子どもも大人もプログラミング 人気のワケ

加藤陽平
「プログラミングを学ぶことは、あなたの将来だけでなく、アメリカの将来にとって重要です。新しいビデオゲームを買うだけでなく、作ってみよう。最新のアプリをダウンロードするだけでなく、設計してみよう」。
2013年、アメリカのオバマ大統領はコンピューターを動かすための技術「プログラミング」の重要性をこう訴えました。ITがあらゆるビジネスで欠かせないものとなり、プログラミングができる人材が世界中で求められています。さらに、プログラミング教育が遅れているとされる日本でも、学校での必修化の動きが進んでいます。(経済部 加藤陽平)

プログラミングが人気の習い事に

ふだん当たり前のように使っているスマートフォンやパソコン。写真や動画を見たり、メッセージを送ったりと生活に欠かせないものになっていますが、そうしたコンピューターの動作や処理をするための技術が「プログラミング」です。

そして、このプログラミングに必要なのが「プログラミング言語」。英語や記号を組み合わせたもので、専用の入力方法を使ってコンピューターの動きを一つ一つ決めていきます。こうした動作の種類や用途、さらにパソコン向けかスマートフォン向けかといった環境の違いなどに応じて、多くのプログラミング言語が存在します。

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このプログラミングを学ぼうという子どもを対象とした教室が今、人気を集めています。全国9か所に教室を持ち、小学生を対象にプログラミングを教える「CAテックキッズ」を取材しました。ことし1月から4月までの間、教室に通った生徒の数は約750人。去年の同じ時期と比べると3倍以上に増えています。

プログラミングは、今や人気の習い事なのです。この教室では複数のコースがあります。プログラミングの入門編として、絵を組み合わせることで簡単に入力できる専用のプログラム言語を使うコースも用意しています。

高学年ともなると、ウェブサービスを作る際に一般に使われるプログラミング言語を学んでいて、講師に質問しながら着々とプログラムを完成させていました。うまくいかなくても積極的に質問して、試行錯誤を繰り返す様子が印象的で、小学5年生の男の子は「完成して実際にプログラムが動くととてもうれしい」と話していました。

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プログラミング教育熱は学校教育でも

こうした“プログラミング教育熱”が広がる背景には、プログラミングを身につけることで将来の仕事につながるのではないかという期待が高まるなか、学校での必修化の流れが具体化したことがあります。

文部科学省によりますと、すでに2012年度に中学校の技術・家庭の教科のなかで「情報処理の手順を考え、簡単なプログラムが作成できること」として、プログラミングが必修となっています。さらにことし4月、政府の「産業競争力会議」は、2020年度に小学校でもプログラミングの必修化を検討する方針を示しました。

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教育現場での関心の高まりを受けて、5月18日に開かれた教育関係者向けの教材の展示会でも、プログラミング教育などを特集したコーナーが初めて設けられました。

特に目立ったのは、ロボットを動かすプログラミングを行える教材です。単にコンピューター上のソフトを作るのではなく、自分が作ったプログラミングで実際にロボットが動く様子を見ることで、子どもたちに興味を持ってもらおうというねらいです。

例えば、おもちゃのブロックを販売する企業は、自社のブロックにモーターやセンサーを組み合わせたロボットの教材を展示。タブレット端末上で、動く方向や、速さ、時間を制御するボタンを組み合わせて指示することで、実際にロボットを動かすことができます。

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会場を訪れた高校の教員は、「子どもたちの創造性を伸ばしたり、将来の仕事につなげるために、プログラミングを学校で教えることは必要だ」と話していました。一方で、「最新の技術に疎い教員は多く、子どもに教えられるのか不安だ」という声も聞かれ、専門性の高い分野だけに教える側に対する教育、支援も必要だと感じました。

非IT系の社会人からも熱視線

こうしたプログラミングを身につけようという動きは、社会人の間でも増えています。プログラミングを教えている「コードキャンプ」では、社会人を中心に受講者が増えています。

受講者は延べ9000人余り(オンライン受講も含む)。去年の同じ時期と比べると3倍以上になっていて、急速な増加です。平日の夜に、教室の様子を取材しました。10人ほどの受講生がそれぞれノートパソコンを持ち込み、講師の指導を受けながらプログラムの作成を進めていました。

一連のカリキュラムの最後にはオリジナルのプログラムを作るのが目標です。
教室を始めた2013年には、受講生のほとんどがエンジニアで、専門技術を高めるために通う人が中心だったということです。しかし、今では営業職などエンジニア以外の職種が増加。例えば印刷会社や物流会社など、IT企業以外に勤める人も受講しているといいます。

出版社に勤める女性は、「今後、ウェブ上のサービスを立ち上げるためには必要な技術だと思い受講した。個人としてもスキルアップにつながると思う」と話していました。教室を運営する企業の池田洋宣社長は、「ITエンジニアでなくてもビジネスのIT化が進むなかでプロジェクトをよりよく回すためには、プログラミングへの理解は重要で、社会人にとっての付加価値になってきている」と話していました。

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重要なのは“プログラミング思考”

注目度が増すプログラミングですが、みんながみんなプログラミングができるようにならなくてはいけないのでしょうか。取材するなかで出会った、複数のITエンジニアたちに話を聞いてみました。

まず、優秀なプログラマーとは無数に存在するプログラミング言語を必要に応じて使いこなせることが重要。ただし、それ以上にビジネス上の課題の解決や目標の達成のために、どんな道筋でプログラムを作成する必要があるか、突き詰めるとビジネス自体の進め方をしっかり計画できる人材だといいます。

さらに、「プログラミングは決してプログラマーとして仕事をするために学ぶのではない」という意見もありました。ITの世界に限らず、問題に直面したときには、“プログラミング思考”が有効だといいます。問題を乗り越えるためには、まさにプログラミングのように全体を要素ごとに整理し、一つ一つ順序立てて解決していくという作業が役立つというのです。

より大きなビジネスの成功のために、もっと高い給与を得るために、あるいは人より抜きん出るために重要な技能だとして、ニーズが高まってきたプログラミング。しかし、ITが当たり前になった今、プログラミング自体ができずとも、基本の考え方を知ることは誰にとっても役立つことだと感じました。

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