数あるホラー映画の中でも、ゾンビ映画は特殊造形が必要なジャンルにも関わらず、製作費のスパンが幅広い。たった45ポンド(約7,000円)で作られたものもあれば、数千万ドル(数十億円)も使ったハリウッド大作まで様々だ。しかし一般的には低予算のB級映画という印象を持つ人が多いのではないか。そもそもゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロのゾンビがまさに低予算で作り出され、その後のイメージを決定付けたのである。そんなゾンビ映画を好むのは、一風変わった限られた特殊な人たちという状況が長く続いた。一般的な映画ファンではなく、単なるホラー映画ファンとも違う、モンスターファンとも違う、ゾンビ映画ファンとしか言えない人たちが支える小さなマーケットだったと言っていい。しかし2000年代に入り、ハリウッドがより広いオーディエンスに向けてゾンビ作品を発信し始めた。殊に13年の映画『ワールド・ウォーZ』と10年に放送が開始されたTVドラマ『ウォーキング・デッド』はゾンビをメジャーマーケットに開放した代表的2タイトルと言えるだろう。ここで描かれるゾンビは莫大な予算をかけ、VFXを駆使したハイクオリティな“生ける屍”である。上質なドラマ性と相まって、彼らA級ゾンビたちは増殖を続け、一般客をも虜にしたのだ。
一方で日本のゾンビは相変わらず記号的なキャラクターとして作られ続けてきた。近年は人気アイドルやお笑いタレントを起用した作品が登場、歌舞伎にまで取り上げられ客層の幅を広げてはいるが、最大のセールスポイントはキャストやジャンルの組み合わせの面白さであり、ゾンビそのものの表現はあまり進化してこなかった。火葬文化を持つ現代日本人は元来、土葬文化から生まれたゾンビに対して心理的隔たりがある上に、従来の特殊ジャンルというイメージが払拭できず、製作側もハリウッドのようなビッグバジェットを投下できなったことが一因なのだろう。そんな日本の現状を打ち破るがごとく登場したのが本作『アイアムアヒーロー』である。謎のウィルス感染によって増殖した生命体「ZQN(ゾキュン)」は、花沢健吾氏の原作漫画通り、リアルで、生々しく、思わず目をそむけたくなるほど写実的だ。彼らが作中で「ゾンビ」と呼ばれることはないが、日本社会に実際に出現して我々を追いかけて来るような、土葬文化圏の人々にとっての「ゾンビ」と等しい確固たる存在感を放っている。ついに日本でも一般層をも巻き込み新たな”生ける屍”たちが増殖を始めたのだ!! この新生ゾンビとも言えるZQNたちは一体どうやって生み出されたのか。CG制作を監修した土井淳氏と、コンポジット、キャラクター、アニメーションを手掛けたスタッフ5名がVFX側から制作の舞台裏を語り尽くす。
(インタビュアー:ザッカメッカ 山下香欧 / テキスト:森川美幸)