1997年に撮影が開始されるも諸般の事情で製作が凍結された幻の実写映画『G.R.M.(ガルム戦記)』が『ガルム・ウォーズ』となって、ついに日本で公開!
原作・脚本・監督は押井守。“惑星アンヌン”を舞台に、戦うことでしか存在できないクローン戦士“ガルム”を描いた、押井ワールド全開のファンタジー作品だ。
全編英語で撮影された本作の日本公開にあたり、日本語版プロデューサーをスタジオジブリの鈴木敏夫が担当。実に「30年来の腐れ縁」というおふたりに対談前編(「日本語版を監督が見せてもらえなかった!?」)に引き続き、作品について語ってもらった。
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―今回、撮影はすべてカナダで行なわれたとのことですが、その理由はなんだったんですか?
押井 (製作を担当した)プロダクションI.Gの石川(光久)さんがそういう話を持ってきたんですよ。カナダに「タックスクレジット」っていう便利な制度があって、それを利用してカナダで撮ると、製作費の4割を返してくれるんだと。
―でも、フタを開けてみると便利なだけの制度じゃなかったみたいですね。
押井 非常に怖い制度ですね。申請してもすぐにお金が返ってくるわけじゃないし、上限が4割なだけで絶対に4割返ってくる保証もない。つまり基本的には、すべての製作費をこちらで持つだけの資金力と覚悟がなかったらダメなんですよ。しかも、立て替えるお金がなかったらカナダの銀行が低金利で貸してあげますよ、という。
鈴木 悪質な金融業者みたい(笑)。
押井 それで、現地スタッフのギャラの支払いが滞って、撮影が何日か止まったりして。結局、プロダクションI.Gが製作費を立て替えることになったんですけど。だから、この映画が完成したのは、石川さんが「とにかくこの川を最後まで渡り切ろう」と決断したことが大きかったですね。いや、偉かったと思いますよ。普通の会社だったらとっくに潰(つぶ)れてますから。
―かなり危険な橋を渡ったんですね。
押井 そう思います。海外で現地の役者とスタッフを使って映画を撮るのは今回が3本目ですけど、ここまで危ない橋を渡ったのは初めてです。
―海外で映画を撮るメリットはなんですか?
押井 キャストの問題が大きいですね。特にこういうファンタジーを撮る時は、日本人の役者さんを使うこと自体にどう考えても無理があると思う。だから向こう で撮ることが決まる前は、向こうへ行って撮るのと、向こうの役者さんを呼ぶのと「どっちが安いんだろう」って計算までしてましたからね。タックスクレジッ トを利用することが決まる前までは、3年ぐらいかけて地道にコツコツと撮ろうと思ってましたから。