伊勢神宮などの資料

非常の人――森有礼の生涯　　第九章　凶刃に倒れる
捏造された事件
「西野を暗殺の確信犯にさせたのは、森有礼のいわゆる捏造された伊勢神宮不敬事件である。森文部大臣は明治二十年（一八八七）十一月下旬、北陸・中部地方の学事視察の途中、伊勢神宮外宮に参拝した。

その時、いわゆる不敬事件が起きたとされたのである。参拝に当たって、有礼は靴を脱がずに殿に上がり、杖で神簾を掲げて中を覗き込み、拝礼もせずに帰ったというのである。

西野の斬奸状にはまさにこのことが暗殺の理由として記されていた。西野は、この無礼は神を冒涜し、皇室を蔑視したもので、立国の基礎を破り、国家を亡滅させるものである。よって斬殺するというのである。

だが、この不敬事件は後で、伊勢神宮の神官たちによるでっち上げ事件だったことが判明した。有礼は全国視察の度に、現地の神社に参拝するのを例としていた。その有礼がそんな不敬な行為をするはずはなかったのである。」