犯罪捜査や裁判のあり方を大きく変える刑事司法改革法案が成立する運びとなった。

 どの角度から光をあてるかによって評価は割れる。ここは、多くの問題や懸念をはらみつつも、将来にむけて一歩を踏みだした改革と受けとめたい。

 内容は多岐にわたる。

 取り調べの全過程の録音録画を義務づける。ただし裁判員裁判で審理される事件などに限る▽他人の犯罪摘発に協力した見返りに、求刑などを軽くする司法取引を一部導入する▽通信傍受を認める対象犯罪を増やす▽検察官は手持ち証拠の一覧をつくり、弁護側に示す▽国費で弁護士をつけられる範囲を、すべての勾留事件に広げる――。

 法改正のきっかけは、検事が証拠品を改ざんした郵便不正事件や、強引な取り調べがうんだ数々の冤罪(えんざい)への反省だった。供述に過度に頼らなくても証拠を集められる手段として、司法取引などがメニューに入った。

 捜査当局が焼け太りした感は否めない。一方で録音録画の法制化や証拠開示ルールの整備など、人権保障の観点から一定の収穫があったのはたしかだ。

 郵便不正事件の被害者である村木厚子さんや日本弁護士連合会が、苦渋の決断で法案を支持した理由もそこにある。

 大切なのは、歩みをここで止めず、さらに進めることだ。

 例えば録音録画について、国会は、義務づけられていないケースでも極力実施するよう付帯決議で注文をつけた。国民の代表の声だ。当局は真摯(しんし)に受けとめ、実践する必要がある。

 たとえ新しい武器を手にしても、人びとの理解と信頼がなければ捜査は立ちゆかない。

 検察は郵便不正事件をうけ、「独善に陥ることなく、真に国民の利益にかなうものとなっているかを常に内省しつつ行動する」と宣言した。この原点に立ち返って、警察をチェックするとともに、みずから捜査・公判にのぞんでほしい。

 裁判所の役割も重い。

 録音録画が残されていない取り調べについては、供述の任意性や信用性をより厳しい目で審査することが求められる。司法取引によって万が一にも無実の人を巻きこんでいないか、通信傍受の要件を満たしているか、しっかり監視し、逸脱を許さないのも裁判官の使命だ。

 捜査側と弁護側が激しくぶつかり合い、改革が進まなかったのが刑事司法の長い歴史だ。

 今回、それが動いた。この火をともし続け、人権の保障と真相の解明という、難しい課題の両立にとり組まねばならない。