政府の成長戦略 かけ声ばかりでは困る
政府は新たな成長戦略の素案をまとめた。人工知能の活用などが柱で、安倍晋三首相が掲げる「名目国内総生産(GDP)600兆円」の達成につなげたい考えだ。
第2次安倍政権の発足後、成長戦略の策定はこれで4回目だ。しかし、かけ声ばかりが先行し、具体策は先送りが目立つ。
人工知能による自動運転車の開発など最先端の情報技術(IT)で経済を変革する動きは「第4次産業革命」と呼ばれる。成長戦略は30兆円規模の市場を創出するとした。
国際競争は激しく、日本は米国やドイツに大きく出遅れている。巻き返し策の一つとして成長戦略はIT関連の人材育成強化を打ち出した。小中学校でコンピューターのプログラミングを必修化することなどだ。
ITの革新を担う人材育成は10年単位の時間がかかるとされる。首相は「スピード勝負で取り組む」と語ったが、道筋は描けていない。
推進の司令塔として「官民会議」の設立も表明した。政府には似たような会議が乱立しており、各省の主導権争いに陥りかねない。スローガンだけが先走って、空回りに終わる恐れがある。
成長戦略は「攻めの農業」も掲げ、農機など生産資材のコスト削減をうたった。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の合意を踏まえ、農業の競争力を強化し、農産物の輸出拡大を図る狙いだが、具体策には踏み込まなかった。
割高とされる生産資材を販売してきたのは農協だ。参院選を控え、農協に配慮したためか、改革に切り込む姿勢はうかがえなかった。
ほかに世界最先端の健康立国▽省エネへの投資拡大▽東京五輪を見据えたスポーツの成長産業化−−なども盛り込んだ。だが、政策の寄せ集めであり、総花的印象は拭えない。
成長戦略は、金融政策、財政政策と並ぶアベノミクス「第三の矢」とされ、当初は注目度も高かった。金融緩和と財政出動は景気への即効性が見込めるが、効果は一時的だ。
しかし、政府は日銀の金融緩和に依存し、成長戦略に本腰を入れてこなかった。法人実効税率は引き下げてきたが、対日投資は依然低い水準だ。複雑な許認可手続きが外国企業の壁になっている。規制緩和が進まなければ、効果も見えてこない。
日銀が大規模緩和を進めても、日本経済の実力を示す潜在成長率は0%台と低い。底上げには、成長戦略を具体化させ、改革を地道に積み重ねていくことが欠かせない。
首相は、ここに来ても、手っ取り早い財政出動に積極的だ。このままでは、民間主導の持続的成長につながらない。