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 2025年、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる。本格的な高齢化社会の到来だ。求められる医療の形も大きく変わる。それに向け、岡山県は今春、第7次保健医療計画を発表した。岡山の地域医療はどう変わるのか。課題と、解決に向けた現場の動きを紹介する。

■川中島の戦い

 真庭市にある六つの一般病院のうち、最大の二つ、落合病院(1937年開業、173床)と金田病院(51年開業、172床)は、旭川を挟み、向かい合う。直線距離でわずか約400メートルしか離れていない。

 規模も設備もほぼ同等。地域の医療を支えるライバルとして、長年激しく競ってきた。住民は戦国時代になぞらえ「川中島の戦い」と呼んだ。

 真庭市の人口は、2005年に合併した時の約5万2千人から減り続け、現在は約4万7400人、25年には約4万人と推計されている。一方、65歳以上の高齢者の割合は上がり続けており、25年には4割を超える見通しだ。

 人口構成の移り変わりに基づき、県は今春、真庭市で25年に必要な病床数を約460床と試算し、発表した。現在、市内6病院の計約600床を大幅に下回る。

 過剰感は、すでにある。落合病院の安東正典事務局長は「稼働率がじわりと落ちていると感じる」と話す。

 09年、隣接する津山市の中核病院の一つが倒産した。市内にあるもう一つの病院との競争の結果だった。

 高齢化が進む地域では、病院は安心を保障する社会インフラだ。中核病院が突然消え、住民の安心感が失われると、人口流出が加速する。真庭市で病床の需要が減る中、落合、金田両病院が競い続けて共倒れになると、地域そのものの存亡にかかわりかねない。

 どうするか。

 出した結論は「競争から協調へ」だった。

 落合病院は、人工透析をする50床の腎センターやドクターヘリの発着場など、市内唯一の設備を持つ。産婦人科の常勤医がおり、お産が出来る病院もここだけだ。

 一方の金田病院は、整形外科や脳外科の専門医が複数常勤し、専門的な手術を多数手がけている。

 近さを利点に、それぞれの特性を生かし、補完し合うことで共存を目指す。

 津山の病院が倒産した09年に、金田病院は透析をやめ、患者を落合病院に譲った。落合病院は外科と整形外科の手術をやめ、金田病院に一本化した。

 そして昨年11月、両病院は「連携協力の推進に関する協定」に調印した。地域完結型の医療の推進や、医療機器の相互支援などをうたう。

 今、患者に渡す両病院の外来診療表は、片面に落合病院、もう片面に金田病院の表を印刷している。両病院が受け持つ診療を、地域の人に分かりやすく伝えるためだ。地域医療構想に詳しい産業医大(北九州市)の松田晋哉教授は、この診療表を「病院共生という新しい医療の象徴」と見る。

 課題はまだ多い。だが後戻りする道はない。金田病院の金田道弘理事長はこう話す。「戦いの先に、地域の明日はありませんから」

■模索始まる玉野

 三つの中核病院がある玉野市でも、模索が始まった。

 市民病院、玉野三井病院、岡山赤十字病院玉野分院は、いずれも医師不足に苦しみ、経営も厳しい。

 玉野三井病院の磯嶋浩二院長は「他の中小病院も医師が高齢化している。地域医療の中心となる救急の維持は限界に近い。市全体で再編成が必要だ」と話す。

 解決策を探るため、3病院と市、医師会、岡山大などが「玉野市地域医療連携推進協議会」を結成。4月27日に初会合を開いた。来年始まる地域医療連携推進法人制度などを使い、連携を円滑に進めたい考えだ。

 しかし、市・企業・日本赤十字社と、経営母体が大きく異なる3病院が、譲り合い、役割分担を整えるのは容易ではない。3病院は玉野の医療を支えきれるか。正念場を迎えている。

<アピタル:ニュース・フォーカス・特集>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(中村通子)