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2016年3月期 人材業界まとめ 
業界成長率対前年120-130%程度 リブセンス一人負け

2016年3月期、人材業界全体は120~130%で成長

HR2016

2016年3月期の人材業界の決算がパソナ(5月決算)、ジェイコムHD(5月決算)、テクノプロ・ホールディングス(6月決算)を除いて概ね全て出そろいました。昨年度の人材系上場会社の売上高合計は120%~130%で成長、売上高や営業利益で過去最高を更新する会社が多く、大変景気の良い1年だったようです。昨年度調査に引き続き、人材系(と私が勝手に括っている)全ての上場会社が黒字転換しており、リブセンスを除く多くの企業が増収増益を達成しています。

昨年度を振り返るとマーケットの成長は3つのファクターによって実現されたように感じます。

① 広告課金ビジネスの続伸(求人広告)
② 高い有効求人倍率の推移(人材紹介)
③ 派遣単価の更なる高騰(人材派遣)

一つひとつの要因については、個社の事例を取り上げながら、後ほど分析したいと思います。(数値の単位はすべて百万円単位です。)

1.「求人広告」 広告課金媒体続伸 ディップとリブセンスの明暗

DIP

対前年比で売上高を最も増やした企業の1つがディップ(売上高19,530→26,798、137.2%成長)です。その内訳の中でも最大のインパクトがメディア事業のバイトル、はたらこねっとの成長です。
バイトルは売上高過去最高を記録し、はたらこねっともリーマンショックで人材業界に激震が走る直前決算の90.2%まで急回復し、この広告課金型媒体商売が極めて堅調に推移していることが分かります。

広告課金型媒体商売の特徴としては、以下3点が上げられます。

① 一度求人広告プラットフォームを構築してしまうと、営業コスト以外の運営コストは一定のため、損益分岐点を超えると大幅に利益が計上可能であること、

② 高い有効求人倍率が維持されると自ずから1人の求職者に対して複数の求人で採用内定が出るが、転職先は1社のため、未決定求人が増える。そして未決定が増えれば増えるほど求人掲載は継続し、広告売上が続伸する、

③ 成功報酬型ではなく、広告課金のために、採用の是非にコミットメントはしていない。極端な話、誰も決定しない状態が多くの求人企業で続いても、媒体には責任は生じない。

昨年度は有効求人倍率1.28倍と続伸し、求人件数も紙媒体合計 597,113件、求人サイト 736,835件、フリーペーパー 462,243件と大きく前年を上回っています。
そのため、広告課金型媒体商売の③の特徴がレバレッジして更に続伸したことを想像されます。

この傾向は類似媒体でも顕著にみられ、エン・ジャパンの運営するエン転職も前年比155%成長の9,672キャリアデザインセンターも116%成長の4,810と躍進しています。
先般よりリファーラル採用などが話題になっておりますが、数字の上ではまだまだ広告媒体が健在ということが明確となっています。
なお、この領域ではGreenを運営するアトラエ社がマザーズ上場を果たしています。同社も売上高563→837と148%成長しており、リファーラルが一番進展しているであろうIT/WEB領域においても求人広告がまだまだ多くの会社でフル活用されていることが伺われます。

リブセンス

さて、各媒体社が売上、利益で最高を記録する中で、特に利益が急落したのがリブセンスです。業界平均で利益成長が120%程度の中で、-98.8%と散々な実績です。
元々2018年12月期を最終年度とする中期経営計画では売上高400億円、営業利益120億円を目指していましたが、こちらの中計も取り下げに至っています。
売上高が全社で前年比118%と成長しているものの、広告宣伝費、人件費は売上成長以上に投資継続しており、今回のような決算に至ったものと感じます。
キャッシュポイントが成功報酬のために、上述のように極端に求人が増加した場合には、なかなか自社掲載求人で採用決定が実現できずに、売上が計上できない悩みは相変わらずです。

また、口コミサイトの転職会議に投資継続していますが、口コミサイトは送客可能なアフィリエイト収入や広告収入があって初めて出口戦略が描けるのですが、こちらも難航しそうです。
求人系の場合には当然各転職媒体が顧客となるわけですが、顧客である各媒体社も似たようなサービスを開始しているからです。ex. 会社の評判(エン・ジャパン)、価格コム、食べログ、クックパッド、@コスメ、塾ナビなどNO1として君臨する口コミサイトは新規参入者を寄せ付けない蓄積の強みがあります。そして驚くほどに「では2位は?」と聞かれても誰も答えられません。
最終的に求人系口コミサイトではNO1を取らないと、苦しい状況には変化はないだろうと思われます。

2.「人材紹介」 高い有効求人倍率の推移 人材紹介会社は集客試練の1年に

jac

さて次に人材紹介セクターです。こちらはJACリクルートメントの決算分析すると市場トレンドがよくわかります。人材紹介大手のリクルートキャリア、インテリジェンスなどは個別事業状況がなかなか開示資料では掴みにくいのですが、JACは紹介事業ほぼ単体です。有効求人倍率は1.28を記録し、過去最高を更新、どこの企業も人材不足に苛まれる中で、紹介会社のビジネスも堅調に推移しています。
JACの個別決算については、既に3月に「JAC決算に見る、人材紹介会社が目指す方向性」でコメントしております。私の期待値としては個人生産性を4000万円程度、平均年収を800万円程度まで上昇させ、新卒・中途市場においては「人材エージェントも悪くないね!」と思われる企業へと発展していただきたいと考えています。やはり社員平均売上2000万円、平均年収500万円では優秀層はこの業界にやってこないと思うのです。

なお、人材紹介においては特にバンク型企業の明暗が別れつつあります。潤沢な広告投資により、求職者の集客を安定的に行える会社と、他社媒体依存や自社集客の弱い会社で、特に利益面での差異がくっきりしてきました。

enworld

例えば、外資系企業及び日系企業のグローバル採用案件を中心としたエン・ワールドは売上高微増、利益幅は下がっております。3Qにおいては赤字転落しています。
営業利益減少理由については「求職者の獲得競争激化」を上げており、これは広く登録型紹介に合致する事案と考えます。各媒体当該領域の1位以外は集客は相当厳しいのではないかと予想します。

未上場企業の情報は官報待ちとなりますが、医師、薬剤師領域ではエムスリーキャリア、看護師、介護領域はエス・エム・エス、販促系はヒトコムなど、各領域NO1企業は現在の求人数の恩恵を受けていますが、その他の企業は求人は集まるものの求職者の確保ができず決められない状況と思います。そして求職者確保のために広告投資や外部媒体へのレベニューシェアを増やして収益性が悪化している、という見方もできると思います。

恐らくこのトレンドは中長期で継続すると思われますので、各社いかに集客機能を強化するのか、効率的な成約を達成するのかが、営業利益/利益率改善に肝になってくることを予想します。
最近流行りのオウンドメディアは社員5-20名の零細エージェントにとっては非常に有効な手段ですが、50名超の中堅・準大手エージェントには焼け石に水な政策であり、多くのエージェントが食っていくに十分な求職者増加にはつながらないと思います。むしろスカウト型に切り替えたり、決められそうにない案件を見切る(決めやすい案件に注力する)事も必要だと考えます。

3.派遣単価の更なる高騰 お疲れ様でした!篠原欣子さん(テンプスタッフ創業者)

派遣単価

人材派遣については私は専門ではありませんので、ざっくりコメントにとどめます。上の図はリクルートHD発表の派遣スタッフ募集時平均時給調査です。2015年4月~2016年3月までは基本的には1600円台を常に超えており、前年同月比では3-4%UPを記録しています。基本的にはこの派遣募集単価に派遣会社のマージンが乗り派遣先企業に請求されますので、必然的に派遣市場の単価は上昇します。

しかしながら、正社員紹介市場が極めて堅調に推移する場合、派遣スタッフが紹介市場に流れてしまい、派遣会社も派遣求人は多いものの派遣できるスタッフがいない、というジレンマを抱えることになります。2016年3月期というのは派遣会社も紹介会社同様に集客に大変苦労の大きい1年であったと思料いたします。そして紹介に比べると派遣領域では勝ち負けがさらにはっきりしたように思われます。

テンプスタッフ

こちらは派遣大手テンプスタッフの派遣・BPOセグメントの実績です。対前年度で売上高135%、営業利益125%成長と続伸、もっともパナソニックエクセルスタッフとP&PホールディングスのM&Aによるある程度作られた決算と捉えるべきでしょう。
かつては資本系派遣会社の雄と認識されていたパナソニックエクセルスタッフのテンプHD傘下入りというのは時代の変化を感じますね。こちらは以前「資本系人材会社の消滅を検証する」でも触れましたが、今後も資本系の撤退売却は基本トレンドと考えます。登録者が不足すればするほど、既に派遣先・派遣スタッフが確定している資本系派遣会社の価値は高まるでしょうから、待てるだけ待って本社事業収益とにらめっこしてExitする、という経営判断は当然あってしかるべきものです。

リクルート派遣

なお、1社だけ異次元の人材系商売で1兆2500億円を達成しているリクルートHD、こちらは既に日本では唯一グローバルに派遣ビジネスを展開しており、比較対象もグローバルトップ企業であるランスタッドやアデコであるために、あまり国内企業と比較しても意味がありません。派遣事業は国内106.3%、海外は買収効果で166.6成長しています。
リクルートの人材系のM&Aはほぼ海外にシフトしていますが、国内では唯一パソナが対象になりうるものと考えています。パソナグループは売上2000億円超ながら、利益率は安定の1%台であり、長らく創業オーナーの南部会長の後継者問題、低収益問題など課題山積であります。今年は決算前ですが、大所帯の派遣事業が赤字転落の可能性も高いと考えています。過去スタッフサービスを吸収したように、パソナを買収し、リクルートが国内派遣ビジネスの競争時代に終止符を打つ、可能性は多少はあると考えています。

最後になりますが、テンプスタッフの創業者である篠原欣子氏が6月総会をもって取締役会長を退任し、名誉会長に退かれます。
私は直接面識はありませんが、篠原欣子氏は日本の人材ビジネスの黎明期より取り組まれ、特に人材派遣業の発展に貢献されてきたものと認識しております。
昨今ではインテリジェンスの買収により、派遣以外の成長ドライブの確保、後継者となり得る経営人材の確保に着手され、直近も素晴らしい業績を残され、まさに有終の美を飾られたように感じております。
心より「お疲れ様でした!」と申し上げたいです。

1つの時代の終わり、というのは新たな時代のスタートでもあります。人材業界の皆さまにとって本年度が飛躍の1年になることをお祈りいたします。

 

補足:ご自由にご活用ください。

2016_3

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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