NHK報道局報道番組センター社会番組局「クローズアップ現代」の多田篤司ディレクターに懇願されて会ったが、失礼だと思った。
31日に放映があると聞くが、まったく、その成果が期待できない。
基本的に取材の態度がなっていない。
ほんとうにひどいインタビューで、あきれかえって帰ってもらった。
あまりにも非礼で、演劇に対する尊敬を欠き、ただ、ご自分の視点でのみ、材料を集めているとしか思えなかった。
彼の態度は私が『演出術』でインタビューしたときの一章、「スランプ時代」をクローズアップしたいとしか思えなかった。それは、全体のなかで、本当に一部分にすぎない。けれど、質問は、そればかりに集中した。
「スランプ時代」が蜷川さんにあるとしても、短い期間だろう。十年にも満たない。その時代の舞台を観ていない人に、あれこれいわれるようなものではない。ディレクターは、才能のある人が、いかに「才能を認められず苦しんでいたか」をアピールしたいのだろう。それはあなたの都合で、私たちとは関係ない。NHKのディレクターが、どれだけこれから才能を発揮するかは、蜷川さんも私もまったく関係ない。ご自分で努力されればよいと思う。
本当に不愉快なのは、なにか、ネガティブなことがあったから、今の成功があるとする構成だと思う。
蜷川さんにはそんなことはなかった。
蜷川さんは、生涯を通じて、成功者であった。
「子育てをした」とか「奥さんに食べさせてもらっていた」とか「才能がなかったから俳優から演出家になった」かのような言説をマスメディアは振りまく。
才能を認められなかった惨めな男が、奮起して演出家になった。そんな物語を再創作して恥じ入らないのは、まったく理解出来ない。
そんな言説にすがっているマスメディアの人間は、この報道をしている時点で、ご自身がなしとげた仕事と、蜷川さんがその年代になしとげたことを比べてみればいい。
横井さんや多田さんは、どうぞ、ご自分の年齢と蜷川さんの仕事を比べていただきたい。
あなたたちは、安倍政権にすりよるような番組を作って恥じ入ることがないNHKのようなメディアに在職している。
ただ、NHKに所属しているディレクターや、チーフプロデューサーが、
蜷川さんに対して「スランプの時代」とかいう資格があるのか。恥じ入ってもらいたい。
あなたたちの時代は、いったい、なんなのか?
横井さんと多田さんには、まっすぐに答えてもらいたい。
本当に才能のある人間、蜷川幸雄に対して、あなたたちが、
「スランプ」とか偉そうにいう資格があるのか。
どうぞ、自分自身に問いただしていただきたい。
あなたたちには、「スランプ」は、なかったのですか?
多田篤司ディレクターにメールを送った。
「基本的に取るべき材料と方向性が決まっており、
対話にもならないインタビューを受けても、
インタビューを受ける側は、時間と労力とこれまでの経験を、
メディアに収奪させるだけで、何の意味もありません。
しかも、ネガティブな方向性に引っ張ろうとするのは、
作品および人生の成功者である蜷川さんに対する妬み。
成功者を嫉妬する視聴者に対する迎合としか思えません。」
インタビューするまえに前提があり、その証拠づけをする取材は、インタビューする自分自身を甘やかしている。
あるいは、自分の仕事がいかに、人の話を聞いて、その結果を結実する過程にあるかをわかっていない。
私の著書「演出術」を、このNHKの番組「クローズアップ現代」に、引用および援用をしないように、私は、拒否しています。
そのようなことのないように横井チーフプロデューサーおよび多田ディレクターに要請しています。