アルコール依存症は、本人の健康に重大な悪影響があるばかりではなく、家庭崩壊や社会にも悪影響を及ぼします。依存症であることを本人が自覚していないケースも非常に多い。
専門機関で治療を受ければ回復が望める「病気」です。飲酒の習慣がある人や、家族がアルコールに依存する傾向にある場合、以下にご紹介する簡単なスクリーニングテストで、依存症の疑いがないか判断の目安にし、不安が有れば早めに専門機関で相談することをおすすめします。
アルコール依存症による健康への影響
アルコールは60以上の病気やケガの原因になると、WHO(世界保健機関)は報告しています。なかでも、肝臓はアルコールを分解する臓器なので、肝機能障害が起こりやすい。
【引き起こされる主な病気】
- 脂肪肝(初期段階)⇒飲み続けると肝硬変(肝臓が硬くなる)
- 高血圧
- 膵炎(すいえん)⇒長引くと慢性膵炎、糖尿病
- 食道がんなどのがん
- 不整脈、心不全などの心臓病
さらに、アルコールが脳の神経細胞などを壊すために脳が萎縮し、記憶障害をはじめとする、脳の機能障害が生じる場合もあります。
アルコール依存症チェック
アルコールが様々な健康への影響をおよぼすことを知ると、ゾッとしますね。飲酒の習慣がある人、家族がアルコールに依存する傾向がある場合は、簡単な質問に応えることで、アルコール依存症の疑いがあるかどうかがわかる、スクリーニングテストを行ってみましょう。不安がある場合は、早めに医療機関で相談することが重要です。
スクリーニングテスト
【男性版】
最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか?
□はい □いいえ |
食事は1曰3回、ほぼ規則的にとっている |
□はい □いいえ |
糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある |
□はい □いいえ |
酒を飲まないと寝付けないことが多い |
□はい □いいえ |
二曰酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある |
□はい □いいえ |
酒をやめる必要性を感じたことがある |
□はい □いいえ |
酒を飲まなければいい人だとよく言われる |
□はい □いいえ |
家族に隠すようにして酒を飲むことがある |
□ はい □ いいえ |
酒がきれたときに、汗が出たり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦しいことがある |
□はい □いいえ |
朝酒や昼酒の経験が何度かある |
□はい □いいえ |
飲まないほうがよい生活を送れそうだと思う |
合計点が 4 点以上: アルコール依存症の疑い群 合計点が 1 ~ 3 点: 要注意群(質問項目 1 番による 1 点のみの場合は正常群。) 合計点が 0 点: 正常群 |
女性版
最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか?
□はい □いいえ |
酒を飲まないと寝付けないことが多い |
□はい □いいえ |
医師からアルコールを控えるようにと言われたことがある |
□はい □いいえ |
せめて今日だけは酒を飲むまいと思っていても、つい飲んでしまうことが多い |
□はい □いいえ |
酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある |
□はい □いいえ |
飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある |
□はい □いいえ |
私のしていた仕事をまわりの人がするようになった |
□はい □いいえ |
酒を飲まなければいい人だとよく言われる |
□はい □いいえ |
自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある |
合計点が 3 点以上: アルコール依存症の疑い群 合計点が 1 ~ 2 点: 要注意群(質問項目 6 番による 1 点のみの場合は正常群。) 合計点が 0 点: 正常群 |
※男性と女性では、アルコール依存症の現れ方に違いがあるので、質問の内容に違いがあります。
このスクリーニングテストは、久里浜医療センターのHPでダウンロード、またはWEBチェックが出来ます。
※久里浜医療センター 久里浜式アルコール症スクリーニングテスト
アルコール依存症の症状
主な症状として
- 飲む時間
- 飲む状況
- 飲む量
の3つをコントロールできなくなることが上げられています。
- 長時間飲み続ける
- 仕事中でも飲む
- 大量に飲む
などの飲みかたをするようになります。主婦が台所で料理をしながら飲む、キッチンドりンカーもそうです。その結果、
- 連続飲酒(絶え間なく飲み続ける)
- 離脱症状(飲酒をやめると起こる不快な身体症状)
が起こるようになり、この2つの症状は、多くのアルコール依存症の患者さんに見られます。
連続飲酒
- 朝から迎え酒
- 大事な用事の前に飲む
- 飲んでは寝るを繰り返す
- 酒を小分けにして持ち歩く
- 仕事の合間などに飲む
これらは連続飲酒の兆候で、酒臭いと感じます。
飲酒をコントロール出来ない状態が続くと、体内に常にアルコールがある状態となります。その結果、その状態を維持するために、数時間おきに少しずつ飲酒し続ける、連続飲酒と言う状態に陥ります。通常は3日以上続きますが、体力の限界に達するまで、数ヶ月間続く場合もあります。
離脱症状
中枢神経がアルコールに依存しており、血中アルコールの濃度が0になる前から症状が現れます。
主な離脱症状
軽~中等症 | 自律神経症状 | 手のふるえ、発汗(とくに寝汗)、高血圧、嘔吐、嘔吐、下痢、体温上昇、さむけ |
---|---|---|
精神症状 | 睡眠障害(入眠障害、中途覚醒、悪夢)、不安感、うつ状態、イライラ感、落ち着かない | |
重症 | 痙攣発作(強直間代発作)、一過性の幻聴、振戦せん妄(意識障害と幻覚) |
出典: 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
- 手や指が震える
- 異常に汗をかく(特に寝汗)
- はげしい吐き気、嘔吐
- 下痢
- 睡眠障害(酒を飲まないと眠れない、飲んでも眠れない)
などがみられ、重症化すると
- 幻覚症状(小さな虫や小動物が見える)
- 意識障害(意識の混濁など)
- てんかんの発作
を起こすこともあります。
【離脱症状が起こるメカニズム】
飲む量や頻度が増えていくと、体内に常にアルコールがあり、中枢神経や脳の神経細胞もアルコールに触れている状態になります。脳の神経細胞は、アルコールが存在する状況に順応して変化し、「神経順応」という状態になります。
アルコールがある状態を正常、ない状態を異常と判断するようになり、アルコールが体から抜けた時に起こるのが、離脱症状です。以前は禁断症状と呼ばれていました。
アルコール依存症の悪影響
アルコール依存症は、本人の健康を害するだけでなく、家族や周囲の人も巻き込み、さらには社会にまで広く影響を及ぼします。暴言や暴力を振るうこともある。
家族への影響
家庭内暴力や虐待で家族が崩壊することもあります。事件、事故、飲酒運転などを起こした場合も、家族などに影響は及びます。自分の置かれた状況や、健康問題を苦にした自殺も少なくありません。一家の収入が途切れ、生活に困窮するケースもあります。
社会への影響
飲酒運転で検挙された人の約6割が、アルコール依存症の疑い有り、とする統計も有ります。飲酒運転とアルコール依存症は、非常に密接に関係しているのです。
また、経済的な損失にも繋がります。医療費がかかったり、労働力を失う、生産性が低下する、さらに事故や事件による損失もあります。これらの社会的損失は、2008年の厚生労働科学研究報告書のデータでは、年間約4兆1483億円と推計されています。
アルコール依存症の患者数と傾向
2003年に行われた全国成人に対する実態調査では、
- アルコール依存症の疑いのある人440万
- 治療の必要なアルコール依存症の患者80万人
いると推計されています。
アルコール依存症と言うと、従来は中年男性の病気というイメージでしたが、女性や高齢者の患者も増え、全体の半数近くになっています。
参考元: 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
女性や高齢者が増えた理由
女性の社会進出および高齢化社会、また女性や高齢者はアルコール依存症のリスクが高いこともその背景にあります。
【高齢者】
アルコール依存症は多くが多量の飲酒を続けた時に発症しますが、高齢者は、加齢によりアルコール代謝が低下するなどの変化が怒るため、少ない量でも発症するリスクが高まります。
定年退職後にアルコール依存症になるケースも少なくありません。また、団塊の世代が高齢者となっているのも、高齢者の患者数増加に拍車をかけています。
【女性の特性】
女性はアルコール代謝が遅いことや、女性ホルモンの影響などにより、男性に比べてアルコールによる肝機能障害などが出やすいことが、わかっています。また、男性より少ない飲酒量や飲酒期間で、アルコール依存症になりやすいこともわかっています。
まとめ
アルコール依存症は、専門機関で治療を受ければ、回復は期待できます。自分や家族のアルコール依存症が疑われる場合、スクリーニングテストなどを活用して、早めに気づき対処することが大切。重大な病気のリスクを回避し、健康で元気に生きることを目指します。
アルコール依存症からぬけ出すための治療や周囲の対応については、次回お伝えする予定です。
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