失踪癖の父を撮り続け 京都出身の写真家が出版
京都府長岡京市出身の男性写真家が、仕事を投げ出し、失踪を繰り返す父を撮り続けた写真集をこのほど出版した。仕事ができないわけではなく、会社にも必要とされているのに、失踪してしまう理由を自分でもよく理解していない父の姿を通して、「人間の分からない心」を見つめた。男性は「人の心の奥深さを、面白く見てもらいたい」と話す。
金川晋吾さん(35)=東京都板橋区。2008年から東京芸術大大学院で写真などの先端芸術表現を学び、昨年3月に博士課程を修了した。父の優さん(63)は、機械設計などに携わったが、晋吾さんが中学生の頃から失踪を繰り返し、それが原因で数年後に離婚して以降は京都府大山崎町で一人暮らしをしている。
写真集の題名は「father」。帰省した08年11月、何の気なしに撮影した自宅のリビングでタバコを吸う姿から始まっている。座布団に顔をうずめて寝る姿や散歩中の無表情を撮影した当時、優さんは建物管理の仕事を2カ月無断欠勤中だった。会社から復帰を望まれても行かず、結局、自己都合退職となった。
09年夏に2週間ほど失踪した際には、「やっぱり生きていくのが面倒くさい」の書き置きやウイスキーの空き瓶が散乱する、主のいない部屋を撮影。その時の晋吾さんの日記には、優さんが住宅ローンを滞納したうえ消費者金融から借金を重ねたことや、弁護士と相談して自己破産を申請したこと、失踪中の優さんを晋吾さんが探し回ったエピソードなどが書かれている。
撮影を通じ、晋吾さんは仕事への意欲を持てず、失踪を繰り返す父を「勉強して取った資格なのに、なぜやろうとしないのか本人も分からないのだろう」と、柔らかく受け止められるようになった。一方、優さんもいやな顔を一つせず、ポーズをとってくれる。写真集出版にも反対はしなかった。破天荒なようで寛容な一面も持ち合わせる父を、晋吾さんはこれからも撮り続ける。青幻舎刊、2916円。
【 2016年05月21日 19時27分 】