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沖縄米軍属逮捕  もう悲劇を繰り返すな

 在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄でまた、女性が被害に遭い、米軍関係者が逮捕される事件が起きた。
 沖縄県うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかり、死体遺棄容疑で県警に逮捕された米軍属の男(32)は殺害をほのめかす供述をしているという。米軍関係者が関わったとみられる凶悪事件が繰り返されたことを、日本政府は重く受け止めなければならない。
 翁長雄志知事は「基地があるがゆえに事件が起きてしまった」と強調した。県民から激しい怒りの声が上がるのも当然だ。
 1995年の米兵による少女暴行事件では、県民の怒りが大きなうねりとなった。「県民総決起大会」に約8万5千人(主催者発表)が集まって抗議の声を上げ、翌年の日米による米軍普天間飛行場の返還合意につながった。
 しかし、米軍関係者による犯罪は後を絶たない。
 警察庁によると、殺人や強盗などの凶悪犯で全国の警察が摘発した米兵、軍属らは昨年までの10年間で62件91人に上った。沖縄県では少女暴行事件が起きた95年以降、2013年を除いて毎年1~7件発生している。今年3月にも、那覇市で女性観光客が海軍1等水兵に暴行された。
 在日米軍の軍人や軍属が事件、事故を起こした場合、日米地位協定で米側に大きな特権がある。「公務中」と判断されれば、原則として米側に第1次裁判権があり、日本の検察は起訴できない。「公務外」なら日本側に第1次裁判権があるが、容疑者が基地に逃げ込むなどすれば起訴されるまで日本側に身柄は引き渡されない。
 過去の事件を通じて協定は見直されてきたが、米兵による事件に関する抜本改正は見送られた。協定による特権が、犯罪が絶えない要因となってはいないか。
 事件が起きるたびに、米側に綱紀粛正を求めるだけでは不十分だ。日本政府は地位協定の改定や米軍基地の県外移設を含めた根本的な対策を検討する必要がある。
 今回の事件を受け、普天間飛行場の名護市辺野古移設をめぐる県と政府の対立が激しくなる可能性がある。6月の県議選や夏の参院選で米軍基地問題が焦点となるのは間違いない。
 今月下旬には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)やオバマ米大統領の広島訪問がある。安倍晋三首相はオバマ氏に厳正な対処を求め、具体的な再発防止策を日米で早急に協議すべきだ。

[京都新聞 2016年05月21日掲載]

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