東京・品川―名古屋間で27年の開業を目指すJR東海のリニア中央新幹線計画の是非が、司法の場で争われることになった。沿線の住民ら738人が国の認可の取り消しを求め、先週末、東京地裁に提訴した。

 リニアは45年までに大阪へ延伸され、東海道新幹線に次ぐ大動脈になる予定だ。JRは3大都市を1時間強で結ぶ社会的意義を強調し、国や経済界、沿線都府県も後押ししてきた。

 ただ、リニアがもたらすのはメリットばかりではない。品川―名古屋間の86%をトンネルが占め、沿線では環境への影響を懸念する声が相次ぐ。

 裁判には、リニアの路線が通るだけの山間部の住民が多く加わった。

 リニアに意義があるとしても、沿線に不利益を甘受させてはならない。JR東海は住民の納得を得られる対話をしてきたか。改めて問い直すべきだ。

 沿線の住民側が問題視している点は多岐にわたる。

 工事で東京ドーム46個分、5680万立方メートルの残土が生じる。JRは主に公共事業で再利用してもらう方針だが、大半はまだ調整中だ。静岡県で明らかにされた残土置き場の候補地は南アルプスの山中にあり、生態系や景観に悪影響を及ぼしたり、土砂災害の原因になったりするのでは、との不安が強い。

 トンネルを掘る工事が地下水脈を変化させ、川の流量が減る恐れも指摘されている。

 これらはいずれも11~14年に実施された環境影響評価でも問題になった。JRは「適切な対策をとる」と繰り返してきたが、残土の再利用先といった肝心な回答は先送りし、計画の修正にもほとんど応じていない。

 リニア中央新幹線は整備新幹線と同じ法律に基づいて建設されるが、JR東海が経費を全額負担する民間事業だ。公費が投入されないため、国会でも計画の問題点がほとんど議論されないまま、国は認可した。

 型通りの手続きを踏んできたのに、懸念の声があがるのはなぜか。JRも国もそのことを重く受け止めるべきだ。

 着工が間近に迫ってきた地域でも、不安がいまだに大きい。全長25キロのトンネルの起点になる長野県大鹿村(おおしかむら)では、残土を運ぶダンプカーが1日1300台超も通る見込みで、村は着工前に道路を改良するよう求めている。同県南木曽町(なぎそまち)は環境保全に関する協定締結を要請したが、JRは難色を示している。

 沿線の願いは切実だ。十分な合意がないまま、工事を急ぐことがあってはならない。