賢者の目 Vol.18

動物の地震予知(前編)

犬と猫たちの「異常行動」から地震を予知したい

[2016/5/19 06:00 | 太田光明]

このたびの「熊本地震」に際して、被災された方々に心中よりお見舞い申し上げる。

地震国に居住する私たちは、過去に大きな地震が起きるたびに、甚大な被害を受けてきた。そして、そのたびに尊い人命を失ってきた。突然襲ってくる地震を避ける最良の方法は、その場から一時的に逃れることである。「いつ」「どこで」「どの程度」の地震が起こるか判れば、尊い人命をこんなにも多く失うことはない。科学者を自認する者のひとりとして、専門外ではあるが、来るべき地震を予知したいと念じて、研究を重ねてきた。その一端を紹介したい。

大きな地震の前触れとして発生ないし知覚されうる、生物的、地質的、物理的異常現象を「宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)」と言い、古来より多くの言い伝えが残されている。1995年に起きた阪神・淡路大震災(平成7年1月17日午前5時46分52秒)前に目撃された宏観異常現象を集めた弘原海清編「阪神淡路大震災前兆証言1519!」(東京出版、絶版)には、広範な情報が記載されている。

この書籍のなかには、犬と猫の「異常行動」も記されている。著者らも2度にわたり、実際に現地調査を行っている。その結果、犬の21%と猫の27%に異常行動があったことがわかった。「異常行動」の内容は、「犬がやけに散歩をせがむ」「猫が暴れ出す」などのほか、犬と猫の両方で「違う場所で寝る」という行動が見られた。「異常行動」は、いつもの行動と明らかに異なる行動のことであり、日常の行動をよく知っている飼い主による情報である。

例えば、単に「吠える」ことではなく、いつもはほとんど吠えない犬が珍しく吠えたことを「異常行動」と定義した。では、そうした「異常行動」がいつ頃から見られるのだろうか。早いものでは、地震3カ月前の猫の「異常行動」もあるが、「数時間前」が圧倒的に多い(下図参照、弘原海清編「阪神淡路大震災前兆証言1519!」から)。

また、東日本大震災では、数時間から数分前に「異常行動」が見られたが、その割合は、犬で236頭(1259頭中)・18.7%で、猫で115頭(703頭中)・16.4%と阪神・淡路大震災に比べると明らかに低い。これは、直下型の地震とそうでないものとの違いかもしれない。東日本大震災前の動物の「異常行動」については、学術誌Animalsに詳しく述べた。

学術誌Animalsには、犬や猫だけではなく、鶏(産卵)や牛(乳牛)の異常についても、詳しく報告した(図、Animalsから改変)。茨城県、神奈川県、静岡県の3カ所で調べたところ、震源地に比較的近い埼玉県の鶏の産卵率が2週間以上前から明らかに低下し始め(上段)、茨城県の牛の乳量は1週間前から減少し(中段)、数時間前に犬や猫の異常行動が発現(下段)するとのものであった。

これは動物が大きなストレスを感じた結果と考えれば、生理学的には説明がつく。しかし、動物が何を感じ取って、ストレス反応を示したか、に関しては現時点では不明である。過去の言い伝え(Wikipedia「宏観異常現象」)を参考にすれば、どの動物も何らかの「異常行動」を起こしていることになる。動物が共通して「異常」と感じるものの一つに「電磁波」がある。現在、私は、「電磁波異常」が動物のストレス反応を起こすとの仮説のもと研究を重ねている。

このとき、犬や猫の「異常行動」は、「地震が来るのか? 来ないのか?」あるいは「どの程度の地震か?」など最後の判断に大いに役立つことを述べたい。

次回は、愛犬や愛猫の首輪にワイヤレス活動量計をつけて、実際に「異常行動」を計測する方法をご紹介しよう。

太田光明昭和23年3月7日生まれ。東京農業大学農学部教授、並びに麻布大学名誉教授。International Society for Animal-Assisted Therapy 副会長。「大地震の被災動物を救うために:兵庫県南部地震動物救助本部活動の記録」等、著書多数。