感動した記事を勝手にトリビュートします。
今回の記事はこちら。
そして更に今回は勝手にジャムセッションしてみます。
もう一つの記事はこちら。
勝手にJam session ヒトデ氏 & ジロギン氏
写真提供 https://www.facebook.com/takuya.tomiyoshi
「この子の名前はハート太郎で決まりだな。」
渓谷に銃声が響いた。与平は土の上に静かに身体を横たえ、幸せそうな顔で死んだ。
与平は16歳の時に両親を失った。
与平の父は炭やきをしており、この日も窯で作業をしていた。
与平の母が野菜を洗っていると、遠くで銃声が聞こえた。
「窯の方からだわ。」
心配になった母は父の元へ走った。
母の不安は的中した。
壊された窯の横に倒れている父。
それに駆け寄ろうとした母は背後から鈍器のような物で殴られ、意識を失った。
意識を失う過程で見た背後の男は大きい鼻、赤みがかった肌で、まるで鬼のように見えた。
この日、与平の村は村の外からきたひとりの男に襲われた。
突然猟銃を持って現れたその男に村にいた者はなすすべもなく殺された。男は金目の物を全て奪って逃げた。
一人で外で遊んでいた与平はその銃声に気がつき、木の上に身を隠していた。
ヒグラシの鳴き声の中、恐る恐る村に戻った与平が見たものはまぎれもない地獄であった。何十もの人が何重にも重なり死んでいた。赤く染まった広場、その中で一人の幼い女の子が泣いていた。与平の家の二軒隣に住む当時6歳の雪江であった。
与平は雪江を抱きかかえ、親戚の家がある隣の村まで歩いた。
ひたすら歩いた。
与平と雪江は隣の村の親戚の家の空いている部屋に住ませてもらった。かわりに二人はうんと働いた。与平は誰よりも山で芝を刈ってきたし、幼い雪江もまた、川まで衣服を運び洗濯をした。親戚の旦那さんは与平の父と同じ『炭やき』の仕事をしていた。旦那さんは二人に優しくしてくれたが、奥さんは二人を邪険にした。二人が若い頃はそれを不憫に思う者もいたが、たいていの者はそれを他人事のようにしか見ていなかった。
与平が26歳、雪江が16歳になった時親戚の旦那さんが亡くなった。この時、二人は自分の村に帰ることを決意する。旦那さんは与平に『炭やき』を教えてくれた。その仕事でなんとか生活できると考え、親戚の家を抜け出した。
それに気がついた者もいたが、親戚を含めて誰も止めようとはしなかった。
10年ぶりに自分の村に戻った与平と雪江、その静けさは頭の中の思い出の場所とは程遠いものであった。
与平はもともとあった父の窯を再生し、教えてもらったやり方で『炭』を作り、山を降りてこれを売った。二人はなんとか生活できるようになったが、雪江はいつも静かに首を振るだけで声を出すことはなかった。
与平はこれを不憫に思い町で仕入れた話を与平なりに面白くアレンジして雪江に話した。
『亀を助けたら海の中の巨大な建物に連れていかれた話』
『雪の日に地蔵に笠をのせてあげたら地蔵がお礼に来た話』
与平は来る日も来る日も様々な話を雪江にした。
話を仕入れる為に人と喋り、与平は過去の惨劇を忘れて、その明るさは全て雪江の為に注がれていた。
与平が46歳、雪江が36歳になったある日、与平が『竹の中から赤ん坊が出てくる話』をした時、雪江がわずかに笑い「そんなところに赤ん坊が入ってるわけないでしょう。」と言った。
二人は子供を欲しかったが、子宝に恵まれなかった。
そして同時に自分達の年齢ではもうそれが望めないという事をお互いが理解していた。
この日から与平は雪江に内緒で養子をもらう計画を考えていた。
町に行き炭を売る傍ら、身なし子などの情報を集めた。
町に行き炭を売る傍ら、身なし子などの情報を集めた。
ある日、炭を売りに町へ行った与平に不慮の事故で両親を亡くした赤ん坊がいるという情報が入った。
与平は明後日、雪江の誕生日にこの子を引き取りにくると約束した。
次の日の朝、目を覚ました与平が見たものは枕元に立つ男の姿であった。
男は静かにこう言った。
「今から24時間後にあなたの頭をこの銃で撃ち抜きます、痛みを感じないように眉間を1発で撃ち抜きます。外れることは絶対にありませんし、あなたが生き延びることも絶対にありません。」
男は与平がかつて見た鬼のような顔ではなく、仏のようにすら見えた。
そして同時に自分が24時間後に確実に死ぬということを悟った。
与平はまだ寝ている雪江を気遣い、男を外へ連れて行った。
与平「お前は誰だ。なぜ俺を殺すんだ。」
男「名前は横島 鉄郎と言います。理由はありません。」
与平「理由がないのに人を殺すなんて鬼みたいなやつだな。」
与平「理由がないのに人を殺すなんて鬼みたいなやつだな。」
男「そうかもしれません。」
与平「殺される前に、お前を殺したらどうなる。」
男「私が死ぬだけです。」
与平は男に質問しながら、その冷たい鉄のような感情に、この男は嘘を言っていないと思った。
与平「俺は明日の朝8時に死ぬんだな。」
男「はい、確実に。」
与平は、男に窯の後ろに隠れていろと言って家へ戻った。
家に戻ると雪江はもう起きていて、朝御飯の支度をしていた。
与平はそのご飯を食べながら、こう言った。
与平はそのご飯を食べながら、こう言った。
「今日でこの家を出て行くよ、今まですまんかった、幸せにしてやれなかったな。」
雪江は一瞬箸を止めたが、やがて与平の目を見ながら静かに頷いた。
「さよなら。」
家を出た与平は横島を連れ、街へ下りた。
そして少し早いが仕方がないと言いながら、赤ん坊をその手に抱き再び山を登った。
二人が来たのは家から少し離れた、小屋であった。
「赤ん坊抱っこしておけ。」
そして少し早いが仕方がないと言いながら、赤ん坊をその手に抱き再び山を登った。
二人が来たのは家から少し離れた、小屋であった。
「赤ん坊抱っこしておけ。」
横島にそう言い、与平は一心不乱に木を掘り始めた。
その集中力は凄まじく夜中になっても一度も手を休めることはなかった。
朝、小鳥の鳴き声の中、与平はそれを完成させた。
横島「それはなんですか。」
与平「見てわからんのか、ハートだ。外国では愛のマークだと聞いたんだ。」
横島「どうするのですか。」
与平「赤ん坊の揺りかごだ。」
横島「なんだか桃みたいですね。」
与平「馬鹿野郎、見る方向が逆だから桃に見えるんだ。ハートだハートマーク。お前、俺を殺したら、これに赤ん坊を入れて、雪‥‥‥いや、妻に渡してくれ。」
横島「なぜこんな意味のないことをするのですか。」
与平「あいつが少しでも笑うなら、俺はどんな下らないことでもやるんだよ。」
横島「わかりました、渡しておきます。」
与平「いや、待て、川に流せ。雪江は8時頃にこの川に洗濯に来るはずだから。川の上流から、大きなハートが流れてきた方が面白いだろう。」
横島はそれほど面白くないと思ったが、死ぬ人間の最後のお願いだと思ってそれを約束した。
「俺が死んだこと、絶対雪江に言うんじゃねぇぞ。お、もうそろそろ来る頃だ、よしハートに赤ん坊を乗せろ。」
二人はハートの形をした木彫りのモノに赤ん坊をそっと置いた。
そして、時間が来た。
「お前、子供はいるのか。」
横島は今はまだお腹の中にいると答えた。
「ヨコシマなんて、縁起でもない苗字なんだから、子供の名前ぐらいちゃんと考えろよ。そうだな、正なんてどうだ、正義の正だぞ。まあお前は正義じゃないけどな。」
横島は考えておきますと答えた。
「この子の名前はハート太郎で決まりだな。」
あまりにもユーモアに欠けるその愚直なネーミングに、雪江は笑わないのではなく、与平があまりにも面白くないから笑えないのではないだろうか。と考えながら横島は引き金を引いた。
ドンッッ。
渓谷に銃声が響いた。
川で洗濯をしていた雪江はその方向を見た。
すると川の上の方から何かが流れてくる。
どんぶらこどんぶらこと流れてくる。
雪江はそれを見て少し笑ってこう言った。
雪江はそれを見て少し笑ってこう言った。
「まあ、何て大きな桃。」