米国大統領選挙で共和党候補としての指名獲得が確実視されているドナルド・トランプ氏の人気ぶりを確かめてみようと、動画共有サイト「YouTube」を見てみた。本当に「暴言の達人」なのかを確かめ、また、たびたび言葉を変える気まぐれさをこの目で見て、無知ぶりを露呈した発言も聞いてみたかった。
演説会場のムードは予想通り、宗教の集会にも似たものだった。イスラム過激派のテロで子ども奪われた母親が自らの体験談を語った。イスラム教徒の移民排斥を訴えるトランプ氏の公約に合わせた、まるで信仰の告白のような演説だった。続いてロックバンドが登場し、トランプ氏をたたえる歌を披露した。トランプ氏を支持する演説が続き、人々が飽きてきたころ、トランプ氏本人がステージに上がり、情熱的ながら、時折ユーモアにあふれる演説をした。トランプ氏が「偉大な米国の復活」「米国最高」などと叫ぶたび、聴衆は歓声を上げた。あたかも教会で「ハレルヤ」「アーメン」と叫ぶかのようだった。
2008年の大統領選で黒人の票を総ざらいしたオバマ現大統領の遊説では、概ね1000人単位の聴衆が公園や広場を埋め尽くした。ブッシュ前大統領が候補者だったときは、数百人がホールを埋め尽くす様子がテレビにたびたび登場した。一方、トランプ氏の演説会場はスタジアムか、大規模なドーム球場だ。数万人が詰めかけるというわけだ。米国では自発的でない限り、到底集まるはずのない人数だ。
演説は明らかに扇動そのものだ。米国のポピュリズム(大衆迎合)型政治家としての第1の資格は、やさしい英語を使うということだ。トランプ氏の演説は、小学生でも理解できる程度のものだ。三段論法(大前提、小前提、結論)は使わない。「(日本の首相)安倍晋三は殺人者だ。地獄のような円安政策で米国を殺そうとしている」などといった簡潔な二段論法だ。