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【米大統領広島訪問】
「禎子の折り鶴をオバマ氏に」 原爆の子の像モデル 兄「心の終戦の一歩に」
主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせ、米国の現職大統領としては初となるオバマ大統領の27日の被爆地・広島訪問を受け、平和記念公園(広島市中区)にある「原爆の子の像」のモデルになった少女が、亡くなる直前まで折っていた鶴を、遺族が大統領に手渡したいとする意向を示している。「心の終戦の一歩になる」。遺族は、思いを募らせている。
モデルとなった少女は佐々木禎子さん。2歳の時に被爆したが、運動が得意な元気な少女に成長した。だが、12歳のときに、突然白血病と診断され入院した。
「以前のように運動会で力いっぱい走りたい」。そう願いを込め、病院で出された薬の紙やあめ玉の包み紙で鶴を折り続けたが、入院から8カ月後に息を引き取った。
兄の雅弘さん(74)は「家が貧しく、お金のかかる治療について無理を言えないことを分かっていて苦しみに耐えていた。ずっと折り続けていた鶴には、禎子の家族への思いやりの心が込められている」と語る。
禎子さんの短い一生と折り鶴の話は、絵本でも取り上げられるなどし、広く知られるようになり、「原爆の子の像」のモデルにもなった。折り鶴は、家族から原爆資料館に寄贈・展示され、平和の精神を後世に伝え続けている。
一方で、雅弘さんも妹の遺志を伝える活動を続けてきた。禎子さんの折り鶴を、ハワイ・真珠湾(パールハーバー)の施設に寄贈。原爆投下を命じたトルーマン元大統領の孫や日本軍によって撃沈された戦艦乗組員らとも交流してきた。雅弘さんは「日米は友好国で、心からの終戦を目指さなくてはいけない。大統領の訪問は英断で、機が熟した結果でもある」と力を込める。
そして雅弘さんは、禎子さんの折り鶴のうち1羽を、米大統領に手渡したいという。今回のオバマ大統領の訪問は、これまで閉ざされていた扉が開いたと受け止めている。
「折り鶴に込められている思いやりの心に肌で触れてほしい。互いの立場を超え、踏み出す一歩にできれば…」。小さな折り鶴に込められた少女の願いが、過去を乗り越える懸け橋になると、雅弘さんは信じている。(川瀬充久)