理論と実務のせめぎ合いから生まれた
刺激的な提言の書
――書評『成長企業の法則』
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する本連載。第27回は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和高司氏による『成長企業の法則』を紹介する。
売上高1兆円超の大企業が
長期に成長する方法
内容は、サブタイトルの「世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー」そのものである。大著であるが、冒頭の30ページに当たる「はじめに」を読むと、魅力的な視点を理路整然と提示する話に引き込まれてしまう。
世界トップ100社をランキングする上で対象とする企業の条件を、2000~2014年の15年間のデータにより、①売上高が2014年時点で1兆円以上、②売上高成長率(年平均)が4%以上、③企業価値の成長率(年平均)4.5%以上、④平均利益率(通年)が6%以上、⑤自由競争でない業界の企業は除く、としている。
つまり、上場していて、長期的に成長している、大企業である。どのような経営を実践すれば、それが可能なのか。経営学と、著者のコンサルタント・研究者としての経験と思考によって、分析し、理論化している。日本の大企業の経営者や管理職が、吟味してみるべき提案が満載である。
この条件付けの著者のこだわりは、「あらゆる企業は、普通に経営していては失速する。成長を強く意識しないと、企業の継続は難しい」ことと、「普通の企業は、社会的責任を果たすという意味でも、資本市場に上場して、自らの好き勝手だけではない形の成長を目指していくべき」という考えに基づいている。
分析した結果、100社には、2つの共通要素があると著者は見出した。1つは「堅牢さ」「しぶとい」「ブレない」といった静的な特性で、もう1つは「変容性」「身軽さ」「融通無碍」といった動的な特性である。この2つは背反する特性であるが、それらが共存することが「成長のバネ」になっているという。
- 第27回 理論と実務のせめぎ合いから生まれた 刺激的な提言の書 ――書評『成長企業の法則』 (2016.05.26)
- 第26回 「インサイダー兼アウトサイダー」の視点で 組織の問題を斬る ――書評『サイロ・エフェクト』 (2016.05.12)
- 第25回 ビッグデータを通して「人間とは何か」に迫る ――書評『カルチャロミクス』 (2016.04.21)
- 第24回 優れた人材を輩出し続ける、優れたリーダーに学ぶ ――書評『SUPER BOSS』 (2016.04.07)
- 第23回 人を活かすことこそ経営者の仕事 ――書評『偉大な指揮者に学ぶ無知のリーダーシップ』 (2016.03.24)