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| 白血病の男の子が「みずぼうそうはとってもこわいんだ」と訴えるワクチン啓発ポスターの横に立つ堀越裕歩医師=東京都府中市の都立小児総合医療センター |
水痘(水ぼうそう)のワクチンが10月から定期接種化され、1~2歳児は原則無料で2回の接種が受けられるようになる。子どもを中心に毎年流行し、年に100万人が発病するという身近さもあって、水痘を大した病気と思っていない人が多い。しかし、中には重い合併症や死亡につながる例もあり、特に持病のある子どもには深刻な脅威だ。大人の帯状疱疹[ほうしん]も同じウイルスが原因で起きるため、その予防にもワクチンが使えるように条件整備を求める声が強くなってきた。
「自然にかかった方がいいんでしょう? 一生免疫もつくから」
感染症予防に力を入れている愛知県蒲郡市の「マイファミリークリニック蒲郡」の中山久仁子院長が水痘ワクチンの接種を勧めると、保護者の大半はこう答えるという。
▽思い込み
水痘は空気感染する「水痘・帯状疱疹ウイルス」による感染症。赤くてかゆい発疹が全身に出て、普通は10日ほどでかさぶたになって治る。だが400人に1人は重症化して入院が必要になり、年間20人ほどが死亡すると推定されている。軽く済んでも、学校や保育園には完全に治るまで通えないため、親はその間、仕事を休む必要がある。
そこまで説明するとワクチン希望に転じる保護者が多い。「病気のインパクトがあまり知られていない。積極的な啓発が必要です」と中山さん。
流行の阻止には9割程度の接種率が必要とされるが、1回8千円ほどかかる任意接種だったため、従来は3~4割と低迷。それで大変な苦労をしてきたのが、免疫が弱く水痘が命取りになるような子どもたちの診療に当たる小児専門病院だ。
▽接種率が鍵
水痘ワクチンは、毒性を弱めたウイルスを原料とする生ワクチンなので、免疫不全の子どもの患者には接種できない。「周りの子がワクチンで流行を防ぐしかない」と東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩医長は解説する。
同センターでは、入院する子どもが水痘などの感染症を持ち込む恐れがないか、保護者への聞き取りで入念にチェックするが、それでも防ぎ切れずに発生し、患者受け入れを中止する「病棟閉鎖」が水痘関連だけで年に10回近くあるという。
白血病の男の子が「みずぼうそうはとってもこわいんだ」と語りかけるポスターを院内に貼り、予防の大切さを訴えてきた堀越さんは「定期接種の実現は大きな前進だが、接種率を高める努力が必要だ。無料になる年齢も限られているのでまだ気を抜けない」と話す。
▽大人にも期待
ワクチンを帯状疱疹予防に活用したいと望む声もある。水痘を発病すると、完治後もウイルスは体内に潜んでいて、加齢や疲労で免疫が下がると再び暴れだし、発疹や激しい痛みを引き起こす。これが帯状疱疹で、80歳までに3人に1人が発病するとの研究もある。抗ウイルス薬で治療できるが、対処が遅れるとつらい神経痛が長く続く。
米国では日本の水痘ワクチンと同じ原料を使った帯状疱疹ワクチンが実用化され、60歳以上の帯状疱疹を約5割、神経痛を6割以上減らしたとのデータが出ているが、日本のワクチンは帯状疱疹の予防目的では国の承認を受けていない。
がん専門病院に勤務した経験がある国立国際医療研究センター(東京)の大曲貴夫国際感染症センター長は「高齢のがん患者など、帯状疱疹のリスクが高い人は今後増えるだろう。ワクチンが正式な治験を経て、帯状疱疹予防にも使えるようになれば朗報だ」と言う。
メーカーの阪大微生物病研究会(大阪)も、帯状疱疹予防への適応拡大について「積極的に対応したい」と前向きな姿勢を見せている。
(熊本日日新聞 2014年7月18日朝刊掲載)
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