人の行動は「権力」によってどう変わるのか

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権力が時に人を堕落させる背後には、どんな原理があるのか。その最も強い要因として「脱抑制」と「自己への注目」を挙げ、興味深い実験の数々を紹介する。


「権力は人を堕落させる」という昔ながらの決まり文句がある。事例証拠ではたしかに、それが真実だと示唆されている。非倫理的、あるいは不誠実な指導者にまつわる話は、新聞や歴史書に驚くほど頻繁に登場する。

 しかし、権力を持つ人の振る舞いは本当に、そうでない人よりも非倫理的なのだろうか? 近年、多くの社会科学者がこの疑問の解明に取り組んできた。

 この手の疑問がたいていそうであるように、答えは「時と場合による」だ。ただし、1つ明らかなことがある。膨大な数の研究で示されているのは、権力には人間の心理を変える作用があるということだ。すなわち、自分に「権力がある」と感じている人と「権力が欠如している」と感じている人とでは、考え方、感じ方、振る舞い方が異なるのである。

 また、人は大小さまざまな形で自分の権力を利用するという事実も、数多くの実証的研究で示されている(権力の源泉は、高収入、組織階層における地位、社会階級、あるいは単に与えられる選択肢の多さ、などさまざまだ)。人は「権力感」を持っているとき、無礼や不正を働く傾向が強くなる(英語論文)。たとえば高級車を運転している人は、歩行者に道を譲ることが少ない。また一連の実験では、社会階級が高い人ほど、報酬を勝ち取るチャンスを高めようと交渉の場で嘘をついたり不正をしたりする確率が高かった(英語論文)。

 権力者は不正をする傾向が強いばかりか、それをより自然にできるようだ。カリフォルニア大学バークレー校、ケロッグ経営大学院、コロンビア大学の研究者らによる研究プロジェクトでは、強い権力感を誘発された被験者は、権力感の低下を誘発された被験者よりも上手に嘘をついた。つまり、嘘が聴衆に気づかれない確率が高かった。

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