News Up 炎上参加者 実はごく少数?

News Up 炎上参加者 実はごく少数?
インターネットで批判的なコメントが殺到する炎上事件。ネット中が批判一色になっているように感じられます。しかし、ネットに詳しい識者の間では「炎上を起こすのはごく少数の人だ」と認識されています。意外に思えるかもしれませんが、これを裏付けるように「炎上参加者はネット利用者の0.5%にすぎない」と、統計的な分析によって示した専門書が今、注目を集めています。
この専門書は「ネット炎上の研究」です。書いたのは統計的な手法で経済理論の実証分析を行う計量経済学が専門の慶應義塾大学経済学部の田中辰雄准教授と、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一助教。
これまで炎上について書かれた本は事例を取り上げて炎上の実態を説明したり、対策を指南したりする場合が多かったのに対し、この本では筆者らが実施したアンケート調査や公表されている炎上関連のデータを用いて、統計的な分析を行っている点が最大の特徴です。本の内容を理解するには統計学などの知識が必要とされますが、大手通販サイトで一時、在庫がなくなるほど注目を集めています。

炎上を統計的に分析

この専門書は「ネット炎上の研究」です。書いたのは統計的な手法で経済理論の実証分析を行う計量経済学が専門の慶應義塾大学経済学部の田中辰雄准教授と、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一助教。
これまで炎上について書かれた本は事例を取り上げて炎上の実態を説明したり、対策を指南したりする場合が多かったのに対し、この本では筆者らが実施したアンケート調査や公表されている炎上関連のデータを用いて、統計的な分析を行っている点が最大の特徴です。本の内容を理解するには統計学などの知識が必要とされますが、大手通販サイトで一時、在庫がなくなるほど注目を集めています。

最近の炎上事例

一口に炎上といっても明確な定義があるわけではありません。そこで田中准教授らは「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」としました。

最近、炎上で話題になったのは先月起こった熊本地震での「不謹慎狩り」です。著名人がネット上で発信するコメントや画像が、ことごとく批判されました。

例えば、熊本県在住で自宅が被害を受けたタレントの井上晴美さんは避難生活や被災地の様子をブログで発信していましたが、「不幸自慢にしか見えない」などと中傷するコメントが相次ぎ、ブログでの発信を一時中止しました。
また、タレントの紗栄子さんが被災者向けに500万円余りを寄付した振込受付用紙の画像をインスタグラムに投稿したところ、賞賛するコメントも多く寄せられた一方で、「好感度を上げたいのか」「わざわざ公表しなくてもよい」といった批判が多く書き込まれました。
田中准教授らは炎上には企業の不祥事を正すといった評価すべき面もあるとしつつも、個人の情報発信に伴う炎上は一方的な攻撃で、炎上が頻発すると個人は発信を避けるようになるとしています。発信を続けるのは炎上にめげない極端な意見を持つ一部の強者だけになり、両極の人が罵倒し合うなど、ネットからは冷静な議論が失われてしまうと懸念しています。

炎上参加者はごく一握り

田中准教授らは2014年の11月に調査会社のインターネットモニターおよそ2万人を対象に、炎上についてアンケート調査を行いました。その結果です。

「炎上事件を聞いたことがない」7.93%
「ニュースなどで聞いたが、実際の書き込みは見たことがない」75.37%
「実際の書き込みを1度だけ見たことがある」2.77%
「実際の書き込みを2度以上見たことがある」12.81%
「1度書き込んだことがある」0.49%
「2度以上書き込んだことがある」0.63%。

90%の人が炎上に参加したことはないものの、炎上の存在を知っているという状態であることが分かります。

では、炎上に参加している人はどれくらいいるのか?
先ほどの調査結果を見ると、実際に炎上に参加したことのある「1度書き込んだことがある」「2度以上書き込んだことがある」という人は合わせても1.1%しかいません。また、「2度以上書き込んだことがある」人の方がやや多いのが特徴的で、ごく少数の人が複数回にわたって、書き込みを繰り返していることが推察されます。

さらに今も炎上に加わっている人を推定するため、「書き込んだことがある」と答えた1.1%の人たちを対象に、「過去1年以内に書き込んだかどうか」を尋ねたところ、「書き込んだ」と答えた人は42%でした。先ほどの炎上参加者1.1%の人たちのうちの42%ですから、今も炎上に加わっている人は全体で見るとネット利用者の0.5%以下になるということです。

田中准教授は「炎上に参加している人が利用者のごく一握りだということは、ネットに詳しい識者の間ではよく知られていましたが、今回の調査でそれが裏付けられました。日本のネット利用者は約4000万人といわれ、炎上事件は少なくとも年間200件程度起きているとされています。炎上1件当たりの参加者はおおむね数千人と推定されますが、その大半は自分の感想をひと言つぶやくだけのいわば意見表明なので問題はありません。やっかいなのは、当事者のアカウントなどに執拗に書き込みを繰り返して閉鎖などに追い込む人たちですが、その数を見ると数人から数十人にまで減ると考えられます」と話しています。

誰が炎上を起こすのか

では、どんな人たちが炎上に参加しているのか。田中准教授らはさらに、2000人余りに対象を絞って、さらにアンケート調査を行いました。

炎上に参加したことがあるかどうかをはじめ、性別や年齢、住んでいる地域、それに「インターネットに書き込むには誹謗中傷されてもくじけない強い心が必要だと思うか」「インターネット上なら強い口調で非難しあってもよいと思うか」など、28の質問項目を用意し、統計的に分析しました。

その結果、炎上に参加する傾向が強い人として、次のような人物像が浮かび上がってきました。年収が多い人、ラジオやソーシャルメディアをよく利用する人、掲示板に書き込む人、インターネット上で嫌な思いをしたことがある人、インターネット上で非難しあってもよいと考えている人、若い子持ちの男性。
一方で、学歴や住んでいる地域、結婚の有無、インターネットの利用時間などは炎上に参加したかしないかに、さほど影響を与えていませんでした。
独身で学歴や収入が低く、インターネットヘビーユーザーといった、これまで一般的に言われてきた炎上参加者の人物像とかけ離れた結果になったということです。
山口助教は「炎上に加わっている人はインターネット上で非難しあってもよいと考えているなど、少し特殊な人たちとも言えます。そうした人たちの意見が社会を代表しているとも思えませんし、炎上して多くの罵倒を浴びせられたとしても、気に病む必要はないように思われます」と話していました。

炎上にどう対処する

炎上の予防策として、政治や外交、教育などといった炎上を引き起こしやすい話題を避けることや、炎上後の対策として、謝罪したり発言を撤回したりすることなどを指南する本もあります。
田中准教授らは炎上を避けて話題を限定してしまうことは情報発信をあきらめることに等しく、情報発信の萎縮につながるとしています。そして謝罪や発言の撤回をしても攻撃が続くこともあり、納得できなければ、謝罪や発言の撤回はすべきでないとしています。

田中准教授と山口助教は「炎上参加者はごく一握りの人たちで、炎上の対象となっても、擁護するコメントが少なからずあれば、行為としては特に誤りがない可能性が高く、発信を控えたり、謝罪したりする必要はないと考えます」と話していました。