印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,仕事術,書評,語学 06:30 AM
同時通訳者が教える、たった1つで説得量が増す英単語
『同時通訳者が教える ビジネスパーソンの英単語帳 エッセンシャル』(関谷英里子著、ディスカヴァー携書)の著者は、アル・ゴア米元副大統領、ダライ・ラマ14世、ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソン氏など著名人の講演会の同時通訳を務めてきたという人物。
業界トップの人々が使っている英語と日常的に触れるなか、「世界を熱狂させる彼らのスピーチは、なにかが違う」と気づいたのだそうです。しかも、文章の構成が特徴的だとか、しゃれた文法を使っているとか、身振り手振りが大袈裟だというようなことではなく、使っている英単語が違うというのです。むしろ、「それだけ」であるといっても過言ではないのだとか。
たとえば、そのいい例がshare(シェア)。
なにかを人にいうとき、私たちは当然ながらsay(セイ)やtell(テル)を使います。ところが人の心をつかむリーダーはsayもtellも使わず、代わりにshareを効果的に用いるというのです。例を見てみましょう。
I will tell you what happened to me last week.
I will share with you what happened to me last week.
(「はじめに」より)
どちらも、「先週私に起きたことを君に話そう」という意味。しかしtellを用いるかshareにするかで、聴く人が受ける印象は大きく変わるというのです。
最初の文は、一方的に"「私」が「君」に話す"。それに対して2番目の文は、"「私」に起きたことを「君」と分かち合う"というニュアンスだということ。いわば前者に上からいっている印象があるのに対し、後者からは分かち合いの精神のようなものが汲み取れるということ。単語ひとつでこれだけ印象が変わるというのです。
そして、人を熱狂させ、夢中にさせる人の言葉には、こうした単語による印象の違いがふんだんに盛り込まれているというのです。しかも単語は決して難しいものではなく、中学高校レベルの英語で十分にカバーされているものばかり。
だとしたらビジネスに応用できないはずがないということで、本書では「すぐに使えて効果を生み出す単語」を紹介しているというわけです。PART 1「簡単なのに『この人デキる!』と思わせるキラー英単語」から、幾つかをピックアップしてみましょう。
AIM[エイム] (n)狙い、目標 (v)狙う、目指す
ビジネスの世界においては、「成果を出す意志」を見せることが大切。しかしWe will try.(やってみます)では、弱気で及び腰な印象を与えてしまうのだそうです。そこで、aim(目指す)を使って、具体的に目指していること、達成したいことを挙げてやる気をアピールすることが大切だといいます。
We will try to acquire 1 million new users.
(新規ユーザーを100万人獲得できるようになってみます)
→tryでは、やってみるだけで頼りない印象を与えることに。We aim to acquire 1 million new users.
(新規ユーザーを100万人獲得することを目指します)
→実際にやる気があって、真剣に100万人を獲得するつもりでいることが伝わります。
(25ページより)
COMMIT[コミット] (v)コミットする、本気で取り組む、全力を傾ける
ビジネスシーンでI will do my best.(最善を尽くします)といったら、「それでは不十分だ、結果を出せといわれかねないそうです。なぜなら、「がんばる」だけで結果にコミットしない印象を与えてしまうから。だからこそ、仕事に真剣に取り組んでいる、その本気度合いを、commit(本気で取り組む)を用いてしっかり表現することが大事だというのです。
We do our best to satisfy customers.
(我々は顧客満足度を上げるため、がんばっている)
→ただ「ベストを尽くす」だけで、がんばっても実績が伴わないことも想定されて、頼りない印象。We are committed to customer satisfaction.
(我々は顧客満足度向上に真剣に取り組んでいる)
→約束した結果を絶対に出すぞ、という意気込みが感じられます。
(27ページより)
OPPORTUNITY[オポチュニティ] (n)機会、好機
「チャンス=chance」と考えるべきではないと、著者は意外にも思えることをいいます。理由は明白で、英語のchanceには偶然性、リスクが多く含まれており、冒険、危険、賭けという意味にも使われるように、必ずしも「実る」ニュアンスはないから。そこで、より実りやすい好機を表すのであればopportunityが適切だとか。Chanceよりも確実性が高く、前向きなイメージだといいます。
I want to use this chance to thank everybody.
(このチャンスを利用してみなさまに感謝したいと思います)
→chanceは偶然性が高く、リスクも多くて上手くいかない機会をも含むもの。よって、この場合には適切な単語ではないといいます。
I'd like to take this opportunity to thank everybody.
(この機会を利用してみなさまに感謝したいと思います)
→opportunityには「好機」という意味があり、前向いな単語だそうです。
(37ページより)
AVAILABLE[アヴェイラブル] (adj)利用できる、手があいている
利用可能であること、手があいていることを示す頻出用語。商品やサービスを提供できるのか、できないのか、電話などである人が席にいるのか、いないのか、いま話せるのか話せないのかを伝えるとき、それを端的に表現できるそうです。
We can't do services in your country.
(あなたの国ではサービスが不可能なんです)
→「不可能」といい切ってしまっては、なにが根拠で不可能なのかが意味不明。そのため、相手の気分を害してしまうこともあるかもしれないといいます。Some services may not be available in your country.
(サービスによってはお客様の国では利用できないものもございます)
→「その国でサービスが提供できないなにかしらの理由があるのだろう」と推測できるため、ビジネスにふさわしい表現。
(45ページより)
UPDATE[アップデート] (v)アップデートする、更新する
業種にかかわらず、ビジネスの世界では最新の状況を把握しておくことがとても重要。そこで注目したい単語がupdate。「最新の状態にする」という意味合いもあり、スピード感を表現したいときに最適だといいます。
This is the situation today.
(これがきょうの状況です)
→せっかくの状況報告があっさりとした感じに聞こえます。Let us update you on the situation as of today.
(きょうの状況についてアップデートさせてください)
→状況報告ひとつとっても、最新のものを説明している印象を与えます。
(49ページより)
RESERVATION[レザヴェイション] (n)懸念
reservationを「予約」の意味だけに使っていたのではもったいないと著者。「懸念」という意味があるので、これを活用すべきだというのです。仕事は好き嫌いで判断すべきではなく、成果の有無で見るべきもの。とはいえ、どこかにモヤモヤした懸念事項がある場合は、それをはっきり表現することも重要。そんな時、「嫌い」「嫌だ」というのではなく、スマートに「懸念がある」と表現することによって、「はっきりいいつつ、しかし感情的ではなく冷静な」印象を与えることができるわけです。
I don't like this project.
(私はこのプロジェクトが気に入りません)
→感情的な好き嫌いを仕事に持ち込む人だと思われて損。I have reservations about this project.
(私はこの計画に懸念を抱いています)
→抑えた気持ち=前向きに考えられない原因があることをスマートに表現しているわけです。
(55ページより)
無駄な解説を意図的に排除し、「すぐに使える」ように端的な表現に徹しているところが本書の魅力。ビジネスの即戦力としてのポテンシャルを備えているわけで、とても「使える」一冊だといえます。コンパクトな新書サイズなので、常にバッグに忍ばせておいてもいいと思います。
(印南敦史)
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