すいすいすいようびは毎日が水曜日であることに気づかなかった。
ゲームプログラマとして日々バグ取りに追われ、企画書を起こすこともままならない。
ほんとうはほんの少しの休日の合間にゲームプレイをやめることさえ身につければ良いだけ。
それは彼にもわかっていることだったし、ゲームをやめることで仕事の時間が拡充されることだって理解していた。
あまりにも変哲のない毎日の水曜日に彼はついに狂気を発して上司にこういった。
おかしいじゃないですか。僕の打ったコードがGitHubで上書きされるなんて。
上司は繰り返される水曜日など知る由もなく、また彼自身が繰り返される水曜日を知るわけもなく、発言は有耶無耶なまま収束してしまった。
そうして日々水曜日を送るなか、彼はゲームプレイ中にあることに気がついてしまった。
一体どういうわけなのか、先日分のプレイデータが巻き戻されている。
そこから彼はクラウド上にあるセーブデータからローカル上のセーブデータまで全てをさらってみたものの、一向に問題は解決しない。
唯一自室の部屋にあるスマートフォンに目配せをした時に彼の全てが止まった。
その日は水曜日であり、曜日以外の数値は全て文字化けしていたからだ。
彼はなにか奇妙な気配を察知すると部屋から猛スピードで飛び出して廊下を覗いていた。
廊下の遠くがフォグ効果のようにぼやけ、ブロックノイズとともに再生成されている。
それがかつて見た映画のマトリックス的世界観であることを理解した彼は、台所に走ってゆき包丁を手に取ろうとした。
ところが包丁はすり抜けてしまい手に取ることもできない。つまり殺されることもなければ自殺することもできず、
データ上の食物を摂ることができるが断食でも死にはしない。こんな非常識な思考が「計算器のように」次々はじき出されてゆく。
自分は操られているのではないのか、もしそんなことが事実なら毎日が水曜日どころか自分自身の意思は一体どこに介在するのだろう。
管理者は遠くから僕を見ながら笑っているかもしれない。思考や解決方法に見える最も絶望的な何かを投げつけてほくそ笑んでいる。
そんなことをする管理者とは一体何なのだろう。意思なきアーキテクト? 意思を持ってしまったオラクル?
もしかして自分自身がオラクルだったりして。すいすいすいようび~。じゃなかった。
彼の頭脳の回路に堂々巡り思考が計算されたのち、ふとある答えが思い浮かんだ。