サントリーホールディングスがハンバーガー店チェーンのファーストキッチン(東京・新宿)の株式売却を決めた。ファーストキッチンの初代社長は、サントリーの創業家出身で後に本体の社長も務めた鳥井信一郎氏。歴史ある子会社の売却は、グローバル企業への変身を急ぐサントリーの経営陣にとって、「事業の選択と集中に例外はない」という意思の表れとみることもできる。
■変わった経営課題
サントリーがファーストキッチンを設立したのは、1977年。当時の主力事業はウイスキーなどの洋酒事業だった。事業の多角化の目玉として、市場の大きな成長が期待されていたファストフード分野への進出を決めた。
そのタイミングは、米マクドナルドが日本に上陸して話題を呼んでから6年後。1963年にはビール事業に進出していたが、赤字続きで苦労の連続。「洋酒頼み」だったサントリーにとって、ファストフード進出は大きな決断だったに違いない。
それから半世紀。今のサントリーの経営課題は、酒類や清涼飲料などを軸にした世界トップ級の飲料メーカーへの転身だ。2014年には約1兆6000億円で米蒸留酒大手のビームを買収。さらにローソンの新浪剛史氏を社長に迎え、グローバル化を強力に推し進めてきた。
その目標の前には、今までのように事業の多角化を進める余裕はない。ビーム買収によってネット有利子負債は2015年末時点で1兆5629億円まで増加している。この負債を減らすためにも、事業の選択と集中を進めることが優先だった。サントリーは今年に入ってから、サンドイッチチェーンの日本サブウェイの株式売却にも動いている。
■ウェンディーズは「ヒト」狙い
一方、ファーストキッチンの買い手に浮上しているウェンディーズ・ジャパン(東京・港)にとって、今回の買収は一気に事業を拡大できるチャンスになる。ウェンディーズは1980年に日本市場に参入した後、2009年にいったん撤退。2011年に再参入したが、現在はわずか1店しかない。
ファーストキッチンの買収が実現すれば、その135店を一気に手に入れられる。いちよし経済研究所の鮫島誠一郎氏は「人材確保が狙いだろう」と指摘する。
人材不足が深刻化する中、外食産業では人材の獲得や定着が大きな課題。日本への再参入を果たした後も苦戦を強いられていたウェンディーズは「ヒト」という経営資源を手に入れ、テコ入れを急ぐとみられる。(中尚子)