば地位協定が守ってくれる、という特権意識があると指摘されてきた。

 例えば公務外の容疑で、米側が身柄を押さえた場合でも、日本側に引き渡す。いまは米側の「好意的配慮」に委ねられている運用を明文化する改定につなげれば、犯罪を防ぐ効果も期待できよう。

 地位協定は米軍にさまざまな特権を与え、米側は改定には否定的だ。だからといって改定を口にしようとしない首相の姿勢は、及び腰に過ぎないか。

 もう一つの問題は、首相が首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設について「辺野古移設が唯一の解決策であるとの立場は変わらない」と伝えたことだ。

 耳を疑うのは、その首相が共同記者会見で「米軍再編にあたっても、沖縄の皆さんの気持ちに真に寄り添うことができなければ、前に進めていくことはできない」と語ったことだ。

 辺野古移設に反対する沖縄の民意は、度重なる選挙結果に表れている。基地の県内たらい回しが米軍絡みの犯罪の防止につながらないことも明らかだ。

 首相が県民の気持ちに「寄り添う」思いは多としたい。ならば、首相が大統領に伝えるべきは、普天間の県外・国外移設を求める県民の切実な声と、辺野古移設の断念ではないか。

 現状を放置すれば、日米関係の不安定な状態は続くだろう。

 米軍関係者による犯罪は、重大な基地被害であり、人権侵害である。日本復帰から44年がたっても、その重荷は沖縄県民に押しつけられている。その理不尽と不平等をどうすればいいのか。日本全体が問われている。