視点 選挙制度 参院合区を避けるなら=論説委員・人羅格
改革の議論は衆院だけではない。夏の参院選では「鳥取・島根」「徳島・高知」両選挙区が1人区として統合され、選挙区を都道府県単位としてきた原則に初めて例外が生まれる。
区割り変更は1票の格差を3倍未満に是正するための定数「10増10減」に伴うものだ。大都市圏への人口集中にはいっこうに歯止めがかからないだけに、地方の1人区の合区は今後も憲法上の要請となるだろう。
これに「待った」をかける動きが自民党にある。参院選では改選ごとに各都道府県から議員を選ぶように憲法を改正することで「鳥取・島根」のような合区を解消し、阻止しようという議論だ。参院議員を地方代表と位置づけることを想定しているとされる。
参院選で1人区は自民党の金城湯池だ。「1県1人」確保に憲法のお墨付きを与え、議席を死守する思惑が感じられる。
だが、議員の位置づけを変えるのであれば、参院の役割の見直しが必要だろう。
もともと参院のあり方は、憲法改正を論じるうえで優先すべきテーマだ。参院は衆院をけん制する「良識の府」の役割が期待される。しかし、実際は衆院のコピーとやゆされるような政党化が進んでいる。
その一方で、参院は法案審議などで衆院と対等に近い権限を持つため、衆参で与野党勢力に「ねじれ」が起きると政権の運営に過大な影響を与えがちだ。
地方代表の性格を持つドイツ連邦参議院の場合、決定権限は州に関する事項などに限られている。参院議員を都道府県代表とするのであれば、なおのこと現行の「強い参院」のあり方の再検討が欠かせない。
地方代表を選ぶ単位に「都道府県」が適切かという論点もある。市町村へ分権が進み「県」の役割は次第にあいまいになっている。そもそも、自民党は都道府県を再編する道州制の導入を主張している。
憲法の地方自治に関する条文には都道府県制を明示した根拠規定はない。選挙制度の単位だと憲法に記すのであれば、広域自治体のビジョンを固めることが前提だろう。
政権を決める衆院で1票の格差是正原理は当然、徹底されるべきだ。ただ、衆参両院が同じ原理で大都市選出議員の比重を高めることは、一極集中に拍車をかけるのではないか。
だからこそ、参院のあり方や国と地方の将来像を起点として、参院の選挙制度を論じてほしい。1人区温存目当ての議論では、せっかくのテーマを矮小(わいしょう)化しすぎだ。