2002年度寄付講座
早稲田大学オープン教育センター

第10回: 馬塚丈司氏(2002.6.26)
(サンクチュアリジャパン 代表)

「自然保護運動の大切さ」

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絶滅危惧種なのに売買を禁止していない日本の法律

 私が16年前に初めて会ったウミガメがアカウミガメだったのですが、これがそのアカウミガメです。陸に住むカメは足に指がついています。海にすむカメには歩かないので指がついていません。そのかわりオール状になっているので泳ぎやすくなっています。もう一つ、ウミガメは水温20℃以上のところに生息しています。そのために彼らは寒くなったら暖かい流れの中に移動するために、甲羅が上に乗ってはいますが甲羅の中に頭や足は引っ込みません。これがウミガメとリクガメの違いです。冬眠する、陸を歩くリクガメと、冬眠しない、海の中を泳いでいるウミガメの違いです。そして、これがアカウミガメという体長1.2mで約150kgあるウミガメです。

 このウミガメたちは8種類いるのですが、これがアカウミガメで、これがオサガメという世界最大のカメで、体長2.5mで1t近くあるのでこちらの大きなカメは乗用車くらいあるということです。これはタイマイというカメです。時代劇の水戸黄門で「大枚千両」と言いますが、あの大枚というのは大金という意味です。実はカメの甲羅が高く売れるということでタイマイといい、そのタイマイの甲羅から「大枚」という言葉が出てきたと言われています。

 夜の9時頃になるとカメが上がってきます。体重があるので這った跡が残ります。 カメは気に入った場所に10cmくらい自分の体をすっぽりと埋めるボデイピットと呼ばれる穴を掘りその後卵を産むために深さ50センチ位の穴を掘ります。約50〜60cm掘って卵を約110個産みます。ピンポン玉のようなぷよぷよした卵で、鶏の卵とは違います。ですからポトポト産み落としても割れません。

 これはウミガメが卵を産み終わった後、砂をかけているところです。早朝一般公開で観察会をやっています。こうして市民のみなさんと朝5時から歩きます。ですからみなさんもご希望があれば、土曜、日曜、祭日に申し込んでもらえればこうして一緒に調査に参加できます。

 そして、足跡を探しています。これがカメの上がってきた足跡です。それをたどっていくと卵があるということです。その卵をみんなで掘り出します。

 これは砂浜に建てた小屋です。私達は人工孵化で熱を加えたりしているわけではなく、人からカメの卵を守るために、持っていかれないようにこの小屋の中に入れています。それで風や太陽や音やいろいろなものが海と全く同じように入るだけで、ただ人間が入れないという環境を作っているだけです。

 もう一つ、絶滅危惧種であるウミガメの卵は売買禁止になっていないのです。カメはこの地球上で四つの足を持った最も古い生物です。恐竜よりはるかに古い生物が今生きているにも関わらず、売買を禁止する法律がないのです。なぜかというと、日本が主な産卵地で、日本にはたくさんいるということからまだ法律ができていないのです。しかし、世界では絶滅危惧種ですからワシントン条約の中に入っているので、売買は禁止されているのです。国内では、特に法律はありませんので盗む人が絶えません。海岸にある卵は盗むと1回目は忠告なのです。2回目からは逮捕されます。しかし、卵1個が1万円で売れる。110個産めば110万円です。罰金が50万円ですので、捕まったときには50万円払えばいいので儲かるのです。

 これは焼き物の小ガメですが、本物の子ガメは1匹10万円以上で売れるのです。そうすると、卵をひとあな分盗めば1,000万円以上になるわけですので、50万円罰金払ってもいいということになります。ですから盗まれてしまうのです。海岸にあるものは誰のものでもないのです。しかし、いったんこの小屋に入れると、これは私のものなのです。私が許可を取っていて、許可を取っているのは私だけなので私のものです。ですから太平洋にいるカメのほとんどは私のものなのです。しかし、海の中にいると私の所有権は発生しない。私が建てた小屋ですから、この中に入ると発生するのです。そのためにこうして小屋を建てているのです。これをつぶせば家宅侵入。器物破損、窃盗でたくさん罪がつきます。ですからこうして守るしかないのです。

 これはうちの息子と娘と、これは赤の他人ですが、こうして卵を埋めています。親子でやっているのでこうしているのですが、このスライドを出したのには理由があって、ウミガメを紹介するためではなく、もっと大切なことを紹介しようと思い出したのです。それは私の子供がかわいくて出したのではありません。この子は小学校1年生のときにとんでもないことを言ったので、その話題になったことを紹介しながらみなさんにも「いいお父さん」になってもらいたいと思っているのです。

 実はこの子が小学校1年生の七夕のときに、学校で七夕の短冊にみんなは「ポケモンカードがほしい」、「ゲームを買ってくれ」、「小遣い値上げ」と書いたのですが、この子はなんと小学校1年生で「浜松市民がみんな幸せになりますように」と書いたのです。なぜ小学校1年生の子供がこんなことを書くのだと学校で問題になりました。こんな大志を抱いている子はすごいということになったのです。それで子どもに先生が「何で君はそんなふうに書いたのか」と聞きました。そうすると子どもは「毎日うちのお父さんがそう言っているから。僕はお父さんの希望をかなえてあげようと思って書いた」と言うのです。先生はこの子をほめました。しかし、家に帰って子供は「今日ほめられたけど、ちょっといやだった」と言いました。それはそうです。みんなの前でほめられれば照れくさいです。それで私は次の日、先生に電話しました。「先生たるもの子供をほめてはだめじゃないですか。誰が偉いって毎日言っているお父さんが偉いに決まっているじゃないですか。教育しているという私をほめなければだめだ。そうすれば子供はお父さんがほめられると、身内がほめられるとうれしいので素直にほめられるのです。教育者はそうではければいけない」と言ったのです。この子が先ほど言いましたように「お父さんがネイチャーセンターを借金で作ってしまったために、負の遺産を残されてしまう」と言った子です。遺産を残すために負の遺産を残すというなんともいえない矛盾です。

16年間、年間4万匹のカメを放流

 次は、ウミガメは涙を流しながら卵を産むと言われています。月でウサギが餅をついているというのと同じようなものかもしれませんが、ウミガメというのは小ガメのときに海に入ったら、陸にはメスのカメしか上がってこないのです。オスは上がってこないのです。メスは卵を産むために上がってくる。しかし、海水と一緒にエサを食べるので塩分がどんどん高くなってしまって塩分を涙腺から出します。ですから私はこういうふうに話す以上はあの涙をなめてみました。この涙を流している写真は世界に1枚しかない大粒の涙なのです。こんなにきれいな涙を出している写真はありません。なぜこのように大きな涙を出したかというと、実は理由があります。

 今、日本でウミガメを守ろうと力を入れてやっているのは私です。ウミガメにとって誰に会いたいかというと、地球上の私に会いたいに決まっています。そのためにこのメスガメは私に会えて感激の涙をポロッと出したのです。ですから大粒の涙なのです。みなさんにはそれがわかるか、ということです。わかればあなたがたにもそういう野生生物と一緒に生きようという気持ちがあるということがわかるのですが、この黒いのが私です。涙の中に映る私の姿は非常にロマンチックではないですか。みなさんも大粒の涙を出して下さい。

 ウミガメは約60cmの穴を掘りますが、卵を産むと2ヵ月で殻から出てきます。そして穴を埋めながら出てきます。

 これが生まれて出てきたところです。9月になれば毎晩のように出てくるので浜松に来ればこういうシーンが見られます。

 もう親ガメと同じような穴を掘るためのスコップのような足をしています。これがやわらかくて鳥にも食べられるのですが、1匹10万円以上で取引されてしまうということです。

 小ガメは小屋の中で生まれるので、海に流してあげなければいけません。しかし、車が通ったり、持っていってしまう人がいるので、私達は放流会というものを公開してやっているのですが、実はもう一つ理由があります。私が子供の頃、蛍光灯や水銀灯ができ始めましたが、この中には紫外線が入っています。ウミガメは砂浜で生まれて西も東も海もわかりません。夜、何を頼りに海に向かうかというと、紫外線がなんとなく強いほうに向かうのです。人工的な紫外線がなければ海のほうの紫外線が強いので、カメは生まれるとなんとなく紫外線が強いほうに向かいます。そこが海なのです。海に入れば流れに乗ってそのまま回遊するのですが、実は今、遠州灘海岸は外灯で水銀灯がたくさん使われているので、生まれたカメは海に向かわずに全部陸に向かって行くのです。そのために卵をそのままにしておくと海に帰れないのです。ですから今沿岸の外灯などを全部紫外線の出ない照明に切り替えるまではウミガメの卵をそのまま放置できません。そうするとカメは陸に向かって干からびて死んでしまうということになってしまいます。そのためにこうして放流会をやっています。

 こうして海に帰っていきます。こういうカメにもメッセージがあり、手を振っていると前足で「馬塚さん、どうもありがとう。あなたの恩は一生忘れません」と言っているのです。それがみなさんには読み取れないのが残念です。ですからそれは海岸でウミガメを守るかどうかということで、それが読めるかどうかが決まります。

 ここが日本ですが、日本の周りに黒潮が回っています。これが日本の沿岸に近づいたときにカメはこちらから来て卵を産んでいくのですが、ここで小亀も黒潮に乗ってずっとアメリカの西海岸を通って赤道のところで生活をする。そして15〜20年経つとウミガメがまた卵を産みに戻ってくる。私は16年やったのでそろそろ子供たちが戻ってくるだろうと思っています。太平洋には何十万匹という私の子供がいるわけです。






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