排外主義的市民団体による反対運動
排外主義的市民団体による韓国人学校反対運動も行われている。もちろん、都有地を別の用途で利用してほしいから韓国人学校に反対したり、舛添知事の行う政策はよくないと考えリコールを求めたりすること自体は差別でもヘイトスピーチでもない。ただし、こうした抗議行動では「なぜ韓国人学校に反対か」という理由が述べられ、そこにはヘイトスピーチが多く含まれている。
産経新聞は、このような市民団体による韓国人学校反対運動を熱心に追いかけ記事にしている。まず3月20日に「なぜ韓国人学校に都有地貸し出し?批判1日で300件 「保育所整備に使って」「外交より都民優先を」」、そして同25日には「都庁前でデモ、批判3千件超が殺到 舛添知事は「撤回しない」」と題する記事を発表した。
上記の記事に紹介されている、保守系市民団体「頑張れ日本!全国行動委員会」が3月25日に都庁前で抗議を行った様子は「日本文化チャンネル桜」によりニコニコ動画にアップロードされている(注)。
(注)日本文化チャンネル桜 【都政の私物化を許すな】3.25 都有地『韓国人学校貸与』絶対反対!緊急抗議行動[桜H28/3/28] (2016年3月28日)
動画では、林立する日の丸の中で何人もがスピーチを行っている。多くのスピーチでは、上記の都議らと同じく「都民のための施設を優先せよ」と言っている。なかには「税金は都民が払っているのですよ、韓国ではありません」というスピーチもあるが、言うまでもなく外国籍の都民も税金を払っている。
時事通信の記事「【特集】「舛添批判」を考える」(2016年4月26日)およびodd_hatch氏のツイート(注)によると「頑張れ日本!全国行動委員会」は、さらに4月16日にも、新宿などの駅前で街宣をし、「都有地に保育所を!」「都有地 韓国学校 絶対反対!」と書かれたTシャツを着た人々がJR山手線に乗り込むという抗議行動をおこなった。
(注)odd_hatch氏のツイートを筆者がまとめたもの「2016/4/16 「頑張れ日本!全国行動委員会」による街宣と山手線乗り込みアピール」(2016年4月16日)
このほか同団体は数回にわたって現地周辺でビラ配りをしたほか、5月21日にも新宿駅前で抗議行動を行った。このときに配布されたチラシには、「定員割れの韓国人学校に貴重な都有地を貸与」「特別支援学校建設まで中止!」と書かれている。「定員割れ」の実態についてはすでに述べたが、特別支援学校は別の敷地に変更されており、中止になったというのは嘘である。
3月26日には、「行動する保守運動」のウェブサイトで告知された「舛添都知事リコールデモin新宿」と題したデモが新宿で行われた。このデモには「在日特権を許さない会」通称在特会の前会長である桜井誠氏も参加した。在特会は、民事裁判でおよそ1200万円の賠償を課された京都朝鮮学校襲撃事件など、ヘイトスピーチ、ヘイトデモを行う団体の代表格である。
このカレンダーで告知されるデモには、在特会と関係の深いメンバーが参加することが多い。このデモのプラカードとしては「都有地を反日国家韓国に貸与するな」「何故緊急性も無いのに 韓国学校を誘致するのか しかも防衛省の近くである 外患誘致罪に匹敵する」などというものがあった。
このような反対意見に対して、舛添知事は3月18日の記者会見で、産経新聞記者からの質問に答えていろいろな声があるのは当たり前なので、政策の判断ですから、私の判断でやって(中略)なぜ韓国ということだけにそんなにこだわられるのかということが、私はまだ分からないです。(中略)世界に開かれたまちとしてできるだけのことは、特に子供の教育の話ですから、努力をしたいと思っております。
(舛添知事定例記者会見 2016年3月18日)
と返答するなど、一貫して否定的な対応をしている。
「変更の可能性もある」と付記されていた特別支援学校
この土地は、以前は特別支援学校にする予定であったものが変更された。先にも述べたように、頑張れ日本は、この特別支援学校の計画が中止されたと主張しているが、これは誤りであり、同じ新宿区内のより広い別の敷地に変更されている。
柳ケ瀬都議は「舛添知事は、韓国人学校より中国人学校をつくれ!?」(2016年3月22日)と題するブログ内でこの件を問題視している。同都議がブログに引用している「平成27年 第8回 東京都教育委員会定例会議事録」 (2015年5月21日)は、ブログからはリンクされていないが、インターネットで閲覧できる。
必要な部分を(a)〜(c)に分けて引用する。(a)【特別支援教育推進担当部長】 (略)2の設置場所の課題にありますとおり、本地については、周囲の道路が狭あいということで、実際の設計に向けての調整に入ったところ、道路幅員が4メートル未満であること、近隣との調整が非常に困難であること、新宿区の拡幅事業を行う場合には相当期間の調整が必要だということ、更には、土地の面積が少なくて、立ち上がったところで延床面積もかなり少ないということもあり、調整が非常に困難であるという状況でした。
同時に、他に良い土地はないか探していたところ、その後、活用可能な都有地が新宿区内に、面積が広く、片側2車線の広い道路に面している土地が見つかり、そちらの方に変更を前提とした調整を進めさせていただきたいと考えています。
場所は、新宿区戸山3丁目にあります東京都心身障害者福祉センターが他の土地に移転をするということで、移転後に本校を設置したいと考えています。土地の状況ですが、面積は1万平米弱ですが、建ぺい率、容積率等を掛けて、延床面積として3万平米弱確保することができ、当初の計画に対しても、かなり広い場所を確保できる予定です。
(b)【竹花委員】 本計画は、平成22年11月に都教育委員会で決定したものですか。
【特別支援教育推進担当部長】 そうです。
【竹花委員】 本計画の中に、設置場所として新宿区矢来町と決めていたわけですね。
【特別支援教育推進担当部長】 はい。一覧表の中で決めていますが、調整を進める上で、変更になる可能性があるということを注意書きで付しています。
【竹花委員】 そういうこともあり得べしということを想定した上で計画を策定したわけですね。
【特別支援教育推進担当部長】 はい。
【竹花委員】 気になるのは、近隣住民等との事前調整の困難度が髙いと書いてありますが、何が理由で事前調整が難しいということですか。
【特別支援教育推進担当部長】 もともと道路が非常に狭いために、工事車両が通るに当たって、近隣の土地を隅切りで通らせていただくとか、そういったことまで発生するなど、通常の工事に比較しても困難だというところもあります。
(c)【特別支援教育推進担当部長】 (略)それから、増えていることへの対応ということで、新しい学校に来られる生徒は近隣の中野特別支援学校と王子特別支援学校に通っているわけですけれども、王子の方は既に計画上の増改築をする予定で、そちらの方でも吸収してまいりたいと思っています。
議事録には、もともとの旧都立高校の敷地への決定の際にも「変更になる可能性がある」と付記されていたこと、この敷地では周辺道路が狭いため工事車両の通行が難しく、近隣の土地を隅切りで通る必要もあること、特別支援学校の完成は遅れるものの、同じ新宿区内にある変更後の土地の方が面積が広く、予定よりもかなり広い施設にできること、現在増加中の生徒は王子と中野の2カ所の特別支援学校に通っているが、新しい施設ができるまでは王子の特別支援学校を増築し、そちらで増えた生徒を吸収することなどが記載されている。
計画変更により可能になる延床面積は、議事録によると、最初の予定であった、市ヶ谷商業高校の跡地の場合「土地面積が6,000平米余ということで、建ぺい率、容積率を掛けても、延床面積として1万平米弱」、変更後の東京都心身障害者福祉センター跡地の場合「面積は1万平米弱ですが、建ぺい率、容積率等を掛けて、延床面積として3万平米弱確保することができる」と、およそ3倍になる。
高額な外遊費と韓国人学校の増設に関係はあるか
舛添知事は2014年7月にソウルに外遊した際、朴大統領にこの件について依頼されたという。このときをふくめ、ロンドン・パリなどへの外遊の費用が高価すぎると、今年4月ごろから各週刊誌やおときた都議のブログなどによって話題となった。
特にこの記事で問題にしているソウル外遊と韓国人学校については、週刊ポスト 4月15日号で詳しく取り上げている。「<徹底追跡> 1泊7万円スイートだけじゃなく、高級料亭接待で上機嫌 都心の一等地を韓国人学校に差し出した舛添都知事『2泊3日1000万円ソウル出張』を検証する」というタイトルだ。
この記事によると、2014年7月23日から25日に2泊3日で、舛添知事とスタッフ計11名の出張費用として合計1007万円が使われた。滞在中にはソウル市から接待を受け、その費用は日韓合わせて14人の食事代として合計約25万円だという。ただし、この記事には朴大統領に韓国人学校について依頼されたが、ソウル市は韓国人学校には関与していないとも書かれている。
筆者は、舛添知事の外遊費が高額すぎるという問題は追及すればよいと思う。ただし、現時点では韓国政府など韓国人学校の増設を希望する側から法外な額の接待をされたという証拠はない。都側の使った金額が多いことは、韓国人学校の増設に関する知事の意思決定が歪んでいると主張する理由にはならないと考える。
結論:差別のない、事実にもとづいた調査と議論を
韓国人学校に強く反対している、柳ケ瀬・おときた両都議および排外主義的団体やメディアが述べている主な反対理由とその問題点を列挙する。
・「外国籍の都民」という存在を想定しておらず、「外国人学校は、都内に居住する外国人ではなくその本国政府へのサービスだから、その他の行政サービスより優先順位は低くて当然」という差別的な前提にもとづく
・「韓国人学校は定員割れしているのに、必要のない増設を希望している」という主張については、将来の増設を見越して多めに申請した定員を下回っているだけで、実際に現在の敷地だけでは手狭になっている
・「都は外国人学校の中でも韓国人学校だけを優遇している」という主張は誤りで、都は過去にフランス人学校にも同様な議論を経て土地を提供した
・「外国人学校の整備は都の長期ビジョンに掲載されておらず、都はもともと課題として認識していなかった」という主張も誤りで、実際には長期ビジョンに載っている
・もともとこの敷地に予定されていた特別支援学校は、最初に予定された際に変更もありうると付記されており、用地が変更になったことで完成は遅れるが、すでに用意されている新宿区内の別の土地に、およそ3倍の面積で建設される。また完成が遅れた期間中の増員は、既存の特別支援学校の増築で吸収する
今回、東京韓国学校に取材し、手狭になっている事情は理解できた。都は、この場所を韓国人学校に貸し出す理由として、旧高校の校舎や体育館をそのまま利用できるからと答弁しており(注)、このことからも韓国人学校に転用するのは妥当な選択だと思われる。
(注) 東京都生活文化局「都への提言、要望等の状況 月例報告(3月分)」(2016年4月25日)
しかし、この都有地は貴重な都心部のまとまった土地なので、よく検討して最もふさわしい目的に利用すればよく、結果として韓国人学校にならなくても問題ないと筆者は思う。この場所に要望されているという特別支援学校や保育園などの需要がどれほど逼迫しているのか、それぞれの施設がこの敷地にある必要性を調査してフラットに比較するのは筆者には手にあまるが、この場所をほかの施設にするべきだと思う人は、きちんと調べて議論の俎上に載せるのもよいだろう。一都民として、都議や各種メディアには差別のない、事実に基づいた調査と議論を期待する。
(編集部注)引用元のホームページは5月24日に最終確認したものです。
吉田悠子(よしだ・ゆうこ)
ライター
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