文/岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・九州大学アジア太平洋未来センター教授)
「北方領土問題」への幻想
三島返還や面積折半の議論を巻き起こした『北方領土問題―4でも0でも、2でもなく』(中公新書)を刊行しておよそ10年。北方領土問題はいまだに解決する兆しはなく、時間だけが過ぎている。元島民の平均年齢はすでに80歳を越え、一世が生きている間の島の返還はほぼ絶望的である。
ロシアの姿勢は頑なになる一方で、担当者たちも今は交渉できるような情勢ではないと言い、先の機会を待とうという気持ちに多くが傾いている。そして私もこの10年、日本の首脳がロシアとやりとりをするたびに進捗状況を繰り返し尋ねられてきた。私の答えはいつも同じである。
「日本が四島返還の主張をおろさないかぎり、解決はしない。日露関係が動くとすれば、領土問題以外の部分であろう(そのことが領土問題の解決につながるかどうかは未知数)」
安倍首相がプーチン大統領と会いたがっている、と言われている。クリミア問題、そして昨今はシリア問題で頑な立場をとる米国の制止を振り切ってでも、ロシアとつきあいたいそうだ。
一体、何をしたいのだろう。ロシアの通信社からも。「ロシア国内では強硬姿勢が強まっている。成果などあるはずもない。一体何をしに安倍首相は来るのか? なにか秘密のディールでもできているのか」と質問された。
私には、即座にそんなものがあるとは思えない。安倍首相は外交懸案を自分が責任をもって解決するとよく見得を切るが、北朝鮮の拉致問題をみても、なにも進んでいない。北方領土問題も個人的になんとかしたいのだとは思うが、これも気合だけの掛け声で終わるのではないだろうか。
だが先日、とあるワシントンのシンクタンクで知り合いと話をしていて驚いた。
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