北朝鮮の人々にとって、中国との関係は「祖国を解放するための勝利の戦いのなか血で結ばれた」ものだ。世界の大半が朝鮮戦争と呼ぶ戦いのことである。中国では、朝鮮民主主義人民共和国との関係は伝統的に「唇と歯のように密接」と表現されてきた。
だが、最近は双方で、歯は牙のようにむかれ、唇は軽蔑でゆがめられている。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)記者は先週(5月第2週)、北朝鮮を訪れた。最も印象的だったのは、政府関係者から一般市民に至るまで、すべての人が国境の向こうの元同志に深い憎悪を感じているように見えることだった。
すべての取材は監視人の立ち会いの下で行われ、誰も本当に思っていることを自由に言えなかった。これは中国への怒りを、なおのこと際立たせるだけだった。というのは、このような態度がある程度、当局の承認を得ていることを意味するからだ。北朝鮮を支配する朝鮮労働党は先週(同)、36年ぶりの党大会を開催した。北朝鮮は中国にとって唯一の正式な同盟国だが、中国政府の高官は一人も列席しなかった。
■北朝鮮への懸念強める中国
公式発言では、米国は常に「不倶戴天(ふぐたいてん)の敵」であり、日本は自国を50年間占領した「忌むべき帝国主義国家」であり、韓国は邪悪なかいらい政権だ。だが、この辛辣な言葉を吐くとき、人々は往々にして機械的に話しているように見える。しかし中国については、侮辱的な言葉はもっと自然で、感情の深さがはっきり見て取れた。
中国では、北朝鮮は恥ずかしい冗談のように見られている。飢えたスターリン主義の遺物、中国が1970年代に捨てた全体主義の下での暮らしを多くの人に思い出させる存在だ。
両国の関係が悪化した理由はいくつかある。中国は次第に、米国を脅かす能力を持った核兵器を開発する北朝鮮の野望への懸念を強め、北朝鮮に対して懲罰的な制裁まで科している。中国政府はよく米国政府との協議で、手に負えない隣国に対する影響力を吹聴していた。だが複数の消息筋によると、北朝鮮政府が今年、水爆実験を行ったと発表したとき、中国政府は全く知らなかったという。
大半の市民は知らないが、北朝鮮は現在、燃料と食料の多くを中国に依存している。北朝鮮政府は、警備が手薄な長い国境を越えて何百万人もの飢えた難民がなだれ込んでくる不安から、中国が恐らくこの物資の供給を断たないことを知っている。