世界文化遺産への登録が固まった「ル・コルビュジエの建築作品」は七カ国の十七施設からなり、まさに人類共通の財産にふさわしい。それが身近な国立西洋美術館で体感できることは何よりだ。
祖父の名前からつけたというペンネーム「ル・コルビュジエ」。近代建築の巨匠は、日本でも人気が高いが、その名を冠した機能的なソファや長椅子を思い浮かべる人も多いだろう。
確かに、建築や都市計画のみならず家具や彫刻、絵画の制作にも取り組み、一般の住宅からニューヨークの国連本部ビル(原案)まで幅広い作品を残した。
今回の世界遺産にあたっては、コルビュジエが国籍を有したフランスとスイス、それに彼の作品が残る日本やアルゼンチンなど計七カ国が共同で申請した。登録されれば欧州からアジア、南米まで大陸をまたぐ初めての世界遺産になる。
「近代建築運動への顕著な貢献」−それが申請理由である。その五原則は(1)ピロティ(2)屋上庭園(3)自由な平面(4)水平連続窓(5)自由な正面。コンクリートを用いた直線的な建物は機能的で合理的でもある。国立西洋美術館は、まさにこの原則を体現したといえる。
一方で、異彩を放つのがフランス東部にあるロンシャンの礼拝堂だ=写真、下田泰也氏撮影・文化庁提供。丘の上に立つ建物は、遠くから眺めると地面から生え出たキノコのような外観。中世の巡礼地の礼拝堂がナチスによって破壊され、神父の要請で設計したが、奇抜な外観だとして地元民が「ノン」を突きつけた、との逸話も残っている。
後期の作品であり、五原則とは対照的にうねった曲線が特徴だ。最初のポストモダン建築との評価もある。
今回の世界遺産登録により、東京・上野公園一帯は「日本のルーブル」に一気に近づこう。東京国立博物館や東京都美術館、芸大美術館、東京文化会館、上野の森美術館などが立ち並ぶ一大文化ゾーンは、パリのルーブル美術館やオランジュリー美術館、チュイルリー公園一帯にも劣らぬ潜在的魅力がある。
美術評論家の間で長らく語られてきた「上野ルーブル構想」である。七月の登録が待ち遠しい。
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