「プログラミング教育必修化」をめぐる混乱
安倍首相は5月19日の産業競争力会議を通じて、あらためて小中学校での「プログラミング教育必修化」を表明しました。
そもそも安倍政権による経済政策「アベノミクス」、その「三本の矢」のなかにプログラミングを含むIT教育の推進が盛り込まれたのは、2013(平成25)年のこと。当時閣議決定された「世界最先端IT国家宣言」の要項に、プログラミングの義務教育化が盛り込まれ、そこからプログラミング教育に注目が集まりました。
プログラマーである筆者も、理想とする「すべての人がプログラミングできる世界」の実現を目指して、当時から政府へ働きかけてきました。また、その理念に則った『教養としてのプログラミング講座』、そして続編となる『実践としてのプログラミング講座』(ともに中公新書ラクレ)を刊行しています。
だから、書店に初心者向けの子供向けのプログラミングテキストが並び、町のあちこちにプログラミング教室が開校している現在のブームのような状況にはとまどいつつ、やはりうれしくもあります。
しかし今回の「必修化」表明で、現場にはかなりの動揺・混乱がもたらされたのも事実のようで、やや危惧をもおぼえています。
実際、「必修化」が表明されてからというもの、企業や学校の現場はもちろん、校長先生、官僚、さらには子どもの親など、さまざまな立場の人から、「相談に乗って欲しい」という相談が次々に届いています。
しかもその相談の特徴をひとことで表すのなら“混乱”や“困惑”、“誤解”という言葉がピッタリ。その対応に悩む毎日を過ごしています。
今すぐ義務教育に組み込めない簡単な理由
とりあえず最初に言っておきたいこと。それは、今すぐにプログラミングを義務教育化することは絶対に「不可能」だということです。
たとえば国語、算数、理科、社会、そしてプログラミング……などと、いきなり小学校で科目を増やすことは現実的ではありません。プログラミングの学習とは、いくつかの分野の知識を理解して、それを応用しながら進めることで成立するのであり、それ単体で学んでも、得られる価値はさほど多くない。
たとえば小学校3年生の算数では「変数」の概念は学びません。しかしそれはプログラミングにとって根幹を成す概念だから、変数を学ぶまでは授業を進められない、という事態になりかねない。
だからプログラミングという科目が加わり、その価値を生かすためには、おそらく教育指導要領を根本的に作りなおさなくてはならない。しかし、それを急に進めればおそらく教育現場は混乱する。かえってマイナスの影響のほうが大きくなることは明白です。
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