後にも先にも、これほど破天荒な才能はなかった。超人的な知性と、少年のような好奇心で、誰よりも遠く深い場所に達した日本人。熊楠を師と仰ぎ、彼の遺産を受け継ぐ人類学者が、その魅力を語る。
欧米のマネでは価値がない
私が南方熊楠を知ったのは、中学生の頃です。民俗学者だった父の本棚に、著者の名前が難しくて読めない本があった。それが熊楠の本でした。
子供はヒーローに憧れ、「こんな人に自分もなりたい」と思うものですよね。私はナポレオンや織田信長にはまったく惹かれませんでした。しかし、熊楠の伝記を読んでみたら、「日本にこんなすごい人がいたのか」と、すっかり夢中になってしまったのです。
本誌で『アースダイバー神社編』を連載中の、明治大学野生の科学研究所所長・人類学者の中沢新一氏に、5月7日、南方熊楠賞(人文部門)が贈られた。
日本の歴史に残る博覧強記の天才学者・南方熊楠にちなむこの賞は、熊楠が後半生を過ごした和歌山県田辺市の「南方熊楠顕彰会」が主催する学術賞だ。
熊楠に強い影響を受け、人類学の世界へ足を踏み入れた中沢氏。「奇人」と評される熊楠は、その生涯で何を成し遂げたのか。
熊楠が特に優れていたのは、「西欧近代文明という脅威に、日本はどう立ち向かうべきか」という独自のビジョンを示した点でしょう。
司馬遼太郎が『坂の上の雲』で描いたように、明治の日本人の多くは、「最新科学で武装した欧米列強をまねて、オレたちも強くなろう」と考えていました。しかし熊楠は、軍事力を背景にした帝国主義には何の価値も見出さなかった。「日本人が目指すべきものは、もっと別のところにある」と直感していました。
欧米に留学した明治の日本のエリートたちは、最新の学問を学び、日本に持ち帰るということにかけてはお上手でしたが、熊楠はそれにも興味がなかった。欧米人と同じ土俵で戦うのは簡単だが、気に食わない。日本人は、欧米とは違う独自の思想を生み出し、それをグローバルに発信することができるはずだ—こう熊楠は考えた。そして私は子供ながら、その考えに深く共感したのです。
熊楠は、しばしばレオナルド・ダ・ヴィンチと比較されます。確かに「万能の天才」という点では共通しているかもしれませんが、未来志向でクールなダ・ヴィンチよりも、私は熊楠の思想のほうが、あたたかく、人類の心や文化の深いところを見据えていたと感じます。
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