シャーロット・ランプリング主演作!
ジェフとケイトの夫婦は、結婚45年。子供には恵まれなかったが、犬を飼いながらささやかな日常を送っていた。だが、ジェフの元に届いた一通の手紙に、二人は心をかき乱されることになる。ジェフのかつての恋人カチャが、転落死した山で、氷漬けの遺体となって発見されたというのだ。身元を確認するためにジェフに依頼が来たのだが……。
45年連れ添い、記念パーティを控えた老夫婦。が、映画が始まって早々に届いた夫宛の手紙が思わぬ波紋を呼ぶ……。気もそぞろになってしまったおじいちゃんの頭の中は、「昔の女」のことでいっぱいだ……!
50年以上前、彼が婚約していた女「カチャ」が、転落死したはずの山で凍結した姿で発見される。当然、若い頃そのままの姿を保って……。
「えーっと、昔、君に話したよね? 話したと思うんだけどなあ」という夫、微妙に白々しい感じ。「いや、知らないけど……」というランプリングさんに、しゃべりたくない、けどしゃべらずにはいられないという風に「私のカチャ」について話し始める……。
別に浮気をしたわけではないし、知り合う前の話なんだからいいじゃないか、と本人は思うわけだが、事はそんな単純ではない。
今回のランプリングさん、よくある計算高いクールなキャラではなく、非常に素朴なところもある役。その反面、元教師なので少々堅物感も漂う。ぼんやりキャラの夫を支えるしっかり者的セルフイメージで、彼の事はなんでも知っている……と思っていたら飛び出してきた思いもよらぬ過去……! 自分の築いてきた45年がガラガラと崩壊していく……! 夫と知り合ったのが19歳の頃で、結婚は25歳ぐらい、9つ歳下。うーむ、幼妻か……?
死亡時のカチャさんは27歳で彼よりも二つほど歳上であり、また後に明かされるもう一つの秘密がランプリングさんのコンプレックスを強烈に刺激する。死人であり、若いままの姿であり、夫の心に45年間潜んでいた女……。
話が進むにつれて、夫は昔の写真やらスライドフィルムやらを、滅多に開けない屋根裏に後生大事に隠していたことが判明。訃報が来てからは夜中にこそこそ起き出して思い出に浸り始める。
ランプリングさんのジト目が嫌な光彩を帯びてくる中、「いや……ちょっとね……」などと気もそぞろにはぐらかそうとする夫。だめだ! 事態はどんどん悪化しているぞ!
正直言って気持ち的には、思い出に浸りたい、過去を清算したい、より若かった頃に妻よりも愛した女との……という気持ちはわからないでもない。そういう感情が湧いてくることはしようがない。が、まったく妻へのフォローもなく取り繕おうともせず感情剥き出しすぎで、その癖、もう気にしてないよと嘘ついて陰でこそこそしすぎでアウト。
本人的には、いやいや、実際会いに行ったわけじゃないし、いいじゃんか!というところなのだろうが、妻はそれでも許せないのである。街に散歩に行くよと言って出かけ、JTB(違)の窓口で現地行きプランを訪ねていたのがあっさりと見透かされているあたり、実に痛い。
79歳と70歳なのに熟年の仲直りセックスというシーンもあり、さすがは『彼が二度愛したS』でもユアン君に手ほどきしたランプリング様だ! が、ピロートークでまた正直に大失言してしまう夫。もう救いようがないな……。
息をするようにやらかし続ける夫だが、しかしこれらが全てお話の推進力になっていて、どこかでやめていればその瞬間に映画も終わってしまう。そう考えるとやることなすこと予定調和的でもあり、もう最初からそういう男、そういうキャラだったのだと言うしかない。
45周年パーティ直前という時期、氷の下に閉じ込められていて若い頃のままの姿など、あらゆる設定が絶妙で、例えば生きてた昔の女が現れてもここまでこじれないだろう。二人とももう20歳ぐらい若ければ、真正面から大げんかできたかもしれないが、妻の自意識とプライドはそれを許さない。察しろよ、理解しろよ……! 残念ながら男はいくつになっても馬鹿なので、薄々感じることはあっても、その重大さがわからない。結局行くのは諦めました、割り切りました、やっぱり妻が大事、言われた通り45周年パーティに出て、彼女に向けたスピーチをしますよ。それでいいじゃん、なんか文句ある?
残念ながら大ありなんだよな……。いやはや、このことがなければ、なかなか感動的ないいスピーチだったと思うんだが、もやもやマックスのランプリングさんはお怒りも頂点に! ああ、悲しきは鈍感力。こないだまでのウジウジをなかったことにして妻にバトンを投げる夫。何も言わず何も振り返らずに忘れたふりをして、妻にもなかったことにしてもらいたい……ずるいんである。妻は自らも鈍感なふりをして手打ちし結婚を継続するか、自らの感情に正直になるのか、の選択を突きつけられる。映画は終わりましたが、ご夫婦の皆様の心には何が残りましたか?
何をしたかされたか行動で物事を判断する男と、実際どうしたかよりも何を思い何を考えてたかを重視する女の違いは、『ラブストーリーズ』二連作でも表現されていたが、年齢を重ねてなあなあの部分が増えるとよりこじれ具合が増してしまう。
じゃあ夫側はどうすれば良かったんだ、と言われると、もうあの手紙が届いた瞬間、一読したら即、破り捨ててさっさと忘れるしかない。ただ、それが出来れば苦労しないし、過去という奴はバラバラにしてやっても石の下からミミズのように這い出てくるものである。
間もなく『若葉の頃』という、結婚し中年になったリッチー・レンが初恋の少女を思う映画が公開され、きっと大変切ないお話なんじゃあないかと思い楽しみにしているのだが、残念ながらこの男もランプリングさんのジト目からは逃れられないのだ……。
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