印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,リーダーシップ,仕事術,書評 06:30 AM
強い組織をつくるための7つのヒント
『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』(大西 雅之著、あさ出版)の著者は、日本最大規模のインドア型テニススクール「ノアインドアステージ」(以下ノア)の代表取締役。右肩上がりで成長を続けているといいますが、その秘密は社員教育に関する考え方にあるようです。
社員教育にはできるだけ時間や人を投資するというのが、わが社のスタンスです。(中略)ですから、「社長はすべての利益を社員教育に使いなさい」は、偽らざる本音であり、経営者として目指しているゴールです。(「はじめに」より)
とはいえ、最初からそういった考えを持っていたわけではなく、以前はむしろ正反対の方向性だったのだとか。かつては成果主義にとらわれていたため、従業員の仕事を「成績」だけで評価し、「社員の幸せ」=「給料」と割り切っていたというのです。その結果、幹部社員6人が示し合わせて退社するという事態に。
そこで、この"事件"をきっかけとして考え方を改め、社内外の研修に多大な投資を行い、人材育成をするようになったというわけです。そしてその結果、「従業員の離職率は7%、「働きがいのある会社ランキング」(GPTWジャパン)では、中小企業部門で7位(2013年度)にランクインしたそうです。
そんな経験から誕生した本書のなかから、きょうは第3章「[組織づくり]強いチームをつくる『7つ』の方法」に焦点を当ててみたいと思います。ここで紹介されているのはいうまでもなく、「強いチーム」をつくるために必要なメソッドです。
1. 活発な「人事異動」を行う
著者は組織を強くするためにも、そして社員を成長させるためにも、人事異動を積極的に行うべきだと考えているのだそうです。たしかに人事異動をすることで、一時的に現場が混乱するなどのデメリットもあるでしょう。しかしそれでも、同じ仕事を同じ人が長く担当することのデメリットのほうが大きいというのです。
「人間は、同じ仕事を何年もやっていると、客観性を失います。結果として、無理・無駄・ムラも気づかずに放置してしまいます」という考え方には納得できますが、そんなノアの人事異動が成功している要因は、次の3つだといいます。
1. 方針教育を行い、同じ価値観を持たせる
2. プラスの事業所にはマイナスの社員を、マイナスの事業所にはプラスの社員を異動させる
3. 父性と母性のバランスを考える
(74ページより)
経営理念や会社の方針などを社員に共有させ、異動の手段によって刺激を生み、チームのナンバー1とナンバー2を「父性型」と「母性型」にすることによってバランスを保とうということです。(70ページより)
2. 「ボトムアップ」による組織改革を行う
ノアでは半年に一度、全社員参加の「実行計画書アセスメント(実行計画:事業所の半年間の戦略)を開き、実行計画を見なおすそうです。が、各事業部の個別方針は、「現場」が策定するのだとか。理由は、「現場のことは現場スタッフが決める」がルールだから。
上司から指示されて動くだけではなく、個々が「どうすれば自部門の経営を伸ばせるか」を考え、提案し、まわりを巻き込んで実行するからこそ、大きな結果が得られるというのです。(79ページより)
3. 「精神的報酬」を与える
"ノアフィロソフィ"の一節に、「全メンバーの物心両面の幸福を追求する」というものがあるそうです。幸福には物心両面があり、幸福感は仕事のあり方によって変わるもの。「物」とは金銭的報酬ですが、給料やボーナスが高いだけでは、日々の仕事にやりがいが持てない。そこで、金銭的報酬以上に、社員には「精神的報酬」を与えるべきだという考え方です。ちなみに精神的報酬とは、
「会社で働く喜び」
「仕事の成果が認められる喜び」
「会社の一員であることの喜び」
(85ページより)
など。数字の目標を追いかけ、売上を上げるだけでは、人はやる気を持続できず、疲弊してしまうもの。そこで、社員にやりがいを与える必要があるという考え方です。(84ページより)
4. 「親子のような人間関係」を築く
社員も子どもと同じで、社長や上司が社員に無関心だと、チーム力を底上げすることは不可能。社内の教育力が低下するのは、社長や上司が社員教育に無関心だから。著者はそう主張します。かといって、構いすぎるのも逆効果。親の過保護や過干渉が子どもの意欲を削ぐことがあるのと同じで、無関心にも過干渉にもならず、社員を信じ、社員に委ねることが、強いチームづくりの要諦なのだというのです。
そして、自発的に勉強する社員をつくりたければ、社長(上司)と社員(部下)が「親子の関係になること」が大切。親子の関係になれば、親(社長)は子ども(社員)の幸せを願って惜しみない愛情を注ぐことになり、子どもは親の愛情を受け止めることになるから。
とはいえ親子のような関係を築くことは難しそうですが、そのため著者には心がけていることがあるといいます。それは、社員が発言しやすいように、目線を下げて「従業員目線で接する」こと。それは「上から目線の高圧的な接し方をしない」ということであり、「従業員にも理解できる言葉に置き換えて話す」ことでもあるそうです。
社長と社員では持っているものさしが違うからこそ、社長が自分の物差しで語りかけても、社員が理解できないのは当然。そこで社長は、自身のものさしを社員のそれに置き換えて話をすることが大切だというわけです。(88ページより)
5. 「従業員の状況」を把握する
すべての社員の状況を知っておくため、著者はおもに5つの仕組みを活用するそうです。
【社員の状況を把握するための5つのしくみ】
1. 会議
2. 環境整備点検
3. 社長との食事会
4. ひと言メール
5. 読書感想文
(96ページより)
まず1.は、会議を数字だけではなく、「いま、どの社員が、どのような状況にあるのか」を報告する場所としても活用するということ。2.の環境整備とは、「整理、整頓、清潔、礼儀、規律を徹底すること」。3.は文字どおり、社長と各事業所の従業員との定期的な食事会。4.は日報とは別の、日々の業務の振り返り。そしてユニークな課題である5.は、「いま、本人がなにを考えているのか」「いま、どのような心の状況なのか」を見極めるためのものだといいます。(95ページより)
6. 「ポジション」を与える
中小企業に、リーダーの素質を最初からもった人間が集まるとは限りません。だとすれば、リーダーとしての素質を持っていない人をリーダーに育てればいいというのが著者の考え方。重要なのは、リーダーにふさわしい人がリーダーの地位につくのではなく、「地位が人を育てる」のだと考えているそうです。なぜなら人は、役割やポジションを与えられると、その役割に合うように成長するものだから。
そして著者は、「若い」「キャリアが浅い」というだけで抜擢をためらうのは違うといい切ります。理由は明快で、「やらせてみなければわからない」から。「若さは抜擢することをためらう理由にはならない」という考え方。抜擢して、まずやらせてみる。やらせてみてダメだったら、また戻せばいいだけのことだということです。(108ページより)
7. 社員を「ほめる」
人材を育てるもっとも簡単な方法は、社員をほめること。誰だってほめられればうれしいものですし、「次もほめられるようにがんばろう」と前向きな気持ちになれるから。しかも人間は、ほめる人が、自分よりも立場が上であるほど、うれしさが増すもの。だから社長が率先してほめたほうがいいというのが著者の考え。そこでノアでは「ほめる」を形にするため、「サンクスカード」「褒めシート」「感謝シート」などさまざまなツールを利用し、社員が成長を実感しながらステップアップできる環境をつくっているのだそうです。(113ページより)
いうまでもなく、本書で明らかにされているのは、著者がトライ&エラーを経て獲得したノウハウ。だからこそ、ひとつひとつの考え方には強い説得力が備わっています。社長のみならず、あらゆるリーダーにとって得るものが大きい内容だと思います。
(印南敦史)
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