危機に直面する欧州の苦悩と迷走ぶりを象徴する出来事となった。

 オーストリア大統領選で、反移民政策を掲げる右翼政党「自由党」の候補ホファー氏が大躍進を見せた。

 決選投票で最終的に敗れたものの、リベラル派の候補ファンダーベレン氏と接戦を演じ、投票総数460万余の中でわずか3万票の差まで迫った。

 シリアなどから欧州に押し寄せた難民をめぐる問題が背景にあるのは確実だ。相次ぐテロの脅威や、単一通貨ユーロへの不安も重なり、欧州連合(EU)での協調を重視する既成政党から、自国優先の右翼に支持が移ったと考えられる。

 このような内向き志向はオーストリアに限らない。欧州各国で右翼やポピュリスト政党が伸長し、米国ではトランプ氏の扇動的な発言が人気を集める。

 しかし現実には、いまのグローバル化世界で大切なのは、自国の利益だけを追う発想ではなく、国境を超える問題への協調行動と負担の分担だ。国を閉ざしても解決は見いだせない。

 今回の右翼躍進を、この国だけの出来事ととらえず、先進国に共通する問題として受け止めるべきだろう。扇情的な訴えになびく世論の底流に何があるのか。社会を見すえる議論を起こし、教訓を引き出さなくてはならない。

 オーストリアの自由党は、難民支援の削減や国境管理の強化を訴え、EUを懐疑的にみる。00年に連立政権に加わったが、当時の党首によるナチス賛美の発言などが影響してEUから制裁を受け、有権者も離れた。その後は穏健な大衆化路線に転じ、支持を回復していた。

 この国の政治の実権は首相にあるものの、大統領は内閣を罷免(ひめん)する権限を持つ。何より、戦後の欧州で右翼出身者が元首に就いた例はほとんどない。ホファー氏があと一歩のところまで迫った事実は、各国のナショナリズムや反EU意識を刺激するに違いない。

 6月23日には英国で、EU残留か離脱かを問う国民投票がある。まだ大きな反応は聞こえてこないが、自国優先主義の高まりが離脱派を勢いづかせる可能性もぬぐえない。

 先進国の多くはこれまで、伸長する右翼やポピュリストを政界から排除することに腐心してきた。ただ、その態度が、彼らを支持する市民の悩みや不安に目をつぶることにつながってこなかっただろうか。

 自らの足元を見つめ直し、対応を真剣に考えたい。