【レポート】

ソフトバンク孫社長の「スプリントのV字回復」宣言は本物か

3 プリペイド強化も必要になったワケ

Junya Suzuki  [2016/05/23]

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1~2年の経過観察は必要

2000年以降を振り返って、2桁成長も珍しくなかった米国の携帯電話契約者数だが、ここにきて踊り場に到達しつつあるという認識が広がっている。実際、すでに全米のキャリアを合計した契約者数は同国の全人口を突破しており、普及率は100%を超えているとみられる。そのため、特にポストペイド契約で新規顧客を獲得するのは難しいとの考えから、キャリア同士の引き抜き合戦のほか、2台目需要やM2Mなど、携帯回線をさらに活用してもらうためのサービスメニューを拡充する方向へとマーケティングが変化してきている。「Uncarrier」戦略を打ち出して急激に契約者数を伸ばしているT-Mobile USAを除き、各キャリアのポストペイド契約者数は微増または微減を繰り返しているのが現状だ。

今回、Verizon Wireless、AT&T、T-Mobile、スプリントの4大キャリアの決算が出揃う直前に、あるアナリストが出した予想では、ポストペイド契約ではT-Mobileを除き、残り3つのキャリアはすべて純減になるといった意見もあった。結果的にこの予想を大きく裏切る形となったわけだが、予想を上回る結果が評価される一方で、スプリントのこのトレンドが続くかは不透明な部分も大きく、その成果が確実なものかを検証するにはまだもう少し時間がかかるだろう。好調なT-Mobileも、増加する顧客と設備投資のバランスが維持できるかの分岐点に差し掛かりつつあり、場合によっては低下したネットワーク品質で顧客流出を招く危険性もある。いずれにせよ1~2年の経過観察は必要だ。

ポストペイドからプリペイド強化へ向かう米国市場のなぜ

そしてポストペイドでの増加が停滞しつつあるいま、各社の動きにも注目したい。先ほど「スプリントはプリペイド契約を犠牲にしている」と表現したが、まずはポストペイド契約で足下を固めつつ、プリペイドでも水面下での反転策を探っているようだ。

同社は現在、MVNOのVirgin Mobile USAと、買収で獲得したBoost Mobileの2つのプリペイド専業ブランドを抱えている。Boost Mobileは中間以下の比較的低所得層をターゲットとしたブランドとなっているが、一方のVirginはもともと若者や学生などを中心にサービス展開を行っていた。

だが、FierceWirelessのレポートによれば、現在VirginはTargetやBest Buyといった量販店から次々と姿を消しており、スプリントのキャリアショップまたはRadioShack、Kmartといった限られた場所でしか見られない状態だという。これは、今年後半にVirgin Mobileのブランドとしての再ローンチを計画しており、Boost Mobile買収で方向性を見失いつつあったスプリントのプリペイド戦略を改めて明確にする意図があるようだ。

米ワシントンDCにあるRadioShack店舗を2015年5月に撮影したもの。ちょうど店舗内でのスプリント商品の取り扱いがスタートしたところだが、完全に1店舗での営業というわけではなく、スプリントのサービスカウンターがRadioShack店舗内に間借りして存在するという同居体制になっていることが営業時間の違いからわかる。RadioShackとの提携の狙いは、固定費のかかるスプリント専門のキャリアショップの維持費を削減しつつ、より広いエリアに浸透を図るのが目的だ

ポストペイド契約では冴えないAT&Tだが、傘下のプリペイドブランドであるCricket Wirelessのほか、AT&Tが独自に立ち上げた「Aio」を合わせ、契約者数を大幅に伸ばしつつある。好調なT-Mobileも、プリペイドの専業ブランドとしてはMetroPCSを傘下に抱えており、こちらも契約者数を大幅に伸ばしている。Verizon Wirelessを除く各社が最近になりプリペイドに力を入れ始めた理由として、スマートフォン販売の停滞とポストペイドARPUの減少が背景にある。

先ほどスプリントでの例を出したが、他のキャリアでも過去2~3年ほどでポストペイドARPUが1~1.5割ほど減少する傾向が見られており、やや上昇傾向にあるプリペイドARPUとは対照的となっている。ポストペイドARPUとプリペイドARPUが接近しつつあるなか、AT&TとT-Mobileは積極的にプリペイド市場開拓に乗り出しているというレポートも出ている

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インデックス

目次
(1) 過去9年で初の営業黒字に
(2) 「V字回復」の根拠
(3) プリペイド強化も必要になったワケ
(4) 変わるトレンドにスプリントがどう対応するか
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