特定の人種や民族への差別をあおり、人としての尊厳を傷つける。そんなヘイトスピーチの解消をめざす法案がきのう、衆院本会議で可決、成立した。近く施行される。

 具体的な禁止規定や罰則のない理念法で、効果については意見が割れる。だが「不当な差別的言動は許されない」と明確に宣言する初めての法である。

 理念の重みをまず、社会全体で共有したい。日本が20年以上前に批准した人種差別撤廃条約の精神に立ち返り、国際社会とともに差別的な言動をなくしていく着実な一歩としたい。

 ヘイトスピーチ対策の立法をめぐっては、「表現の自由」とのかねあいから、慎重な対応を求める指摘があるのも事実だ。しかし、法務省の試算で、昨年1年間にあったヘイトスピーチのデモや街宣は約250件にのぼるなど、見過ごすわけにはいかない状況が続いている。

 今回のヘイト対策法は、その対象を、適法に国内に居住する「在日外国人やその子孫ら」とした。だが、これまで被害にあってきたアイヌ民族や難民認定申請者らが標的になるようなことがあってはならない。

 与野党は「法が定義する以外、いかなる差別的言動も許されるとの理解は誤り」とする付帯決議を可決した。在日外国人以外に対する差別的な行為が続かないか、しっかり見守る必要がある。

 残念なことに、これまで在日コリアンの排斥を求めて活動してきた団体が来月、川崎市内でデモをするとネット上で予告している。施設の使用などを認めなければ、団体側が反発を強める可能性もあるが、自治体や警察当局は法の趣旨に照らして、適切に対処すべきだ。

 差別的な言動を容認しないという姿勢を鮮明にした法の施行を受け、政府や自治体は今後、教育や啓発活動を強めていくことになった。また、与野党は法の施行後も、差別的言動の実態を踏まえて検討を加える、との付則でも合意した。

 差別をなくす取り組みは、日ごろから不断に続く努力の積み重ねである。どうすればヘイトスピーチをなくせるか、だれもが差別におびえることなく暮らせる社会をどう築いていくか。

 肝心なのは法をつくることだけではなく、国民全体で常に考え、行動することだろう。

 「表現の自由」を守りながら、社会に潜む差別の構造に目を向け、「ヘイトスピーチは絶対に許さない」という強い意識をもたねば、身の回りから差別的な言動はなくならない。