首脳の神宮訪問は好機 オバマ氏広島訪問に不安も

【伊勢志摩サミットに出席する首脳らが訪問する見通しの伊勢神宮内宮=伊勢市で】

【伊勢志摩サミットに出席する首脳らが訪問する見通しの伊勢神宮内宮=伊勢市で】

 G7(先進七カ国)首脳らの伊勢神宮訪問は、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が県内で開かれる意義を一段と高めた。訪問は外務省の公式発表ではないものの、関係者からは「歴史的な一幕だ」と喜びの声が聞かれる。一方、オバマ米大統領の広島訪問というもう一つの「歴史的な一幕」は県にとって不安要素でもある。首脳や報道関係者らが県内に滞在する期間を予定より短くしかねないからだ。

 首脳らが伊勢神宮を訪れるのはサミット開幕初日の二十六日午前。安倍首相が内宮の宇治橋で各国首脳らを出迎え、案内も務める。政教分離の観点から、参拝ではなく訪問の形式を取る予定だが、サミットに出席する首脳ら全員が訪れる見通しとなっている。

 首相は昨年六月にサミットの開催地を発表した時点から、伊勢神宮について「日本の精神性に触れるには大変良い場所だ。リーダーに訪れていただき、荘厳で凜とした空気を共有できれば」と、首脳らの訪問に期待。外務省は各国に訪問を打診していた。

 一月五日の伊勢神宮参拝でも、記者からサミット開催地の印象を問われると「伊勢志摩には悠久の歴史を紡いできた伊勢神宮や大小の島々と入り江が織り成す美しい自然がある」と説明。いかに首脳らの伊勢神宮訪問を意識しているかが垣間見える場面だった。

 首脳らの伊勢神宮訪問が決まったとの報道を受け、関係者からは喜びの声が聞かれる。伊勢市観光協会の西村純一専務理事は「まだ公式発表ではないから分からないが、事実ならこれほど伊勢神宮を世界に伝えられる機会はない。大いに歓迎したい」と話す。

 「日本人の精神性や伝統を世界に広めるという点で意義深い」と語るのは、皇學館大の現代日本社会学部長で近代神道史が専門の新田均教授。「言葉ではなく実際に伊勢神宮を訪れてこそ、豊かな自然や日本人の宗教観を感じてもらえる」と意義を強調する。

 また、新田教授は首脳らの伊勢神宮訪問が伊勢市民や県民にとって伊勢神宮を見つめ直す機会になると訴える。「観光資源という面だけでなく、首脳らが訪問するほど歴史的、文化的に価値があるということを、地元が再認識することにもつながる」と話す。

 一方、今月十日にはオバマ氏の広島訪問が正式に発表された。「核兵器なき世界」を理念に掲げるオバマ氏は、広島で核廃絶を訴える演説をするとみられる。米国の現職大統領が広島を訪れるのは初めて。サミット二日目の二十七日に安倍首相と訪れる見通しだ。

 サミット開幕を控えたここ数日間の報道を見ると、オバマ氏の広島訪問が大きな注目を集めていることがうかがえる。「核廃絶に期待」「原爆投下謝罪せず」「道義的責任の言及に注目」などと、新聞紙上ではオバマ氏の広島訪問を扱う記事が目立つ。

 オバマ氏の広島訪問によって懸念されるのが、県への注目が遠ざかること。国際メディアセンター(伊勢市朝熊町)を利用する国内外の報道関係者は、北海道・洞爺湖サミットと同等の一日当たり二千人とされた当初見込みより減少する可能性が浮上している。

 「ニュースが広島に持っていかれてしまった」と話すのは、県内でサミット取材を担当している全国紙記者。オバマ氏の広島訪問が決まって以降、東京の政治部などから記者に対するサミット関連の指示や問い合わせが少なくなったと明かす。

 とはいえ、関係者はオバマ氏の広島訪問を悲観しているわけではないようだ。伊勢志摩サミット県民会議の大橋範秀事務局長は「伊勢志摩サミットをきっかけに広島訪問が決まったと捉えている。相乗効果で地域が世界に発信されることに期待したい」と話している。