本当は「深い」映画「ちょんまげぷりん」

「ちょんまげ」と「プリン」だけの話ではありませんから!

映画「ちょんまげぷりん」

映画「ちょんまげぷりん」

荒木源の同名小説を関ジャニ∞&NEWSのメンバーとして活躍する錦戸亮主演で実写映画化。180年前の江戸時代から現代にやって来た侍と、周囲の人々との絆をコミカルにつづる。映画初出演の錦戸が、シングルマザーのひろ子の家に居候させてもらう代わりに家事全般を引き受け、やがてお菓子作りに目覚めていく侍・安兵衛を好演。

原作小説

2006年に小学館より『ふしぎの国の安兵衛』が発売。小学館文庫から文庫化した際に『ちょんまげぷりん』に改題された。挿絵は上條淳士。映画仮題も企画当初は『ふしぎの国の安兵衛』であった。安兵衛が江戸に帰って8年後に友也が逆に江戸時代にタイムスリップする、続編『ちょんまげぷりん2』も発売されている。

ふしぎの国の安兵衛

ちょんまげぷりん

ちょんまげぷりん2

映画

荒木源著作小説を原作とし、サムライと現代の人間が繰り広げるコミカルな笑いと絆をテーマとした心温まる人間ドラマ。監督は『ゴールデンスランバー』の中村義洋。主演の錦戸亮は映画初出演および初主演となる。2010年2月にクランクイン、約1ヶ月に渡り撮影された。劇中で作られたお菓子の江戸城は実際に作られたもので、試作品も含め4個も作られた。キャッチコピーは「人生はケーキほど甘くないでござる。」「180年の時を越えて届いた約束。お侍が気づかせてくれた、大切なこと。」。特製ストラップ付前売券の売れ行きは一時品切れになる程の好評で、追加販売もされた。公開前日の7月30日には東京・恵比寿ガーデンシネマでの舞台挨拶付公開前日プレミア上映も行われている。2010年7月31日よりモスバーガーとのコラボレーションで特製プリンが抽選でプレゼントされた。また、映画と連動してBetsucomiフラワーコミックスより白鳥希美作画のコミックスも発売されている。来場者特典として特製ぷりんうちわをプレゼント、リピーターキャンペーンとして2度目の観賞時には特製ポストカードがプレゼントされた。全国36スクリーンの小規模公開ながら、2010年7月31日,8月1日初日2日間で4,401万7,200円、観客動員3万4,056名となり映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第9位と大健闘しており、更に中村義洋監督自身の『アヒルと鴨のコインロッカー』の記録を上回るメイン館(恵比寿ガーデンシネマと梅田ガーデンシネマ)での初日2日間の観客動員数の邦画記録を樹立した。また、ぴあ初日満足度ランキング(ぴあ映画生活調べ)では第1位になるなど、10,20代の女性を中心に面白いのに感動できると大絶賛されている。

ニューヨークアジア映画祭2011(NYAFF)にて観客賞1位を獲得した。

伝えたいこととは

『ちょんまげぷりん』では、仕事が上手くいって、職場で評価されるにはどうすれば良いかが、判りやすく示される。シングルマザーのひろ子は、仕事と子育てで苦労が絶えない。子供のお迎えのためには17時に仕事を上がらなくてはならないのに、上司も部下も嫌味たらたらである。ところが、突然現れた安兵衛が、家事も育児も引き受けてくれたことで、ひろ子は仕事に集中でき、リーダーを任されるに至る。お迎えの時間を気にしなくて良いので、気持ちに余裕もできたし、トラブルがあれば何時まででもとことん付き合うひろ子に、部下の態度も一変する。一方、ケーキ作りの才能を認められた安兵衛も、家にほとんど帰れないほど仕事に打ち込むことで、主任に昇進するまでになる。

この映画を観ながら、InteropTokyo2009での夏野剛氏とひろゆき氏の対談を思い出した。その中で、ひろゆき氏の語ったことが印象深かったのである。対談が、夏野剛氏の出演したNHKの討論番組に及んだときである。テレビについて語るその番組で、夏野氏の意見は参加者の賛同を得られなかったらしい。そこで、ひろゆき氏が「夜の9時から家でテレビ見てる人って、どうなんでしょうね。」と云いだした。「9時からテレビを見るためには、だいたい7時前には会社を出なくちゃいけないでしょ。でも仕事できる人は9時ぐらいまではやってますよね。みなさん、どう思います?」ひろゆき氏はそう云って、客席を眺めた。いかにもベンチャー企業の経営陣らしい意見である。「モーレツ社員」という言葉は、表面上は死語と化しているが、実態はモーレツでないと仕事での成功はおぼつかないということか。近年は、日本の沈没に比べて韓国企業の躍進が目覚しいことから、韓国人の働き方に注目が集まっている。ここでも注目されるのはモーレツぶりだ。日立製作所出身で、サムスン電子の常務も務めた吉川良三氏は語る。

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サムスンでは目標を達成しないといけないので、感覚的に土日がない。そういう風土が本当にすごい。年俸制なので、休日出勤には手当てがつきませんがそれでも働く。

(略)

普通なら1日8時間労働で考えるのですが、サムスンには午前2時、3時まで働いてもへっちゃらな社員がたくさんいる。「どうしてここまでサムスンの人は働くのか」「土日の感覚があるのか」と本当に驚きました。

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日立製作所にも、午前2時、3時まで働く人や土日の感覚がない人はいるだろうに、それでも驚くと云うのだから、サムスンのモーレツぶりはたいしたものなのだろう。日本人がワーク・ライフ・バランスなどと云っているあいだに、韓国をはじめとした新興国に抜き去られるのかも知れない。しかし、そんな生き方でいいのだろうか、と一石を投じるのが、この作品である。ひろ子の息子・友也は、ひろ子にとっても安兵衛にとっても、かけがえのない存在のはずなのだが、ひろ子も安兵衛も仕事に打ち込んだら、友也はいったいどうなるのか。『ちょんまげぷりん』の原作者・荒木源氏は、長年にわたり主夫であった。小説家になるために朝日新聞の記者を辞したそうだ。「同僚のカミさんが記者を続けたいと言うので、稼ぐのは任せ、自分は家事で応分の負担を、と理詰めで考えた結果」という。公式サイトによれば、「ギター侍」に引っ掛けて、みずからを「主夫侍」と呼んだところから、この小説のアイデアが浮かんだとか。会社員の経験も、主夫の経験もある荒木源氏だからこその物語だろう。もっとも、そこには、奥様が朝日新聞記者という高給取りで、一家を支えられるという前提もあろうが。映画『ちょんまげぷりん』は、仕事と家庭にどう折り合いをつけるのか、明確な結論を出してはいない。こればかりは、個々人が見出していかなくてはならない問題である。ただ、経営者が「早く帰る人は仕事ができない」という考え方ではやるせない。

『ちょんまげぷりん』ともさかりえインタビュー 10代と20代と仕事と子育てと。

まず『ちょんまげぷりん』というタイトルが秀逸! ではその内容はというと「現代にタイムスリップし、ある母子の元で居候することになった侍が、ひょんなことからパティシエとして人気を博す」という物語。それで映画になるのか? と突っ込みたくなるかもしれないが侮るなかれ。とかく筋を通して生きづらい現代で筋を曲げようとしない侍・安兵衛に、仕事と子育て…そのどちらも投げることなく奮闘するシングルマザーのひろ子、そして“子はかすがい”とばかり2人を繋ぐ少年・友也によってタイトルに負けない温かく、優しい人間ドラマが展開する。ひろ子を演じるのは、ともさかりえ。彼女自身、友也と同じ5歳の息子を持つシングルマザーとあって、見る側はついつい、劇中のひろ子と“母親・ともさかりえ”を重ねてしまいそうだが…果たして? 作品について、仕事について話を聞いた。

「最初にタイトルと設定を聞いたときは『どんな映画になるんだろう…?』って思いましたよ」と正直な感想を漏らしてくれたともさかさん。ただ、それでもこの作品にはどこか人を惹きつける不思議な魅力があった。

「ありえない設定なんだけど…あると思わされてしまう妙な説得力があったり、不思議な本でしたね。でも、そもそもありえないでしょ! あそこの家のリビングに、やっさん(※安兵衛)が座ってるって(笑)。その違和感、変な感じを素直に表現していけばいいかな、と思いましたね」。

前作『いけちゃんとぼく』でも同じようにシングルマザーを演じているが、そのときの取材で、母親役を演じるということについて「そこは気をつけて、実生活とリンクしないように意識している」と語っていたのが印象的だった。普通であれば、嬉々として役の中に実体験を取り入れてしまいそうだが…。

「基本的に母親役に限らず、役と実生活をリンクさせたくないっていう意識は強くあります。でも、今回に関しては本当にドンピシャ過ぎて(笑)。正直、自覚がないところで、友也役の(鈴木)福ちゃんと過ごしている中で無意識に私の中の“何か”が滲み出ているだろうとは思います。やはり、実際に経験していなくては分からない気持ちっていっぱいありますから。そこを想像しながら作っていくのが私たちの仕事ではあるんですが…」。

そこにあるのは女優という仕事に対する誇りなのか、母親、そしてひとりの女性としての強さなのか…彼女の凛とした印象をよく表しているようで興味深い。

では、役から離れて、ひろ子というキャリアウーマン、母親に対する共感や理解は?

「やっぱり、子供を育てなきゃいけないし、かつ、自分の夢というか個人的に譲れない、譲りたくない仕事もある。それを周囲に理解してもらうのも至難のワザなんですよ! その狭間で、なんかどうしようもない感じで(笑)…でも信念だけは曲げない、という部分で彼女のこと分かるなぁっていうのはありましたね。ひろ子もやっさんもどこか素直になれないヤツら(笑)。そういう2人だからこそ引き寄せ合って、でも何でそうなっちゃうんだよ! って思うシーンが後半にすごく多かった。それでもひろ子に対して『分からない、理解できない』って思うような部分は一切なかったですね」。

実際に母親である人に対して失礼な言い方かもしれないが、“10代のヒロイン役”のともさかさんをスクリーンやTVを通して見てきた身としては、“母親役がこんなにしっくりとくる、ともさかりえ”に対して驚きを禁じえないのだが…。無礼を承知でそう言うと、少し笑って10代から20代、そして現在に至るまでの“道のり”をこんな風に語ってくれた。

「10代の頃のことに関しては、ほとんど記憶に残ってないというか(笑)、『何してたんだろう?』って。その頃の自分の映像見ても、他人事みたいな不思議な感覚なんですよ。多分、“仕事”と認識する以前から、いろんな幸運でこの仕事をやらせていただいて、『好き』でやってることが『仕事』になったという感じで。そういう意味で、自分の人生の中で、“演じるということ”が大きな役割を果たしている、という事実を受け入れるのに時間が掛かりましたね。その中で結婚したり、子供を産んだり、離婚も経験したり、子育てもあったんですが、どこかの時点で“生活すること”と“芝居をすること”がすごくバランスよく1本の流れになったんだなと思います。いまは、芝居をするということにすごく興味があり、トライしたい気持ちが強くて、そこから派生するものが子育てを支えてくれたり、私自身を潤わせてくれている。うまくいかなくなることもあるけど、うまくいかない中でも楽しさを見つけようとする回路も自分の中に生まれて…すごく楽しいです。そう思えるようになったのはいつからだろう…? 子供を産んで、ここ数年ですかね」。

今回、安兵衛を演じた錦戸亮とは「現場で話した記憶がない」と言いつつ「楽しかった」と笑みを浮かべる。ちなみにこのインタビューを通じて、彼女は安兵衛のことを「やっさん」と呼んでいたが、これは劇中での呼び方とも異なる(※劇中では一貫して「安兵衛さん」)、親しみを込めた呼び方。そんなところからも、彼女がこの作品を楽しみ、愛していることがうかがわれた。

ちょんまげ好きにも!