「定年後の老い支度」「終活という死に支度」を考えたことはあるだろうか? そんなテーマに向き合った1冊の本が話題になっている。書いたのはスイスから日本に移住して30年になる芥川賞候補作家デビット・ゾペティ。テレビ局はじめ日本で仕事をしてきたゾペティ氏に、「日本人と終活と老後」について聞いた。(聞き手:編集部)
半年かけて「終活」を取材
――ゾペティさんの『旅立ちの季節』では、あるきっかけで「終活」を始めた64歳の男性・楠木が、エンディングノートを書いたり、勉強会や模擬葬に参加したりする様子が描かれています。ゾペティさんが終活を小説のモチーフにしたのはどうしてですか?
「終活」という言葉が話題になったのは2009年頃だったと思いますが、そのころから、不思議な習慣が日本にはあるなあと興味を持っていたんです。テレビで終活関連の番組があれば観ていたし、雑誌や新聞の記事も読んでいました。
以前から僕は、「人生の最終章、仕事を退いてからの人生をどう生きるか」ということをテーマに小説を書こうと思っていたんです。実際に書こうとしたとき、終活ってそれにふさわしい題材じゃないかと、本格的に半年かけて取材をしました。
――どんな人を取材したのですか?
たとえば、公証役場の公証人、終活カウンセラー、葬送ディレクター、海洋散骨を扱っているクルーズ会社、特別養護老人ホームのスタッフ、「認知症とセックス」に詳しい専門家、サービス付き高齢者向け住宅のスタッフ、高齢者向けの生き甲斐探しの集いを主宰されている方などです。
小説には「安心いきいきの会」という団体を登場させていますが、そのモデルにしたのは、従来の葬送のありかたに疑問をもった人たちが立ち上げたNPO団体で、何度も取材させてもらいました。都内で毎月開かれていた、別の団体の終活セミナーにも通ったりしました。
参加者のいきいきした様子にびっくりした
――その一連の取材を通してどんなことを感じましたか。
まずびっくりしたのは、終活の会やイベントに参加している皆さんが、いきいきしていて、楽しんでいたことです。なかには終活に燃えている人もいるように見えたんですね。
たとえば、陶芸教室で毎年自分の骨壺を作り直したり、一緒に墓に入る墓友をつくって、生前からおつきあいしたり。一緒に食事したり、カラオケしたり、遠足に行ったりするんですね。
模擬葬も取材したのですが、あまりの盛り上がりに「でもあなたの葬儀のときあなたはいないのでは?」って思ってしまったり、着物を死に装束にリメイクしたりするのを見ると、そこまでしなくてもって思ったりしてしまいました。入棺体験というのがあると聞いてびっくりしました。意味不明。そんなことして何になるのって。
取材していて、終活はやり始めるといろいろすることがあるし、仲間もできて楽しくなるのはわかるけど、それ自体に打ち込んでしまうのは、少し違和感というか、違うんじゃないかなとも思いました。
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