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ゲームで人生を台無しにしたぼくら ~全米初のネットゲーム依存症更生施設を訪ねて~
大学をドロップアウトして、在宅勤務制度につけこんで、あるいは職場で同僚たちの目を盗んで、ネットゲームに没頭する若者たちがいる。そうしてゲームに費やす時間が長くなればなるほど、生身の人間と触れ合う機会は減り、依存症状が深刻になる。インターネット依存症患者を受け入れる全米初の療養施設を米版『GQ』が訪ね、若者たちから話を聞いた。
Photo: Jean-Yves Lemoigne、Words: Ben Dolnick、Translation: Ottogiro Machikane
オフィスの個室でゲームをやりつづけたテキサスの青年
最悪なのは、いつも朝だった-と、カラムはかつての自分をふり返る。オフィスのコンピューターでドルイドやデスナイトと徹夜で戦った果ての午前6時か7時、テキサス州サンアントニオのぎらつく陽射しを浴びる駐車場から、自宅まで5分ほどドライブする。対向車線でハンドルを握る通勤ドライバーたちの、満ち足りた睡眠後のすっきりとした顔、顔。
玄関ドアをあけると、警告のビープ音が鳴り響く。もし母親がそれに気づいても、ハウスキーパーが到着したのだと思ってもらえそうな時刻を選んでカラムは帰宅することにしていた。それから忍び足で階段を上り、自室に潜りこんで1時間か2時間だけ寝る。そして起きると、早朝に退勤したばかりのオフィスにまた戻っていく。疲労感と羞恥心でいっぱいのカラムにはおよそ慰みの手立てなどない。もしもひとつだけあるとするなら、それは、『ワールド・オブ・ウォークラフト』(以下、WoW)をもっとやること、それ以外にはなかった。
以前は、ここまでひどいわけじゃなかった。ハイスクール時代のカラムは、ありふれたゲームおたくの16歳でしかなかった。そして私立の名門サザン・メソジスト大学に入学する。しかし、ゲーム断ちをするという誓いも空しく、成績はどん底に落ちた。母親は堪忍袋の緒を切らし、カラムを家に連れ戻して、仕事に就かせたのだった。
大学を放校になったことをカラムは恥じ、友だちにもそのことは話さなかった。母親のボーイフレンドのクリスは天然資源を専門とする弁護士だったが、助手という名目で、恋人の息子をみずからの法律事務所に潜りこませることにした。そこでカラムは個室をあてがわれ、誰からも必要とされない代わりに解雇も難しいという絶妙な立場に置かれることになる。
毎朝、カラムは出勤して個室に入ると毎朝、20分ほどをかけて宣誓供述書を読むか、裁判所への使い走りをする。そして個室のドアを閉め、WoWに取りかかるのだ。いつでも手はキーボードの上にかざしていて、マネージャーのひとりが近くにやってくれば、ただちに他のプログラムに切り替えられるようにしていた。そのようにして、最後の同僚が午後7時に退勤するまで、カラムはプレイをしつづけた。